APTとファール

今季のJリーグを見る上でキーワードになる“APT”について開幕からの2節の試合を踏まえて考えていきたい。


①APTとは

APTことアクチュアルプレーイングタイム(Actual Playing Time)とは『ボールが外に出てからスローインやゴールキック、コーナーキックで試合が再開されたり、ファウルの判定からFKが蹴られるまでなどの時間を除き、「実際にプレーが動いている時間」』*のことを言う。つまりインプレー中の時間のことでAPTが長いほど観戦する側にとっては面白く感じるとされている。


②2024シーズンのJリーグと欧州のAPT

2024シーズンのJ1リーグではAPTが52.8分であったのに対してプレミアリーグは58.2分、リーグ・アンは57.5分、ブンデスリーガは57.3分、セリエAとラ・リーガは55.2分とJ1はAPTが短いことがよく分かる。J1では2020年から年々APTが増加しており、内訳を見るとアウトオブプレーではFKやCKに要する時間が増加している。Jのどのカテゴリーにおいても2011年以降最もAPTが短くなった。(※)


③2025シーズンのAPT増加の目標

昨季のJ1のAPTがプレミアと比較して5分以上短いことに危機感を感じたJリーグの野々村芳和チェアマンの発言の影響もあり、JFA審判委員会はAPT増加を目標とし、「試合の魅力を高めるゲームコントロール」を今季のテーマとして掲げることとなった。


④2025シーズンのレフェリング

APTを増やすという目標を掲げていることが明白なレフェリングである、というのが今季のJリーグだ。今まで取っていたようなレベル感のプレーを流すシーンがよく散見される。ACLで海外でのレフェリングによって多少は目が鍛えられていると自負しているが、それでもレフェリングに不満を抱くような感覚を持っている。単純に言えば今までカードが出るレベルのファールでようやくファールを取られるようなくらいにファールが減っている。ファールが減ってAPTが増加すれば目標通りに行くのだろうが、第1節及び第2節を見ていてそうも行かないのが事実である。

今までは取っていたようなファールを取らずにプレーを進めることによって“ファールを受けた”選手が倒れたままでプレーが進行し、プレーが切れたときに1度止めてメディカルが入るようなシーンが多くある。ファールを取ったらメディカルが入らなくなる、ということではないが、試合のファールの基準によってこういったシーンを減らすことは十分に可能であろう。むしろファールをあまり取らないようにすることによってAPTの減少への歯車を回している可能性は高いだろう。

特に危険なファールについては従来通りの強い姿勢で厳しくレフェリーが対応することが求められる部分であると感じる。ファールを取る基準が難しくなったのでカードが出るファールの基準がより高くなっていると言わざるを得ない。どれだけインテンシティが高くても危険なファールに対しては厳しく対応しないとスポーツとしてのサッカーの継続が難しくなる部分が生じてしまう。誰もが安全にプレーが出来る環境を保つためにもカードを出す基準については2024シーズン以前と変わらずに出して欲しいと思う。


⑤APTを増やすための工夫

ファールの基準を引き上げるような手法以外でのAPTの増加をリーグとして図っていくべきである。

まず第1にプレーが切れてからFKやCKまでの時間を減らすような運用をレフェリーがする必要がある。例えばプレーが切れてからボールを蹴って良いという笛までの時間が長いことやクイックリスタートをあまりしないなどのことがAPTを減少させる要因になる。海外サッカーと比較することは難しいが、肌感覚としてFKやCKにかける時間がかつてのJリーグと比べて長くなったように感じる。レフェリーがクイックリスタートを促すことは出来ないものの、クイックリスタートをしやすいような環境作りやクイックでなくともファールを取ってからFKを蹴るまでに時間がかからないようにレフェリーがすることも必要であると感じる。

2つ目に遅延行為に対して厳しく対応することが挙げられる。例えば交代でピッチを離れる選手がゆっくり歩いたり笛が吹かれてプレーが止まったのに外に大きく蹴り出したりすることに対してレフェリーがカードを出すことを含めて強く対応することによりプレーが切れる時間を短くすることが可能になるだろう。もちろん、このカードを出す基準はどの試合においても同じ基準でなくては不公平なのでJFAで統一の基準を設けることが前提となる運用である。

3つ目はボールパーソンの教育の徹底である。Jリーグを見ていても各チームによってプレーが切れたときにボールパーソンがどのくらいのスピードで選手にボールを渡すかが異なっている。マリノスはこの点においては優れていると思っているが、すべてのチームがそうとも限らない。特にアウェイチームボールのスローイン等の場面ではゆっくりボールパーソンが動くこともある。こういうホームチーム有利なボールパーソンの運用の仕方を是正しない限りはAPT増加に舵を切ることは難しいと思う。すべてのチームがAPTを増加させるという目標を持ってボールパーソンの運用をするべきである。





*  https://www.jfa.jp/respect/heart/news/00012414/

(※) https://jlib.j-league.or.jp/-site_media/media/content/85/1/index.html

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