第5話

もう無理だと悟った私は危険を物ともせずに跳び込みました。

「陛下、どうぞお身体に気を付けて下さいまし。そしてこちらをお持ち下さい」と、白い百合の花を差し出しました。

「月に百合はないでしょうから」

涙が出ました。

かぐや姫は帝と私を冷ややかに見つめました。天の羽衣を着たかぐや姫は、もう地上の記憶を失くしてしまったのです。


帝は顔を覆いました。ああ、かぐや姫をどんなに愛していたことか!しかし、今のかぐや姫は感情のない人形のようになってしまった…もはや一緒に天に上がるわけにはいかない。月の人が羽衣を着せ掛けようとしましたが、帝は抵抗しました。


「それを着たらもう今までの記憶を失くしてしまうのだろう?そして永遠に生きられると?…嫌だ!私はここに残ることに決めた!泣いたり、笑ったり、怒ったり、そうして歳老いていく…そんな普通の人生を送りたいと思う。なつ姫と一緒に」「え?私?」

白百合の花をかぐや姫に捧げました。月の人は

「…後悔はされませんね」

「はい」帝は力強く答えました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る