僕はアンテナ人間 受信型

@baibaisan

第1話 僕はアンテナ人間受信型

「ヒメちゃん、おっす〜笑」

「お、おはよう」

「お前俺のヒメに挨拶すんなよ〜」

「わりぃお前のヒメ寝とったわ笑」

「ふざけんなお前笑、ヒメ気悪くしたらごめーん。またねー」


最初に挨拶した男を後ろから来た男が推しながら自分のクラスへと向かっていく。

悪気を持っていないのはわかるが何度も繰り返されるこの手のいじりにため息が出た。

山田 キサキはれっきとした男だ。

遠目で見ようと近くで見ようとまず女性に間違うことはない。

特に中性的でイケメンということもなければ髪型を伸ばしているわけでもない。

確かに肌が白く綺麗だと褒められることが多々あるがそれも褒めるところがない顔から無理やりお世辞を出した結果だろう。

ならば中身が女性なのかといえばそういうわけでもない。

ではなぜヒメと呼ばれるのか。

まずは名前だ。

キサキというどちらかといえば女の子に当てられるような名前がよくなかった。

母親が肌が白く女の子っぽいということで家族の反対を押し切ってつけた名前だ。

小学生までであれば通用したかもしれないが中学生の今となっては多少違和感がある。まあ、名前が女の子っぽいだけで通りすがりの知らない同学年がヒメというあだ名で呼んでくるわけがない。



アンテナ人間

世間ではそう呼ばれている。

いわゆる新人類であり成長期の途中に首から突き出るように骨が伸びるのが特徴で

頭と背中の間にぼこっと少し骨が浮き出ている。

彼らはアンテナのように自分の考えを送信したり人の考えを受信できるという特殊能力があった。

送受信の個人差があり送信が得意な人は送信型、通称オス型と呼ばれ

受信が得意な人は受信型、メス型と呼ばれた。

それは骨の出っ張り具合が送信型の方が大きく受信型の方が小さいもしくは凹んでいるからというのもあったが男女差(男は送信型、女は受信型)によってなりやすい型があるというのが多方の理由だった。



薄々察しているかもしれないが

かくゆう僕も1万人に1人とも言われているアンテナ人間である。

しかも受信型 -メス型なのだ。

突然人の考えが頭に流れ込んでくるといった現象に悩まされ病院へ担ぎ込まれ

診断された。

新人類であるアンテナ人間へ憧れは正直あったが本当になるとは思わなかったので

若干の興奮を覚えながらネットを徘徊していたがアンテナ人間としての生活を見たり

心無い差別的な批判を目にするたびに心は萎れていった。

受信型は考えが読める。

自分の考えを送る送信型の能力と比べてこの能力に嫌悪感を覚える人間は多い。

人から距離を置かれるのは当たり前で友達が離れていったり家族がバラバラになってしまった人も多いそうだ。


周囲のプライベートが侵される。

そんな危険を感じたのか珍しいアンテナ人間を保護するつもりだったのかは知らないが中学の入学式で全校生徒に山田 キサキという名前と共に吊し上げを受けた。

どんな最悪な中学校生活になるのかと身を震わせていたが

多少のからかいを受ける程度で済んでいる。


正直ネットにあるような体験ではないことに安堵を覚えたいところだが

この「ヒメ」と呼ばれ女子のような扱いを受ける。

というからかいが少しずつ最近ひどくなってきていることには目を瞑ることができない。そろそろ本気で辞めさせなければ!


『ヒーメ♡おはよう♡』

そんな意思を砕くように

脳内に響くバカにしたような甘ったるい声を受信する。

普通の人間から受け取った思考はここまで綺麗には聞こえない。

この意思は”送信”されたものだ。


山田 キサキをアンテナ人間差別から守ってくれた恩人であり

逆に”ヒメ”扱いを学年中に半年の間で浸透させた張本人


永田 ミコ


彼女の不適な笑みを受信した。

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