02 / 弟

カレシできたの?



「アーリカせんせ!カレシできたのー?」


「えぇっ?」


保育室に私の余裕の無い情けない声が響き渡る。


子供逹が創作で使う物の準備をしていた私の前に、並んで現れたのは女の子3人組。

突然の子供逹の質問に、思いっきり持っていたクレヨンと画用紙を床へと落としてしまう。



「おとしちゃダメー!」


「"ドーヨー"して、おとしちゃったんだー」


「それで、カレシできたのー?」


女の子逹は落ちた物を一緒に拾いながらも、楽しそうに会話を続けていく。



「ありがとう。でも、いないよ……」


「だってー、ほかのセンセーがいってたもん!」


「ねー!!」


目をキラキラと輝かせながら、3人共元気に頷いて顔を合わせた。


女の子は男の子よりマセてるとはいうけれど、遠慮なく何でも聞いてくるからドキリとする事もある。



「あ、アリカせんせ。さっきねー、いっくんがね、サクラにいじわるしたの!」


真ん中に立つ年長のサクラちゃんが頬を膨らませながら、自分の2つに結われた髪の毛を両手で握った。



「髪の毛ギューッてしてたよ」


右側に位置する女の子も同調するように口を尖らせる。

結局 話はころころと飛んで、最後には同じクラスの男の子の話へと変わっていくんだ。



「きっと、サクちゃんが好きなんだよ!」


「そうだよー!!」


なんてやり取りをしながらその子達は園庭へ出ていく。小さな後ろ姿を見守っては、面白いなぁと口元が緩んでしまった。



東京の短大を卒業して、地元に戻ってきて近くの保育園に就職した。

子供が好きだからという理由で保育士になって既に8年目──。



子供は正直で素直で可愛いと思う。


子供同士の喧嘩は日常茶飯事で、特に女の子の友達関係の問題は起こるし、可愛いだけじゃ済まされない。

いくら子供相手とはいえ体力と忍耐のある職種な訳で……。


このまま保育士を続けて主任保育レベルまであがっていくか、婚活でもして30になる前に結婚でもして辞めるか。



園庭から聞こえてくる子供逹の賑わう声の中、"結婚"や"孫の顔"なんて単語をぼやき始めた口煩い母親の顔が思い浮かべて、私からは重い溜め息が漏れた。



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