第2話 メリア
それからというもの、アレンはとてもげっそりとしている。教室の机に突っ伏し、微動だにしない。
それもそのはず…
誘いを断れず、アレンとメリアは食堂へと向かう。
アルレディア教会学院はE型の3階建てであり、
下から、下部、中部、上部、縦はそれらをつなぐ連絡通路に分けられる。1年の教室は下部にあり、食堂は上部とやや遠い。
そんな中、2人の間に会話がないはずなく…
「アレンくんは、趣味とかありますか?いえ、いつも空を眺めているので天体観測でしょうか…。ん?、夜じゃないから星は見えませんね?ではなんで天体観測を?」
会話…と呼ぶには少々遠いものである。メリアが勝手に話を進め、質問攻め。もはや、一方的な取材よりも酷い。
アレンはメリアの少し前を歩き、無視を決め込んでいる。その様子は拒絶よりも呆れに近いだろう。
またもや奇妙な光景に、通りすがる生徒は驚きの色を隠せない。普通ならば、美男美女が会話しているなんとも輝かしい光景のはずだ。しかし、男は常に無表情、女はそれに構わず笑顔で質問している。
異様と言うか、恐怖を覚える光景である。
「アレンくんってなに食べるんですか?
食事しているところ見たことないのでとても気になります!」
メリアは純粋無垢な瞳を輝かせながらそう聞いた。
そんな様子に、無視を決め込んでいたアレンも痺れを切らしたのか、
「スープしか飲まない」
あくまで最低限の返答。これで少しは落ち着くだろうと思っていた矢先…
「え!まさかの健康志向なんですか!
そんな顔して、いや、人は見かけによらないとはいうけれど…
でも、スープってもいったいどんな〜(略)」
またもや質問攻め。懐いている子犬同然のように尻尾をブンブンと振っている。
これは完ッッッ全に地雷を踏んだと思ったアレンだった。
その後も同じようなことが続き、今に至る。
元々死んだような表情だが、今は精気が全くもって感じられない。
無論、その変化に気づく生徒はいないのだが…
午後の授業は実技である。
ヴァンパイアハンターにとって戦闘技術を磨くことはなによりも大切なことだ。
訓練と言えど、1年生は最低限の知識とスキルしか身に付けない。それでもある程度の技量は培わなければいけない。
場所は校舎とは逆側に位置する訓練場で行われる。
天気良好、空気も悪くない。
「我々が扱う武器は長剣、短剣、クロスボウの3種類のうち、今回は長剣による基本的な近接戦闘に慣れてもらう。木刀を使い、二人一組で練習しろ!」
講師の指示に従い、続々とペアができていく。
勿論、アレンにペアなど出来るはずがない。今までも一人で訓練と称してサボってきたのだ。
今回もいつものように端っこの方でサボろうとしたが、
「一緒にやりませんか?」
やはりきた。アレンも今回ばかりはサボれないだろうと感じていた。
人に誘いを無下にするほどアレンも冷徹ではない。アレンですらメリアの図々しさには敵わない。
ため息を吐きながら、しぶしぶ
「構わないよ」
と、短く返答した。
その返しを待ってましたと言わんばかりに、メリアは優しく微笑み、
「お願いしますね?」
どこかからかうような、弄ぶような小悪魔じみた
声色だった。その真意はアレンには分からないが、日頃の彼女をみる限り、剣の腕前はあるようだ。
もしかしたら、アレンを試しているのかもしれない。
アレンは少し顔を強張らせ、
「すぐにバテるなよ」
挑発するようにかえした。
「ええ、舐めないでください。」
負けじと強く返した。
それを合図とし、両者構える。
先ほどのメリアの言葉は見栄を張っているわけではないようだ。
キリッとした表情、両手で木刀を握りしめ、全くブレのない構え。その碧の瞳から放たれる眼光は、いつもの優しい目つきとは違い、鋭く、そのいつもとは違う風貌に、アレンも少し後ずさる。
適当と受け流そうと思っていたアレンだが、
これは本気だと確信し、構えを正す。
他の者たちは一際違う空気を感じとったのか、
いつしか訓練をやめ、その状況に釘付けである。
アレンとメリアの周りにはとても静かだ。
感じられるのは、心地よい風の感触。
いつ始まるのか、緊張感の増す中見守る生徒ら。
その空気を先に切り裂いたのはメリアだった。
地を蹴り一気に駆け出す、真正面からの特攻。
数メートルもある距離が瞬時に狭まる。
アレンはその俊敏さにたじろぎ、防衛姿勢を形成するのに遅れてしまう。その一瞬の隙をメリアは見逃さなかった。
剣を持ち替え、下から防衛を崩すつもりだ。
(これはまずいか?!)と、いつも冷静なアレンも
この状況下ではどうしようもない。
メリアが剣を振ろうとしたその時、
「アフ」
そんなメリアの情けない声と同時にバタンとその静寂の中に響き渡る。
アレンも含め、その場の全員が唖然とする。
なにが起きたのか?それは見ればわかること。
メリアはただコケただけである。
ただ、あの雰囲気の中で、こんなにもあっさりと終わるなんて思ったものなどおらず、それを理解するには少々時間を要した。
メリアが立ち上がり、
「エヘヘ、転んじゃった」
まるで、(*ノω・*)テヘとでも言いたげな仕草である。
とても愛くるしい仕草ではあるが、アレンから出るのはデカいため息だけだった。
「もう一度やりましょう!」
その気力はどこから湧くのだろうかと、疑問に持った一同。
元気いっぱいな少女か、それともただバカなのか。
アレンはメリアという人間を再評価しようとしたが、やはり後者で結論付けた。
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