精神崩壊前夜
榎木祐
落下
まだいける、大丈夫、きっと大丈夫だ。
こんなことを考えてからどれだけ経っただろう。この気持ちもきっと本心ではない。でもそれすら今の自分にはわからない。そう考えた刹那、左目から血液が溢れていった。
自分は今から飛ぶ。でも、泣きながら飛ぶなんて、まるで絶望しているみたいじゃないか。自分の意思で飛ぶのを体は拒んでいる。矛盾の上に成り立っていることの何が楽しい。早く飛んでしまわないと。この忌々しい肉体を解放してあげる、いい機会だというのに。
そういえば、誰かが「天国にいけば、地上にいた頃の罪を赦してくれる」といっていた。死によって罪が浄化され、その罪を神が赦すことで永遠の安息を得られるらしい。もし神が本当にいるのだとすれば、今からする行いも、これまでの業も許してくれるだろうか。きっと僕は地獄行きだ。生きたくないから死ぬ、それだけの理由で神は赦してくれるのだろうか。
あと一歩、だったのに。思ってしまった。『赦されるはずがない』と。
赦されるために死ぬのに、これでいいんだろうか、そう思ったら異常に足がすくみ止まってしまった。自分は何もしていない人間だ。何かを成し遂げて死んだ人や、目標を持って生きている人とは違う。ただ諦めて、傷つけ、裏切られて、ここにいる。まあ裏切られたのはしょうがない。因果応報だ。思い返してみれば酷い人間だった。自分の思い通りにならなければ、他人の心を蹂躙し、ことごとく破壊していった。「自分は正常だ。こんなことになったのも周りの人のせいだ。周りの人の質が低いからに決まってる。」そう言いふらした。きっと思い上がっていた。この世は自分中心で回っていると。だからこそ、自分の言葉は他人を傷つけないと過信した。
馬鹿馬鹿しい。そんな声も聞こえそうだ。こんな矛盾で満ち溢れた人間だったとは。ここまできたら笑えてくる。こんな最低な人間ならばさっさといなくなればいいんだ。何を迷っている。これは赦す、赦されないという問題ではない。深呼吸をしたら、頭が冴えてきた気がする。ああ、こんなにも空が綺麗なのはきっと憎悪とか罪悪といった感情を抱くモノがいないからだろう。なら自分が汚してやる。死んだら空に行く、とかいうのなら今すぐ逝って汚そう。自分だけが汚いのは不平等だ。自分と同じように苦しんでしまえ。そんな呪いをかけ飛んだ。
精神崩壊前夜 榎木祐 @RIYU_B
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