発情期アルファ貴族にオメガの導きをどうぞ

小池 月

プロローグ 

 アドレア国は大陸の内陸に位置する乾燥と寒暖差の気候変動が激しい国だ。国土の半分が砂漠地帯でもある。それ故に豊かとは程遠い国だった。


 百年前。もともとの厳しい気候に干ばつが重なりアドレア国内が飢饉に陥った。


 苦しむ国民を救済すべく、アドレア国は周辺国に支援を求めた。しかし、豊かな自然に恵まれている周辺国は助けてくれなかった。

 他国から見放され孤立したアドレア国は、国民を守る最後の手段として『恵みの神』に助けを求めた。もう神にしか頼れなかった。


――どうか我が国を豊かに。国の民が食べるものに困らない生活を――


 アドレア国王と上流貴族たちが一昼夜絶え間なく祈りを捧げた。すると二日目の早朝に神壇が淡い光に包まれた。

 そして神殿内に声が響いた。


『国を救うのは神の力ではない。人の力でどうにかせよ。だが、見捨てるのも忍びない。神から助けを与えよう。アドレア国にアルファを授けよう。アルファは人間であるが、全てにおいて卓越した能力を持ち、国の救いになるであろう』


 神の言葉にその場にいる皆が歓喜した。


「ありがとうございます! 偉大なる恵みの神よ!」

『喜ぶにはまだ早い。アルファには弱点がある。アルファは発情期という獣の性を持つ。この発情期は番になるオメガにしか癒せない。オメガはアルファが生み出す。気に入った人間一人だけを自分の『番』としてオメガに作りかえるのだ』


 アルファにオメガ、番という聞きなれない言葉に場が静寂した。神の声が続いた。


『唯一、決めた人間のうなじを噛むことで、アルファのフェロモンを流し込み、人をオメガに変える。オメガはアルファと共に生き、獣の性である発情期を癒す。アルファは人の世の発展に役立つだろう。だが、このオメガが居なければアルファは正気が保てない。さあ、どうする? 神の力を借りるか?』


 アドレア国王は、神に跪いてアドレアの意志を伝えた。

「それで国が、国民が救われるなら全てを受け入れます。できればアルファの苦行は王族や貴族に与えてください。平民にこれ以上の苦痛は与えないでください」

 神はこの願いも聞き入れてくれた。


 それからアドレア国にアルファが誕生した。アルファの功績で国は数十年で見違えるほど発展し、アドレアは大国になった。

 豊かになった。幸せだ、と国民が笑顔になった。飢えることがなくなり国中が幸福になった。


――その文明の変化に付いていけない者たちを除いて。


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