最高の異世界の過ごし方

ユラ春歳

第1話 最高の幼女との過ごし方

その時俺は、唐突に頭を揺さぶられるようにして目覚めた。

しかし視界は暗い。まるで何も見えない。

と、その瞬間…。

 

(グリグリグリグリ!)


なんだ、俺の顔の前で何かがグリグリしている。


(グリグリグリ、グリ、グリリ!)


うわっ、途中でリズム変えてきやがった。

 

このっ、やめろ!

 

俺は顔の前の何かを振りほどこうとしたが、身体が動かない。

どうにかして身体を動かそうとしていると、俺の顔の前でグリグリしていた何かが、急に笑い出した。


「ギャハハハハ、ガハハハ!」

 

うわっ、びっくりした。

なんだ、子供の声? おーい、どいてくれ。俺の顔はグリグリするところではないんだよ、って… 声も出ない。

 

あせった俺が声を出そうとしたり、身体を動かそうとしている間にも、顔の前の何かは相変わらずグリグリし続けている。

 

(グリグリグリ!)


「ガハハハハ!」


ああ、クソうっとうしい! 俺の顔はグリグリする場所じゃねえ!

何が何だか分からぬまま、俺の怒りがピークに達しようとしていた時、突然視界がパッと明るくなった。


「いけませんよ、お嬢様。そのように他人に陰部をこすりつけてはいけません」

 

 なんだ、女性の声…? しかし、さっきの子供とは別の声だ。


「うるさいのお、離せエリゼ! なぜいけないのじゃ」

 

 くそっ、眩しくて何も見えない。


「汚いからです」

 

 おいそういうことじゃねえ。


「むう、それなら仕方ないのう…」

 

 そっちもそっちで納得するんじゃないよ。

 しばらくして、俺の目がようやく光に慣れてきたころ、俺を覗き込む二つの影がぼんやりと見えてきた。


「おお! 起きたかの人間」

 

 なんだ、桃色の髪の幼女と、ブロンドの女性…?

 目の前の幼女の方が、俺の頬をペシペシと叩いている。

 そうか、俺は仰向けで倒れているんだな。


「むう…喋らんのう。おい人間よ、なぜ喋らん」


 喋りたくても声が出せないんですよ。

 と、幼女に伝えたくても声が出せない。


「お嬢様。その男は喋りたくても声が出せないのでしょう。見たところ、まだ精神体に慣れていない様子。何せ、。」


…は? おいおいちょっと待ってくれよ。何? 誰が死んだって? なんだこれ、何かのドッキリか? いや、だって俺ほら、まだ生きてるし、意思もあるんだぜ。


「むう、何とかならんのかエリゼ。これでは話すらできん」

「お任せください、お嬢様」

 

 そういうとブロンドの女性は、右の掌を俺の方に向けた。


「はあっ!」


 エリゼと呼ばれるブロンドの女性が叫んだ瞬間、彼女の掌から放たれた光の粒が、  俺の身体を取り巻くようにして集まってきた。


「私の精神性を少し分けました。これで自由に動けるはずです」

 

 と、その瞬間。

 

 ガバッ! と俺はまるで体操選手かのように跳ね起きた。


「うおぉ、びっくりしたのう…」

 

 俺は跳ね起きるやいなや、びっくりした様子の幼女の両肩をがっちり掴んだ。


「おい、俺が死んだってどういうことだ!」


 すると…ヒヤリ。

 俺の首筋に何やら冷たいものが触れ、全身に悪寒がはしった。

 恐る恐る振り向くと、先ほどのエリゼと呼ばれる女性が手を指でっぽうの形にし、 俺の首筋に突き付けていたのだった。


「おい、誰がお嬢様に触れていいと言った。貴様など一瞬で消し炭にできるのだぞ」

 

ま、マズい。これは冗談で言ってるんじゃない。本気だ。

だってめちゃめちゃ怒った顔してるもん。と、とりあえず謝っておこう。


「す、すまない。悪気はなかったんだ、許してくれ」

 

 俺は幼女から両手を離し、掌を合わせて謝罪のポーズをした。


「よい、気にするな。貴様の焦りようは分からんでもない。それから、エリゼも手を離してやってくれ。こやつはお兄様からの贈り物だ、傷つけるわけにはいかん」

 

 おいおい、なんだよ贈り物って。それに、俺が死んだって話もまだ解決していない。

 とにかく分からないことだらけだ。


「…お兄様の贈り物って?」

「ん? うーむ。どこから話したものかのう…」

 

 桃色の髪の幼女がうーん、うーんと両手を組んで考え込んでいると、


「お嬢様」と、エリゼと呼ばれる女性が助け舟をだした。

「ひとまずフィウス様に会わせるのはいかがでしょう。説明はその後ででも」

「おー! さすがエリゼ、名案じゃのう。よし、そうするとしよう」

 

 そういうと幼女はガバッと起き上がり、俺にビシッと指さした。


「起きろ人間。これからお兄様に会いに行くぞ!」

 

 それだけ言ってしまうと、幼女は「ガハハッ!」と笑いながら走り去ってしまい、やがて見えなくなった。

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