中学の同級生がM&Aにて主人公の勤める会社を買収し、新社長に就任!?

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中学の同級生がM&Aにて主人公の勤める会社を買収し、新社長に就任!?

俺は佐々木亮介、29歳。小さな専門商社に勤めるサラリーマンだ。


かつては高給取りで派手な生活を送っていたが、会社の業績悪化に伴って給料は激減。今では狭いアパートで質素な生活を送っている。朝食に菓子パンをかじりながら天井のシミをぼんやりと眺める日々が続いていた。




「今日も始まるか……」


そうつぶやくと、ふと昔はこんな生活になるなんて思ってもみなかったな、と過去を振り返らずにはいられない。




出社していつものオフィスに着くと、社長が突如「皆さんにお話があります」と言い、全社員が集められた。そこで発表されたのは、同業界の新進気鋭の企業によるM&Aによって、うちの会社が売却されるという衝撃的なニュースだった。社員たちは動揺し、不安に包まれる。噂ではリストラがあるかもしれないとも囁かれ、誰もが自分の未来を案じ始めていた。




「佐々木さん、今日の午後2時から譲り受け企業の新社長と面談です。相手先の会社へ赴いてください」


同僚からそう告げられると、ついに来たか、と胸の奥がざわつく。皆の不安に共感しながらも、自分自身も危うい立場かもしれないと感じ、何とも言えない無力感を覚えた。




「新社長って冷徹で有名らしいですよ。俺たち全員、切られるんじゃないですか?」


別の社員もおそるおそる耳打ちしてくる。


「……まあ、俺たちがいなくても会社は回るってことか」


そんな自嘲まじりの言葉を飲み込んで、俺は新経営陣がいるビルへ向かった。




そこは馴染みの古いオフィスとはまるで違い、洗練されすぎていてどこか無機質だった。面談の部屋に案内されると、背を向けて立っている女性がいる。名前は――白井沙耶香。聞き覚えのないような、でも妙に胸に引っかかる名だった。




「こんにちは。白井沙耶香です」


その姿を見た瞬間、俺は息をのんだ。そこにいたのは中学時代の同級生、松井沙耶――のはずなのに、今は「白井沙耶香」と名乗っている。


「……沙耶?」


思わず旧名で呼ぶと、彼女は短く答えた。


「ええ。昔の名前は松井沙耶。でも今は関係ありません」




冷徹そうな声と毅然とした態度。あの頃、明るい冗談を言い合っていた面影はそこにはなかった。


「感情を仕事に持ち込むつもりはありません。それが私のルールです」


そう言い放たれた面談は、味気ないまま終わった。俺は複雑な思いを抱えたまま会議室を後にする。




「沙耶……いや、白井沙耶香が、どうしてこんなふうに変わってしまったんだろう」


中学時代、いつも明るくて、冗談を言えば必ず笑い返してくれた彼女の姿を思い出しながら、今の冷たい態度に戸惑いを隠せない。




社に戻ると、同僚が興味津々に聞いてきた。


「新社長ってどんな人でした?」


「……冷たい人だよ。すごく、な」


そう答えながらも、なぜ彼女がああなったのか知りたいと思い始めていた。




翌日、噂好きの同僚が彼女に関する情報を耳にしたらしく、こんな話をしてくれた。


「新社長、相当複雑な家庭環境だったらしいですよ。離婚した両親に振り回されて、それで仕事にのめり込むようになったとか。会社に人生のすべてを捧げたっていう話です」




彼女が冷徹に見える背景には、そんな過去があったのかもしれない――。初めて知る事実に俺は胸を突かれる思いだった。




その日の夕方、社内を歩いていた彼女を見かける。ひとりで歩く姿が、どこか孤独を背負っているように見えた。思わず声をかける。


「沙耶……じゃなかった、白井社長」


「何ですか、佐々木さん」


相変わらず冷たい表情に一瞬たじろいだが、何とか言葉を絞り出した。


「中学時代の君を覚えています。明るくて、冗談ばかり言ってたあなたが、どうしてこんなふうに変わったのか……」


「今さらそんなことを聞いて、何になるんですか?」


「……あなたの笑顔を見たいと思ったんです。今のあなたには、その笑顔がないから」




一瞬、彼女の表情が揺れたように見えたが、すぐに冷たいまなざしに戻る。


結局、「笑顔なんて、もう忘れてしまった」という短い返事だけが残った。俺はその言葉が頭を離れず、何かできることはないかと行動を起こすことを決意する。




翌朝、自販機で買ったコーヒーを彼女のデスクにそっと置いてみた。


「……これは何ですか?」


「白井社長、最近お忙しそうなので。ほんの気持ちです」


彼女はコーヒーをちらりと見てから、無言で手に取る。わずかに驚いたような表情が浮かんだように感じた。


「お気遣いは不要です。そういったことをされても、私は変わりませんよ」


「それでも、社長の力になれればと思いまして」




冷たい返事だったが、完全に拒絶するわけでもない。そのわずかな手応えが嬉しかった。そこから少しずつ、社内でも彼女の態度が柔らかくなっていったように思う。




「最近の新社長、なんか雰囲気が和らいできた気がしません?」


「わかる。前より話しかけやすくなったよな」


周囲の社員もそんな変化に気づきはじめる。俺は心の底からほっとした。




ある夜遅く、残業をしている彼女を見かけた。会議室には彼女しかおらず、その灯りだけがぽつんと輝いている。


「社長、まだお仕事中ですか?」


「……何か御用ですか?」


書類に視線を落としたままの彼女に、心配になって声をかける。


「ただ、遅くまで働いていらっしゃるので。少しは休んだほうがいいんじゃないかと思いまして」


「大丈夫です。これが私の役目ですから」


そう言いながらも、彼女の手は一瞬止まった。ほんの少しだけ疲労の色が浮かんでいるように見えた。




その後、社員の誕生日を祝うささやかなパーティーを提案してみた。普段は興味を示さないと思われた彼女も、なんとなく輪に引き込まれていく。


「社長もぜひご一緒に」


「……ええ、それでは少しだけ」


彼女が席に加わると、場がいっそう和やかになった。俺は中学時代の思い出を思い出し、何気なく話を振る。


「そういえば、昔クラス全員でケーキを作ったことがありましたよね」


「……ああ、あの時はケーキが崩れて大変でしたね」




彼女は思い出したようにクスリと笑う。それを見て、社員たちは驚いたような顔をする。彼女が笑う姿は、みんなほとんど初めて見る光景だったからだ。




そうして少しずつ社内の雰囲気が変わり始めた矢先、経営統合の影響で会社の重要プロジェクトが停滞する危機が訪れた。取引先が契約内容を再検討し始め、社員たちは混乱する。


「……どうにか対処しなければ」


冷静を装う彼女だったが、その表情には不安が混じっているように見えた。俺は意を決して声をかける。


「社長、僕に――いや、俺に手伝わせてください。一緒にこの状況を乗り越えましょう」


「……これは簡単な問題ではありませんよ」


「分かっています。けれど、今こそ社員全員の力を合わせる時です。どうか、俺たちを信じてください」




そう言うと、彼女はほかの社員たちを見渡しながら、小さくうなずいた。


「……分かりました。私も、皆さんを信じます」




その日から俺はリーダーとなり、社員たちと共にプロジェクトの再建に取り組んだ。会社の存続をかけた挑戦だ。みんな必死に努力し、徹夜作業の末、なんとか成功へとこぎつける。取引先も納得し、会社は危機を脱した。喜びに包まれるオフィスのなか、彼女がまっすぐこちらに歩み寄ってきた。




「佐々木さん、本当にありがとうございました。あなたの力がなければ、ここまでたどり着けなかったと思います」


「いえ、皆さんがいたからこそですよ。そして……社長がいたからこそ、です」




そう言うと、彼女の目にはこれまで見たことのない優しさがにじんでいた。


「……そんなふうに言ってもらえるなんて、少し照れますね」




俺は一呼吸置いて、意を決して口を開く。


「白井社長、いや……沙耶香。俺はずっとあなたの笑顔を取り戻したいと思っていました」


沙耶香は驚いたように目を見開くが、すぐに穏やかな微笑みを浮かべる。


「……それなら、これからも私のそばにいてくれますか?」




その問いかけに、俺は力強くうなずく。彼女は昔のように、本当の笑顔を取り戻していた。




それから数日後、沙耶香に屋上へ呼び出された。夜風が吹き抜ける中、彼女は少し緊張した面持ちで口を開く。


「亮介……私、あなたを副社長に任命したいと思っています。これからも一緒に、この会社を支えてくれませんか?」


「もちろんだよ、沙耶香。俺も君と一緒に、この会社をもっと素晴らしいものにしていきたい」




そう答えると、彼女は少し恥ずかしそうに笑った。


「……ありがとう、亮介」




夜景を見下ろしながら肩を並べ、俺たちは新たな未来へと歩き出す。かつては笑顔を失っていた彼女と、希望を失いかけていた俺。けれど今、俺たちは仲間とともに、新しい一歩を踏み出そうとしているのだ。

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