人間

椎名これぽよ

第1話

私は今日も地球を見ている。


私の担当は、工藤直人である。工藤は、日本という国で大学に通っている。大学生の観察は、なかなか面白い。

とにかく生活が不規則なのだ。そのため、担当中は気が抜けない。いつになったら寝るのか分からないし、いつ起きるかも気分次第だ。思いつきだけで色々なことを試すし、何もしない日もある。まるで、生まれたての赤ん坊のように自由なのだ。

しかし、退屈な仕事には変わりない。

画面を見ながら、随時報告を行えばよいだけなのだ。私たちの送った情報は、全て自動的に集約され、解析される。人工知能は、そのデータを取り込み、日々学習している。

相当なデータが集まっているはずだが、未だに目的である脳機能の解明には至らない。脳の機能が分からない状態で、人工知能が人間を超えることはないという人間もいる。果たして何が正しいのか、不老不死が実現され、食料の生産、供給、その他生命の維持に必要なことは全てが機械化された世界でも、結局分からないのだ。

観察とソウゾウは、神の領域を守る最後の砦である。

私を含め、多くの人間は、観察を生業とした仕事につくことになった。


工藤は、今日十四時に起床し、昼食にカップヌードルを食べた。十四時半にシャワーを浴びた後、十五時半に出掛けた。十六時からマンガ喫茶でクローズを読み、十八時に新宿で仲間と合流し、二十四時現在麻雀をしている。

二十四時丁度になると登が送られてきた。交代の時間だ。報告を済ませると、薬のカプセルが開く。それを飲んで、登に話しかける。

「今日は、しばらく退屈かもしれないぞ。寝ないように気を付けろ。」

登は、答えた。

「あのバカ、また麻雀かよ。下手くそなくせに。」

私は、残念といった様子で返した。

「今日も負けてる。」


家に戻ると、食事を摂り、眠った。

十分後に目が覚めると、散歩に出掛けた。夜の散歩は、ここでは昼間と変わらない。この世界から、変化という概念が失われて久しい。散歩が終わると、街の酒場へ向かった。私たちにお金は必要ないし、時間もたっぷりある。

家で飲んでもいいが、酒場には色々な奴が来て面白い。家で何でも出来る今でも、酒場はなくならない。


「やあ、タム。」

酒場では既にアバとモチュールが飲んでいた。

「工藤の調子はどうだい?」

アバが続ける。

「また麻雀だよ。昨日は訳の分からない料理を作っていて面白かった。」

私は答えた。

「訳の分からない料理ってなんだよ。」

モチュールが笑う。

「大きな亀を拾ってきて、血を飲んだり、煮込んだりしていた。」

私が答えると、モチュールは顔を輝かせながらこう言った。

「それは、スッポンじゃないか。地球にしかいないんだぜ。俺も食ってみたいな。」

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