第8話

「ねぇララ」

エリオットは目の前でしゃがんでニコニコと笑っている。

「なんですか」

私は平坦な声で返事をする。

「僕とデートしない?」

「は?」

彼はそれは綺麗に微笑んで言った。

私は思わず貴族に対してとは思えない反応をしてしまう。

「ふふふふ………そんなに僕のこと嫌い?」

彼は私の反応にどうしてか笑いながらそう尋ねてくる。

「いえ、あの……嫌い、では……ないん、ですけど、その………」

嫌いかどうかと言われたらそうではない、けど好きかと言われると分からない。

幼い頃のあれも果たして恋だったのかは怪しいところだ。

優しくされて嬉しかっただけかもしれない。

「僕のこと嫌いじゃないなら、お願い、聞いてくれると嬉しいな」

彼は昔のように綺麗に笑うのだ。

昨日みたいに寂しそうに言うのだ。

そんなの、断れなくなってしまう。

「………分かりました」

「本当!?」

私が渋々了承の返事をすると彼はものすごく嬉しそうな顔になる。

「じゃあ今から行こう!」

そう言って彼は私の腕を引く。

「えっ今から!?いやでもっ」

「私は大丈夫だから行ってきなさ〜い」

まるでこの流れが分かっていたかのように笑顔で手を振っている。結託してたのはこれか!!

「さあさあ行こう!まずは仕立て屋だ!」

「えっ!?嘘っそんなお金無いですけど!?」

「僕が全部払うからララは何も心配しなくて大丈夫だよ!」

「ええ!?」

エリオットの勢いに連れられてそのまま高級そうな馬車に乗せられ出発してしまった。

「あ、あの、これっどこに……」

「ああ、ごめんね?ちょっと嬉しくて勢いのまま引っ張ってきちゃった」

そう言って笑う彼は今まで見ていたよりも幼く見えた。まあ、私とそこまで変わらない歳なはずだし……多分。

「これから僕の懇意にしてる仕立て屋に行って君のドレスを作ろうかなって思って」

「え、いやあのそれは流石に……」

「大丈夫、お金は僕が全部出すから」

いやそういう問題じゃ………でもなんか、言っても全然聞いてくれなさそう………。

すごい満足げだし。

でもドレスなんて仕立ててもらったって、着ていく場所なんて無いんだし。部屋で寂しく留守番をさせられるドレスが可哀想だ。

ちらっと彼の方を覗き見ると、顔にもう楽しみとか嬉しいとかが全部書いてあった。今までとは違う少年のような笑顔に少しだけ可愛いと思ってしまう。いや、違うから。

そんなんじゃないもん。うん、違う違う。

頭によぎった言葉を全力で否定し自分に言い聞かせていたら、馬車が止まった。

「着いたみたいだね」

そう言って当たり前のようにエリオットが先に降りて手を差し出して来る。

これが噂に聞くエスコート……!

少し気分が上がったもののどうしたらいいか分からずとりあえず自分の左手をのせてみる。

「足元気をつけて」

私がのせた手をしっかりと握りさりげなく注意を促してくれる。

そして目の前にあるお店がそれはもう豪華で世界が違うことを実感した。

「よし、行こうか」

そう言って自分の腕を指差す彼に、いや流石にそれは………と思ったけど私が躊躇すると悲しそうな顔をされたので仕方なくエリオットの腕に自分の腕を絡ませてみた。

またすごく満足げな顔をしている。

やっぱりエリオット様、変な人なのでは……?

こんなことでこんなに一喜一憂する人見たことないんだけど。

「あらいらっしゃい。今日は可愛らしいお客様をお連れねエリー」

お店に入ると綺麗な女性が出迎えてくれる。

「そうなんだよ綺麗でしょ?彼女はララだ。今日は手紙で伝えた通り彼女にドレスを仕立てて欲しくてね」

エリオットはとても楽しそうに話している。

「ええ、もちろん。さあララ、貴女はこちらにいらっしゃい。エリーはそこで大人しく待ってるのよ」

「えっ、えっと」

「いってらっしゃいララ」

急にどこかに連れてかれるしエリオットには見送られるし、もう………どうにでもなれっ。

連れられた先の部屋には数名の女性とたくさんの煌びやかなドレスが並んでいる。

「私はエリステラよ。あの子と愛称が被るからステラって呼んでちょうだい?エリーってば気持ちばかり先走っちゃって貴女に何も言ってないのね?」

1番奥の鏡の前に立たされて次々服を脱がされるなか話しかけられてもう戸惑いしかない。

「え、えっと、そう、ですね?確かになにも聞いてないです……」

「あの子ったら急に知らない子のドレスを仕立てなんて手紙で寄越すものだからビックリしちゃった。ドレス1着でどれだけかかるか知らないのよあの子」

「そ、そうなんですね………」

半分愚痴られている………?

そしてその間にも私は数名の女性達に体のあちこちを測られている。

「だからいくつか作ってみたの。ここにあるもので1番気に入ったものを貴女のサイズに合わせるから、好きなのを選んでちょうだい?」

いつの間にか私の体を測っていた人達はいなくなり綺麗なドレス達に囲まれる形になる。

難しいなぁ………。

「ふふっ、あまり気乗りしていないようね?」

「まぁ………そうですね、はい……」

正直に言うとエリステラさんが何着か選んで持ってきてくれる。

「これは私が似合うと思うドレスで、これは最近令嬢達に人気のデザイン。これは貴女が着ていた服に雰囲気が似てると思って選んでみたの。これはエリーの瞳と同じ深い緑ね。そしてこれはエリーの好み」

どう?と言うように彼女は笑ってこちらを見る。エリステラさんの気遣いもドレスも素敵としか言いようがなくて、なかなかこれ、とすぐには決まらない。

でも…………。

「これに、します」

「ふふふ、分かったわ。じゃあ早速合わせていきましょうか」

エリステラさんがそう言うと女性達がまた戻ってきた。どこにいたんだろう………。

そしてドレスを着せてもらって、細かいところの調整が終わると1度解放された。

店内に戻るとエリオットは店の一角で優雅にお茶をしていた。

「あ、採寸終わったんだね」

「はい」

あれは採寸か。

「こっちにおいで」

そう言って彼は自分の隣をポンポンと叩く。

いや、流石にそれは………って今日一体何回言ったんだろう私………。

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