猫ふんじゃった!?ふみふみ探偵の事件簿

穂辺 文

プロローグ

夜の街にはびこる闇。

強いやつが生き残る。

それがこの世界の掟だ。

だが、本当の強さとは何だ?


——爪の鋭さか。


——戦う度胸か。


いや、違う。

この街で生き抜くために必要なのは、どれだけ可愛く『にゃあ』と鳴けるか、だ。



「にゃ~ん♡」


足元に体を擦り付け、その場で転がり腹を魅せる。そしてじっと見つめてフィニッシュ。これで堕ちない人間オンナはいない……。


「おっ、ミケ。今日も来たのかあ。可愛いなあ♡よしよし」


俺の熱い視線の先にはショートヘアーにタオルを巻いた黒いTシャツ、活発そうな笑顔の……オヤジ。


オヤジは趣味じゃないが、これも“仕事”のためだ。仕方ない。

さあオヤジ、早く例のブツを持ってくるんだ。


「わかってるって。“アレ”が欲しいんだろう?」


そう言って背を向けるオヤジのTシャツに書かれた文字。“ラーメン虎之介”


「ほらよ」


俺の前に差し出された鈍色にびいろに艷めくブツ。

ふっ……“上モノ”じゃねえか。

やはりアンタとは馬が合う。


しゃがみこむオヤジの手にひと擦り。頭を擦り付けてやる。俺流の挨拶だ。受け取れ。

ミッションコンプリート。

にやける親父を尻目に、ブツを咥えて後を去る……。



「さーて、どこで食おうか」

にぼしを咥えながら夜の街を歩く。

俺に決まった住処はない。

天涯孤独の野良猫ってやつだ。

だが寂しくなんかねえぜ。

俺あこの暮らしが気に入ってんだ。


ふと立ち止まって空を見上げる。

曇った空にゃあ星の一つも見えやしない。

こんな夜はあそこに限る......。


再び歩みを始めようとしたその時――


グンッ


「にゃっ!?」


尻尾の付け根にビーンっと鈍い痛みが走った。

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