小野小町のお墓はナゼたくさんあるのか?

アオヤ

第1話

 コレは私が夢に見た物語です。

実在した人物や場所が登場しますが全て私の妄想です。


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 辺りが夕闇に染まり始めた頃、「ミャ〜、ミャー」という子猫の鳴き声が聴こえて来る。

その鳴き声は庭の先の高い生垣の向こう側から聴こえてるみたいだ。

「小町様、子猫の鳴き声が気になりますか? その子猫はたぶん死んでしまうでしょう。生垣の向こうは人の背丈の倍以上の高さの川になっています。今流れている水は僅かだと思いますが川に下りる事が出来ません。どうか猫の事はもう諦めてください」


 私のすぐ後ろから老婆が目を細めて話してきた。

「子猫はその親が生かすか殺すかを決めるそうです。五体満足でない子猫はその子が死にそうになってもその場に置いて行くモノです」


 老婆は子猫の声を聞きながら、私を見て私に同情するかの様な顔をしました。

「アナタもこの小野家の姫として生まれ、普通なら幸せな人生をおくる筈でした。しかしアナタは町様の双子の妹として生まれました。双子とは同じ顔の人間が二人存在すると言う事です。名家では双子は忌み嫌われる存在です。アナタは町様の影としてこの座敷牢の中で一生を過ごすのです」

私はあの鳴いている子猫と同じで親に捨てられた子供。


 夜、涙で枕を濡らして寝ていると私の枕元に昼間のあの子猫を助けて私の元に運んで来てくれた者が居ました。

「私もアナタも親に捨てられた者同士。ずっと一緒に居ましょう」

私は子猫の頭を撫でながら自分自身を慰める様に語りかけた。

 

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 私はいつもの様にこの座敷牢で何をするでもなく子猫と戯れくつろいでいると町姉さんから文が届く。

『古今和歌集に町と小町の和歌を応募したの。私の和歌は全く注目されなかったけど、小町の和歌は掲載される事となりました。私が小町の名前で活動するのでアナタには私の影として和歌を書いて欲しい。アナタは私が活動しやすい様に京都に来なさい』

普通の人からしたら町の身勝手な内容の文に見えるかもしれない。

でも、座敷牢から出た事が無い私にとっては外の世界に出られる事が嬉しくて京都に行く日が待ち遠しかった。


 京都への旅路は船による船旅から始まった。

初めて乗る船は最初こそは楽しかったがやがて波に揺られる度に私の頭はクラクラして何も食べられなくなった。

『やっと身体が慣れて来たな』と思ったらもう宮津の船着場に到着してそこから山を越えて行く事となる。

座敷牢でずっと暮らしていた私は体力的に劣っていて案内人とはぐれてしまった。

初めての旅、見知らぬ土地で私は迷子になってしまい途方に暮れていた。

そんな私を見かねてか、ある大男が話しかけて来た。

「お嬢さん、何かお困りですか? 私は円仁と申します。私でよければ手伝いましょうか?」

綺麗な袈裟を着てひと目でお坊さんと分かるその方は私の旅の荷物をひょいと持って一緒に歩いてくれた。

今まで優しくなんてされた事無かった私は円仁様の醸し出す雰囲気や温かな喋り方に心を許し自分の身の上話をしてしまう。

延暦寺の座主をした事もある円仁様はそんな私の話しを真剣な顔で聴いてくれた。


 「ここがアナタの宿かな?」

円仁様の何気ない一言に我に返った。

目的地に着いてしまった。

もう円仁様とは会う事は無いのだろうか?

「あの… ありがとうございました」

何故か涙が溢れてきた。

「もし何かあっら比叡山延暦寺に私を頼ってやって来なさい」

円仁様の何気ない一言だったが私の不安を一瞬で和ませてくれた。

「ハイありがとうございます」

去りゆく円仁様を私はいつまでも見送った。


 「遅かったじゃない。旅の途中で迷子になるなんて小町らくて笑えるわね。さぁこれからは私の道具としてしっかりやってもらうから」

町の言葉は今までの楽しい世界から私を一気に現実の世界に引き戻した。

もしかしたらもう二度と円仁様には会え無いんじゃないか?

そう思うと居ても立ってもいられず私は宿を飛び出した。

「円仁様… 円仁様…」

迷子の子猫の様に私は京の街を彷徨い、比叡山の入口でその姿を見つけた時は子供の様に泣きじゃくり涙が止まらなかった。

「あの私…」

円仁様は全て分かったと言わんばかりに私に語りかける。

「わかりました。私が幼き頃から修行の場としていた唐澤の郷に行きましょう」

私は人生で二度目の旅をする事になった。

でも今度の旅は尊敬する大好きな円仁様が傍に居る。

『この旅がずっと続くば良いのに…』


 唐澤の郷は私から見たらどこにでも有る様な普通の郷だった。

円仁様は私の保護者の様に時々会いに来てくれる。


 それは外に出ると焼かれる様な熱い日だった。

円仁様が私に会いに来てくれた時、私は薄い衣一枚しか着ていなかった。

そんな私を見て円仁様は急に壊れそうな程私を抱きしめた。

そして円仁様と私は男と女の関係になってしまった。

でも円仁様にとってそれは禁じられていた行為。

仏教徒にとって色恋沙汰はご法度。

円仁様の立場が悪くなってしまう。

円仁様は私から距離を置く様になってしまいました。

私が薄着で円仁様を出迎えたりしなければ…

後悔しても時の流れを遡る事などできません。

私はひと目だけでも円仁様の姿が見たくなって修行している筈の奥ノ院に向かいました。

ソコは切り立った岩場だらけの場所。

ソコで円仁様は瞑想にふけっておられました。

そんな姿を瞼の奥に焼付けて帰ろうとした時、足場をとられ崖下に落ちてしまいました。

円仁様はそんな私を最後に看取り墓を造ってくれたのです。


 円仁様が遣唐使の旅を終えその後日本各地の寺の復興をされました。

そこでは私との事を懺悔されたそうです。

そして弟子達は円仁様の立場を忖度して小町の墓なるモノを作っていったそうです。


 秋のお彼岸を飾る曼珠沙華。

小町の墓の周りには円仁様を出迎える様に紅い華が咲き誇ります。

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小野小町のお墓はナゼたくさんあるのか? アオヤ @aoyashou

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