「彼氏くん、見てる?w」というNTR動画が送られてきたので「DQNくん、見てる?w」というDQNの彼女とイチャイチャしている動画を送り返してみた

大田 明

第1話 NTR動画

 俺の名前は円城裕次郎えんじょうゆうじろう

 公立横島よこしま高校に通う二年生だ。

 友人は少なく、教室ではいつも一人ぼっち。

 もう慣れているので寂しいとも思わない。

 いてもいなくてもどっちでもいい、俺はそんな存在なのだ。


「おはよー。昨日のSNS観た?」

「おはよ恵。あれ面白かったよね!」


 朝。

 教室に入ってくる女子が一人。

 彼女の名前は東恵あずまめぐみ

 長い黒髪でスタイル抜群、人気も抜群という美少女。

 彼女がクラスに来ると、自然とクラスメイトが集まる。


 東恵はクラスの中心人物で、誰にでも笑顔を振りまくクラスだけではなく学校のカーストトップクラスの女性だ。

 男子に告白されているところは何度も聞いたことがあるし、何度も見たことがある。

 あれだけ可愛いとモテて当然だろう。

 俺は教室の端から彼女を眺めるしかない存在で、きっと交じり合うことはない。

 過去の人間と未来の人間が出逢うようなものだ。

 普通に考えてあり得ない。


 しかし、普通にあり得なかったとしても奇跡というものが起きることもある。

 そして奇跡はすでに起こっているのだ。


 クラスの中心になっている美女はこちらに小さく手を振る。

 俺は会釈だけして窓の外に視線を移す。


 そう、俺達は付き合っているのだ。

 クラスどころか恵と仲の人以外には秘密にしているが、恋人関係にある。


 何故俺が恵と付き合うことになったのかというと――


 あれは四ヶ月ほど前のことだ。

 

 その日、俺は位置情報RPGのために夜の町を彷徨っていた。

 夜に出てもそこまで遅くならなければ親も何も言わない。

 数少ない自分の趣味で、これ以外のゲームはやっていない。

 時間が許す限りゲームを堪能しようと、携帯を見ながら歩いていた。


「こっちの道か」


 暗い夜道を進んで行き、位置情報ではさらに暗がりの方にモンスターがいることを示していた。

 目標地点はすぐそこ。

 このモンスターと戦ったら帰ろう。

 そう考えていた時だった。


「放して!!」

「まぁそういうなよ姉ちゃん。金ならあるからさ」

「お金とか興味ありません!」


 女が男に腕を掴まれ、何か言い合いをしている場面に遭遇する。

 面倒だな。

 迂回して行こうかと考えるも、目標地点の公園で言い合いをしているではないか。

 どうしたものかと悩みながら二人のことを眺めていると、女性は見たことがあることに気づく。


 東恵だ。


 まさかこんなところで同級生のトラブルに鉢合わせするとは……

 流石に黙って帰るわけにはいかないよな。

 男はサラリーマン。

 酔っているのか、顔を赤くして東恵に迫っている。

 俺は携帯で二人を撮影しながら、様子を窺うことに。


「いいからさぁ、金は払うって言ってんだろ」

「だから、そういうのに興味ありませんから」

「え、いい女だから沢山出してやるぜ。5万でどうよ?」

「だから要らないって言ってるでしょ!」


 そろそろ良いかな。

 俺は携帯を二人に向けながら近づいて行く。


「あの、お取込みのところ悪いんだけどさ」

「ああ、何だ?」

「売春を強要しているみたいだけど、犯罪なのを理解してる? ちゃんと証拠も押さえてるから、警察に行こうか」

「あ、ああっ!?」


 サラリーマンは怯み、東恵から手を離す。


「じ、冗談じゃねえか」

「冗談かどうかを決めるのはこの子だよ。あんたは売春を強要した証拠はあるんだから」

「……嘘だよな?」

「だからそれを決めるのはこの子。で、どうする東?」

「あ、えっと……」


 自分の事を知っていることに驚く東。

 まぁ目立たない俺のことなんて知るはずもないか。

 彼女は少し悩むようなそぶりを見せるが、首を横に振る。


「別にいいよ。被害は出てないわけだし」

「そ、そうか。じゃあな!」

 

 そそくさと走って行く男。

 俺はゲームアプリを再起動させ、モンスターとの戦いを始める。


「ありがとう」

「いや、たまたま通りかかっただけだ」

「たまたまって……こんなところ、何で通りかかったの?」

「ん」


 携帯の画面を見せてやると、東は「ああ」と納得する。


「ゲーム好きなんだ」

「これだけな。他にゲームはあんまりしない」

「そっか……あ、名前教えてくれない。君の名前」

「円城裕次郎」

「裕次郎……なんかカッコイイ名前だね」


 俺はゲームを操作しながら答える。


「俺の祖父が好きな俳優さんの名前だって。祖父が死んだ数日後に俺が生まれたからそう付けたって。だったら祖父の名前から取ればいいのにな」

「ふふ、なんだか面白い名前の付け方」

「だろ。まぁ困ったことも無いし、今はこの名前が好きだからいいんだけど」


 笑う東は可愛くて、俺は微笑を浮かべる。

 ゲームを終わり、そこでようやく彼女と正面を向いて会話をした。


「私は東恵……って、知ってる風だよね」

「有名人だからな。東は」

「そうなのかな?」

「そうだと思う。100人中101人は知ってると思う」

「1人はどこから現れたの!?」


 俺の冗談にクスクス笑う東。

 やっぱり容姿はずば抜けているな。


「名前の付け方もだけど、面白いね裕次郎くんって」

「名前を付けたのは俺じゃない。両親だ」

「そっか。そうだよね」


 こうして交じり合うはずの無かった俺たちは何の因果か知り合い、そしてこれから一ヶ月後に彼女から告白されて付き合うこととなる。

 この時はまさかそんなことになるなんて夢にも思っていなかった。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 学校では恵と話すことはなく、いつも帰宅は一人きりだ。

 でもゲームをしながら帰って来るので、むしろ一人の方が行動しやすい。


 晩御飯を食べ、ベットで腰を下ろす俺。

 携帯のゲームを起動し、今日も外を歩くかと思っていた、そんな時だった。


「…………」


 突然、動画が送られて来た。

 登録していない者から送られてきたようだ。

 だが俺は送って来た人物のことを知っている。


 根鳥修二ねとりしゅうじ

 学校内では悪で有名な男だ。

 赤く染めた髪を逆立て、いつも眉間にしわを寄せている。

 同じ二年だが三度も停学処分を受けている、どうしようもない男で教師も扱いに困っているような人間。

 

 俺は溜息をつきながら、彼から送られて来た動画を開いてみる。


 動画にはどこかラブホテルだろうか、豪勢なベットの上で根鳥が恵の肩を抱いているところから始まっていた。


『彼氏く~ん、見てる? 今からお前の彼女を抱きま~す』

『ごめんね裕次郎くん。私、根鳥くんのこと好きになっちゃったの』


 俺はそこで動画を止める。

 気持ち悪くて観たくもない。

 観る価値も無い動画を観たところで時間の無駄だ。

 

 俺は一本の動画を根鳥に送り返し、鼻で笑う。

 そしてゲームのために夜の町へ繰り出すことにした。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 根鳥は自分の部屋で大爆笑をしていた。


 恵の彼氏、悔しがっているだろうな。

 悔しくて悔しくて、俺のことを恨んでいるはず。

 だが俺にムカついたところで、こっちに手してくることはない。

 だって皆、俺が怖いから。

 何をやっても俺は許される。

 誰にも俺を止められないんだよ。


「ぎゃはははは! これだから止めれねえんだよな、他人の女取るのは」


 他人を傷つけ、そして自分に対して何もできないことに愉悦を覚える根鳥。

 人間として最低な男ではあるが、恵が落とされたように、女性からはモテる男である。


「ん、何だ」


 クツクツと笑いながら鳴った携帯を確認する根鳥。

 送り主は裕次郎。

 彼から動画を送られてきたようだ。


「何の動画だ? てめえを許さねえ! とかそんなのか。そうだったら拡散してやろ」


 下品な笑みを浮かべながら動画を再生する根鳥。

 だが次の瞬間、彼の顔は凍り付く。


「え……星那せいな?」


 動画に映るのは裕次郎と根鳥の彼女であるはずの川島星那かわしませいな

 星那は金髪のロングで、見た目はギャル。

 いつも手袋をはめているのが特徴の美少女。

 恵以上の人気者で、校内でもダントツで美人と言わている女性だ。


 そんな彼女が裕次郎に肩を抱かれ、嬉しそうに彼の胸に頭を預けている。


『根鳥くん、見てる? 今からお前の彼女とイチャイチャします』

『根鳥。私、裕次郎のこと好きなんだ』


 そう言って動画の中の二人はキスを始める。

 額に青筋を立て、目の端に涙を溜めながら根鳥は怒り狂う。


「星那ぁ!? なんで……なんでなんだよぉおおおおおおおおおおお!!」


 夜の部屋に絶叫がこだまする。

 だがどれだけ泣き叫んでも現実は変わらない。

 根鳥の彼女は、動画の中で裕次郎とイチャイチャしている。


『あ、これ以上は見せるつもりないから。この後も楽しむから、じゃあ』

『根鳥。あんたより裕次郎の方が1000倍良い男だよ』


 そこで動画は止まる。

 携帯を地面に叩きつけ、根鳥は涙を流してベットで悲しみに震える。


「星那ぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 そもそも何故こんなことになったのか。

 それは裕次郎と恵が付き合いだしてから一ヶ月が経った頃のこと――

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