第3話 食事

 食事が上手くできない。文化的・社会的な押さえつけにより、痩せているのが良いという視野狭窄が幼いころからある。小中高生の時の私はずいぶん痩せていて、特に小中学校の時は給食を全て食べることがどうしてもできなかった。すべて食べたら食べすぎだと思われるかもしれないと不安があったし、学校では常に鉛のようなものが体にのしかかっているようで常に見られているという不安感があった。毎日必ずご飯を三分の一は残していた。いつも飢えていたと思う。周りの人は自分より太っているのだから自分は周りの人よりも上なのだという歪んだ考えを持っていた。毎年やせすぎと出ていた健康診断の体重判定が、ある年にやせぎみの判定に変わるととてつもない危機感が押し寄せた。自分が太っているという現実がどうしても受け入れられなくて耐え難い。社会からの痩せ至上主義の押し付けという圧力もあるが、それとは正反対のたくさん食べなくてはいけないという圧力もある。両方から自分がプレスされている感覚があって苦しい。正反対の圧力とはたくさん食べるべきという圧力だ。食べないと、ダイエットしてるの?食べなさすぎ!もっと太らなきゃ!と言われる。社会には食べる人がモテるというコードがあると思う。愛され女子の秘訣という雑誌コラムには必ずと言って良いほどおいしそうにたくさん食べることと書いてある。美味しそうにたくさん食べて、でも痩せていてスタイルがいいというのは矛盾していますが、と思ってしまう。どれだけ運動しろというのか、それとも見えないところで吐き戻せというのか。たくさん食べることを是とされることは、瘦せていることを是とされることの裏返しだと思っている。ガリ勉よりも、勉強をさぼりがちで抜けているおバカさんのほうが愛されるのと同じだろう。勉強しないことを是とされるのは、勉強することが是とされることの裏返しだ。自分が相対的に偏差値を上げるには二つの方法がある。自分が勉強を頑張るか、ほかの人が勉強をさぼるかの二つである。自分が相対的に痩せるには二つの方法がある。自分が痩せるか、ほかの人が太るかの二つである。自分が相対的に痩せたいからたくさん食べる人が好きというきわめて自己本位な考え方が世の中にははびこっている。

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