アルカナ・ディ・カリオストロ

アメリカ カンザス州


カーテンは閉め切られ、部屋の中には薄暗い空気が漂っている。少しの光も差し込まないその空間には本が床に散らばっており、かつて使っていた魔法の杖がひとつ、埃をかぶって転がっている。


アルカナ・ディ・カリオストロ

魔法使いの名門「カリオストロ家」に生まれた少年。かつてはその才覚で周囲を驚かせ、誰もが彼の未来を確信していた。しかし、母の突然の死後、アルカナはそのすべてを失った。

今や、アルカナの心は空虚で、彼がかつて信じていたすべての価値が、手のひらからこぼれ落ちる砂のように感じられていた。


アルカナはベッドに横たわり、テーブルの上に放り出されたパンをむしゃむしゃと食べていた。食事の準備などしない。適当に、冷めたパンを手で掴みながら口に運ぶ。目の下には、深いクマが刻まれている。


突然、『あの日』の記憶が湧き上がる。母親の顔が脳裏に浮かぶ。

「ダメだ、ダメだ!お母さん…」

その瞬間、アルカナの体は震え、胸が締めつけられ、苦しさが込み上げてきた。あの日、あの瞬間のことを、何度も思い出さずにはいられなかった。あの瞬間の母親の無反応な顔が、今でも鮮明に思い出される。あまりにも冷たく、もう二度と動かないことを示す表情だった。


アルカナはまた何も考えずにベッドに身を沈める。

(最近、何日も寝てないな…)

目を閉じたまま、天井を見つめることなく、だらりとした体勢で、無気力に思考が流れる。

(前、学校に行ったの、何ヶ月前だっけ?どうでもいいか)

そう自分に言い聞かせるように呟いた。心の中で、何もかもが面倒臭く、何も意味がないような気がした。やりたくないことが積み重なり、無理に動くことすらも億劫だった。



そのとき、突然チャイムの音が響く。ドアをノックする音も。


「アルカナ、遊ぼうぜ!」


その声に、アルカナは無気力に顔を向ける。

アルカナの通う中学校のクラスメイトのソルだ。アルカナが玄関を開けると彼は相変わらず陽気な声で、勢いよく入ってきた。明るい笑顔を浮かべて、アルカナの部屋に足を踏み入れる。ソルの無邪気なエネルギーが、少しだけアルカナの心を揺さぶった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る