傭兵、3万ゴールドを貯める道のり
ルンコフ
プロローグ
日は沈み、星々の輝く銀世界が広がる。決して暗くなくてそれでも周りは一メートル先でさえ見えないほど真っ暗だった。目の前の焚き火とそれに照らされる師匠を除いて。師匠は獣人だった。狼の形をした二足歩行の獣人で二メートルは超えている。普通の人が見れば死をも覚悟するだろうが。俺は知っている師匠は優しい人だと。
「イル、お前はよくやった。」
師匠はそう呟いた。あれから十年の月日が経った。苦い記憶、辛い記憶、楽しい記憶。たくさんの記憶が俺の頭の中に混在する。そして、師匠に頼まれて受けたひとつの依頼。俺はそれを全うした。
「この金はすべてお前のものだ」
そうやって、俺に見せつけたのは半開きになった銀貨の入った袋。焚き火に照らされ、微かにそれは輝いていた。その煌めく硬貨に無意識に視線が向いていると俺の手元にそれは渡された。
「ありがとう」
「お前に教えることはすべて教えた。もう、親元から自立してもいいだろう。」
やっぱり、そういう話になると思ってた。みすみすいつかは一人になる。それは当たり前のこと。だけど、その事実が目の前に現れたとき、逃げ出したい気持ちに駆られる。
「嫌だ…」
「嫌か?」
不本意にも俺は首を前に倒した。
「気持ちはわかる。一人でやっていけるのかだろう。心配だろうが、お前には十分にその力が備わっている。」
師匠はそう励ますけれど、心のざわめきがそれを良しとしない。手元に置かれた銀貨。それを受け取るということは一人で旅立てるという意味になると感じた。俺はその銀貨をそっと師匠に渡した。また、二人で旅をしたいと言いたかった。だけど、そんな勇気、俺にはなかった。
「仕方ないやつだ。そうだな、3万ゴールド。これがどんな数字かわかるか?」
「大金ですね」
「ああ、そうだな。他には」
俺は分からずじまいでそっと頭を降った。
「いいか、これはいままでに俺が稼いだ金額だ。これだけあれば一生遊んで暮らせるぞ。お前も3万ゴールドを集めてみろ。そうすれば、また会いに行ってやる。」
「会いに行くって…」
「いつか会えるということだ」
そう言うと俺が投げた銀貨が投げ返されていた。慌てて、袋を地面に落とし前方を向くとそこには何食わぬ顔で俺から離れてゆく師匠の姿だった。俺はそれを止めようと立ち上がった。その途端、視界が地面を向いていた。ドサと地面に倒れる体。前を向くと焚き火に照らされ光沢を露わにする血濡れた槍衾とそれを握りしめる師匠が見えた。立とうとしても起き上がることができない。胸から血が流れる確実に胸を貫かれたのだろうか。痛みが身体中に浸透する。
「師匠!待ってください。師匠!師匠!」
「じゃあな、坊や。また会おうな」
暗黒に包まれたその夜。初めての大事な人が消えていった。
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