第3話
灰色の雲が空を覆い、やけに強い風が木々を揺らしていた、その音はわたしの落ち着かない心をさらに引き立てる。
風に吹かれるたびに、昨日のことが鮮明に蘇ってくる。
カフェで薫と目が合った瞬間、彼女の目は大きく開かれ、はっとした表情を浮かべ、逃げるように……いやあきらかに逃げだしてしまった。
急いでカフェを出て「薫!ちょっと!まってよ!」と必死に追いかけたが足が重い、見慣れた薫の背中がどんどん遠くなっていく。
その背中が遠くなるのを見ながら、わたしは不安と焦りに襲われていた。
「はぁ……」
何回目かわからないため息を、朝の教室に吐きだす。
薫、絶対にわたしと門手くんが恋人関係だと思い込んでる……どうやって誤解を解けばいいの?
教室に響く足音が少しずつ増え、気がつけば運動部の朝練が終わる時間になっていた、その中から薫を探してみたけど、彼女の姿は見つからなかった。
薫はホームルームの鐘と同時に滑り込んできた。
「おはよ、今日はちょっと遅いね」
声を掛けると薫は一瞬固まった。そして、目を逸らして、うわずった声で話す。
「あ、おはよー、部活がちょっと長引いてね」
嘘つき。薫が嘘を付くときはいつもこう。
「みんな座れよ」と担任の声で、ホームルームがすぐに始まってしまい、薫と話す時間はなかった。
心のもやもやが晴れず、先生の話は遠くで鳴る雑音のように耳に入ってこない。
一時間目の授業が終わった後すぐに薫に話しかようと決めた。
「薫、ちょっといい?カフェのことで……」
わたしの言葉を遮るように、薫は声をあげる。
まるで真実から逃げる子供のように。
「あー!わたし日直だ!黒板消さないとー!」
昼ごはんの時も。
「薫、一緒に……」
「わー!ごめん、部活のミーティングがあるんだ!ちょっと行ってくるね!」
避けられている。意図的に、避けられている事実が胸を締め付けられる。
どうして?ここまで避ける理由はなに?薫、わたしが門手くんと付き合ってるのとでも思ったの?ねぇ、教えてよ薫。痛いよ。
わたしは、机に突っ伏して泣きそうになっていた。涙が溢れるのを必死に我慢していた。
「木美月さん、大丈夫?」
その声に顔を上げる。門手くんが心配そうに立っていた。
事情を知ってる彼の声が、心の緊張が少し和らげる。
「ううっ……門手くん……」
それと一緒に涙も溢れた。
「わっ、ちょ、ちょっとこっち!」
慌てた門手くんがわたしの手を引く。 教室から出るときに、薫と目が合った。大きく開いたその目からは驚きを感じる。
門手くんが連れてきたのはあの日と同じ校舎裏だった。
「まだ誤解とけてないんだね、大丈夫?」
門手くんは優しい声で話し出す、手にはハンカチが握られていた、
「これ、もう涙拭きな」
「うん……ありがとう」
ハンカチで涙を拭いて話す、今日一日中薫に避けられていることを、また涙が溢れそうになる。
「俺も朝から見てたけど、多分、可愛さんも何か言えないことかあると思うんだ」
おもむろに門手くんは話しだした。
「え?」
「じゃなきゃ可愛さんが木美月さんをこんなに避けることなんてないだろ?」
そうなのかな。薫の立場に立って考えたことなんてできてなかったな。
「ありがとう門手くん……私が話さないと」
でもどうやって話そうと考えていると、「俺が呼び出してみる」と門手くんは協力してくれるみたい。
門手くんと相談して、放課後の計画を立てた。部活の終わる時間に合わせて、薫を待つことに。
午後の授業中、私はずっと薫の後ろ姿を見つめていた、薫は今何を考えているのかな。
放課後は、門手くんの指定した公園で薫を待っつ。わたしの心はブランコで遊ぶ子供たちのようだった。
沈みそうな夕日を眺め、帰っていく子供たちを見送りながら今か今かと待っていた。
「照くんー?」
そう言いながら薫が公園に入ってきた。
「薫!」
薫はわたしに気がつくとキョロキョロと慌てている様子だった、
「も、萌!?なんでここに!」
「薫、お願い、話を聞いて!」
一日中わたしを避けていた薫だったけど、諦めたように肩を落とした。
「……うん」
薫が隣に座り、二人の間にはしばらくの沈黙が流れる。薫と話したいことはたくさんあるのに、大事な言葉が出てこない。
「萌……さ、照くんと付き合ってるんだね」
いきなり、本題を突く薫に心臓が飛び跳ねる。
「違うの!」
思わず大きな声を出してしまった。
「わたしは門手くんと付き合ってないよ、あの日は相談を受けてたの」
「そ、相談?」
薫の声が少し震えた気がした。
「うん。門手くんには、好きな人がいるみたいで」
薫の瞳が揺れる。その様子に、私の心臓が大きく跳ねた。
「その人のことで、門手くんに相談してただけなの。」
「そうだったの?」と薫の表情が柔らかくなっていくのがわかる。
「そっか、よかった」と薫は胸を撫でおろす。
「え?よかったって……?」
「はっ」薫は両手で口を押さえた、「薫?」と聞くと、観念したように話し始めた、どこか恥ずかしそうに、でもどこか嬉しそうに、
「私もね、好きな人がいるの」
その言葉が、まるでナイフのように私の胸を刺す。薫に……好きな人。
もしかして、門手くんのこと好きなの……教室を出るときの視線はそう言うこと?
「誰かはまだ言えない、その人が私の気持ちを理解してくれるか分からないし…」
頬を染めた薫はわたしに微笑みながら言う、
もし薫が門手くんのことを好きなら、私は……そう考えただけで、胸が潰れそうになる。
「明日からはもう避けない?」
わたしの震えながらの問いかけに、薫は柔らかな笑顔を見せた。
「うん、当たり前じゃん!」
薫は立ち上がると、私の手を取った。その温もりに、私の胸が高鳴る。
こんな風に、ドキドキしちゃいけないのに
「帰ろ?」
「うん」
夕日が沈んだ後の街を歩きながら、薫の晴れ晴れとした笑顔を見て私は会話を思い出す。
この笑顔が誰かのものになるくらいなら、この想いをそう夜空で輝く一番星にそう願う。
壊れた街灯の光が消えていくように、2人は暗い夜に溶けていった。
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