第17話 コーナリング

 くねくねした山道を飛ばしていた。


 ぼくらのさきを急ぐのは黒いポルシェ。


 黒いポルシェのほうもスピードをあげていた。追いかけるこちらに気づいたか。


「マー坊、CD作ってくれた?」


 右へ左へとハンドルを高速で操作しながらレイコさんが聞いてきた。


「ライドン・ファイア!」

「ナイト・オン・ファイヤーでしょ。レイコさんが適当なことを言うから、探すのに手間取りましたよ!」


 ぼくは助手席のバッグへと手をのばした。なかからCDを入れたケースを取りだす。


 からだが右へ左へとゆさぶられるなか、なんとかCDをカーステレオの挿入口に入れた。


 カーステレオから速いテンポのユーロビートが流れ始めた。


「ネットにこの曲でパラパラを踊ってる動画がありましたけど、レイコさんもそういうタイプだったんですか?」

「ちがうちがう。むかしのレースアニメで、この曲が使われててさ。あの当時、走り屋たちは車内でかけまくってたのさ」


 キラキラしたダンスミュージックに合わせるかのように、マークXがスピードをあげていく。


「まくるぞー♪」


 レイコさんが、うれしそうに言った。


「おわっ!」


 車が急加速し、ぼくは背もたれに押しつけられた。ぼくがCDを入れていたので、ややスピードを落としていたみたいだ。


 するとすぐにカーブがせまる。今度は逆に急ブレーキ。ぼくはつんのめりそうになった。


 急加速に急ブレーキ。本気で車を走らせると、こんなにもスピードのアップダウンが激しいのか。


「ちょうど下り坂になってきた!」


 レイコさんの言うとおりで、峠をこえたのか上り坂だった道路が下り坂になっていた。


「下りのほうがいいんですか!」

「さすがに、このマークXとポルシェでは、パワーがちがいすぎる。でも下りなら、どちらもスピードが乗る。あとはドライバーの腕と度胸の見せどころ!」


 レイコさんの運転技術は見たいけど、度胸は見たくありませんが!


「ウイングのおかげでダウンフォースがきいてる。いっちょノンブレーキでいってみますか!」


 専門用語はわかりませんが、ノンブレーキという言葉はわかりました!


「レイコさーん!」


 ぼくがさけぶと同時に左へのカーブだ。猛スピードでカーブを曲がっていく。遠心力で横へふっとばされそうだ。天井へつっぱった腕が痛い。


「はい、今度は、右ぃ!」


 ハンドルが右に回転する。右カーブだ。さきほどよりカーブが長い。左のガードレールが近づいてきた。車が外へふくらんでいく!


「レイコさん、ガードレールが!」

「ダイジョブー。あと二十センチぐらいはあるからー」

「二十センチって、A4ノート入りませんよ!」

「おっ、さすが大学生。ノートの大きさ、おぼえてるのか?」


 ぶつかる、ぶつかる!


 もうダメだと思ったとき、車はカーブを曲がりきった!


 そして、けたたましいエンジン音が聞こえた。黒のポルシェが目の前だ。


 レイコさんは白いマークXを黒いポルシェの真うしろへ貼りつくように寄せた。


 二台の車はぴったりならんだまま、次のカーブへと進入していく。


 黒いポルシェの赤いランプがともった。こちらも急ブレーキをかける。


「こいつ、シロウトだな」


 目まぐるしくハンドルを動かしながらでも、軽快な口調でレイコさんが言った。


「シロウト?」

「そう。ブレーキングのやりかたがメチャクチャだ。ただ単にコーナーへ突っこんで、あぶなくなったらブレーキをかけるだけ」


 カーナビの画面が拡大した。


「次に大きな右カーブがある。そこでぬくぞ」


 ぼくらの白いマークXは、ぴったりと黒のポルシェに貼りついて走った。


 そして道路のさきだ。黄色い標識が見えた。カーブが近い!


「マー坊、あたしはポルシェとの車間距離に集中したい。対向車がいるかいないか、いない瞬間がわかったら言って!」


 ぼくがですか!


 反論するヒマもなく二台の車はコーナーへと突っこんだ。つらなる二台が同時に車体を右へとむける。


 車が右に曲がっていく。右側は対向車線。その外はごつごつした岩の斜面。まだカーブのさきは見えない。


 曲がる。どんどん曲がっていく。見えた。カーブのさき。


「対向車いません!」

「よし!」


 レイコさんが返事をするとともにギアがひとつ落ちた。急加速をつけて白いマークXが内側の反対車線へと踊りでる。


 ポルシェの横にならんだ瞬間。ちらりと運転席を見た。思ったより中年の人だ。


 そして白いマークXは、黒いポルシェを抜き去った。戦意を喪失したのか、ポルシェが追いかけてくるような気配はなかった。


「走り屋じゃなくて、どこかの金持ちかもな」


 レイコさんが言った。ぼくもそう思う。


 ウイングをたたんでいいと言われたので、もういちどボタンを押す。「ウィーン」という音が聞こえ、車の後部にあったウイングは見えなくなった。


「レイコさんの運転って、すごいんですね」

「そうか。今日だと、まだ本気の半分ぐらいかな」


 あれで五割なんだ。


 目まいがするような気分をおぼえ、ぼくは外の風を入れるためにパワーウィンドウのスイッチを押した。


「あっ、思いだした。山口百恵の曲はプレイバック・パート2だ!」


 いまさら、なにを思いだしてんですか!

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