コミュ障のオレに、クール系アイドル幼馴染みがべた惚れの結果……突然の引退ライブ配信(同接100万人!)でノロケまくり! だから日本中のファンに嫉妬で殺られそう

佐々木直也

第1話 同接100万人かよ……

 オレ──東雲皓太しののめこうたはコミュ障だ。


 それに比べて、幼馴染みの柊木ひいらぎソラは……人気絶頂の国民的アイドル美少女。


 アイドルと言ってもテレビに出ているわけではなく、なんと動画のライブ配信だけで『国民的』という古くさい冠まで付けられるに至った。


 とはいえ昨今では、ネットで有名になる人も珍しくない。


 ところが。


 ソラはなんと、個人勢なのだ。


 つまり、プロダクションの後ろ盾もプロモートもコラボも一切なく、アイドルの国内トップまで上り詰めたのだ。


 評価としては、歌唱力はもとよりキレッキレのダンスがよかったらしい。さらに性格が、視聴者に媚びることのない超クールということで、それが珍しがられてファンが爆増したんだとか。


 この国の男どもは、みんなマゾなのか? いや、今やファンは世界中にいるらしいから、ニッポンだけの話じゃなくなっているが……


 ちなみにダンスがキレッキレなのは、アイツ、昔から武道までやっているからだろう。だからといってガチムチになることもなく、声はもちろん、容姿もスタイルも抜群。


 神様って、不公平だよな。


 それに比べてオレは……などと考えていたら、ソラのライブ配信が始まっていた。


 今はゴールデンウィーク真っ只中。時間は配信のゴールデンタイムど真ん中。


 だから同時接続数もグングン伸びて──


「同接100万人かよ……」


 ──オレは思わずつぶやいていた。そういや、声を出したのは今日初めてだ。オレはそのくらいにはぼっちなのだ。


 はぁ……まぁそんなことはいいや。


 画面の中では、ソラが、キレッキレのダンスと歌で視聴者を魅了している。


 ライブチャットの流れも尋常じゃない。怒濤の勢いで流されていく。みんながこぞって「かわいい!」「最高!!」「結婚して!?」などと叫んでいるのがわずかに見えるが、長文なんてもう読めやしない。


「ソラちゃん彼氏いないよね!?」


「いたら殺す!」


 チャットの中にそんな文言も混じっていた。


 それを見たオレは、思わずゾッとする。


 もちろんオレとソラは、付き合ったりしていない。


 だけど幼馴染みなのは紛れもない事実なわけで……男の幼馴染みなんているとバレたら、もうそれだけで暴動が起きそうだった。


 これがイケメン俳優とかなら、ファンだって諦めが付くのかもだけどな……


(オレだって釣り合っていないことくらい、分かってるさ……)


 物心ついたときには隣同士で、一緒に登下校したり遊んだりする中だった。


 けれどソラは、中学生からとんでもない存在になっていた。


 そのころから顔出しで動画配信を始めたのだ。


 そしてわずか数年で、トップアイドルに上り詰めた。


 100万人単位で視聴者を集める女子高生アイドル……オレみたいな地味で陰キャで脇役でコミュ障な男が側にいるだけで、ファンからすれば許せない相手だろうさ。


 そもそも、オレは人と話すのが壊滅的に下手だ。ソラと違って。


 高校でもクラスメイトと上手く会話できずに、つい俯いてしまうことが多い。


 気がつけば自分の殻に閉じこもっていて、「あの東雲ってやつ、何考えてんのかわかんねぇ」なんて言われている。


 もちろんオレだって、こんな性格はどうにかしたい。


 ネットでもたくさん調べた。


 でもそんな知識は、溺れている人に「泳げばいいんだよ」と言うようなものでしかなかったのだ……!


 ということでオレは、心の中ではいくらでも雄弁に語れるというのに……人前に出ると、冷や汗が止まらない性格だった。


 なぜこうなったのかは覚えていないから……もはや、生まれつきなのだろう。


 だからほんと、神様は不公平だよなと思う。


(やっぱりソラは凄いな。オレが下を向いてブツブツ言ってる間に、世界を舞台にして堂々と歩いてるんだから)


 とはいえ、オレは別にソラを憎んでいるわけじゃない。


 純粋に凄いと思っているだけだ。


 だからイチファンとして、陰ながら凄く応援している。


 ということで隣に住んでいるというのに、オレは、画面越しで今日もソラを眺めるのだった。


 今日のソラはライブだから、音楽スタジオで歌っているので隣にはいないが。


 というわけでオレは小さなスマホに映るソラに見入っていたら、気づけば配信もクライマックスを迎えた。


「皆さん、本日も配信を見に来てくださってありがとうございます。ゴールデンウィークというお休みにもかかわらず……ほんとうに感謝しています」


 クールなソラがわずかに微笑むだけで、チャット欄は大騒ぎだ。


「ソラちゃん愛してる!」


「神対応!」


「歌姫どころか女神だ!」


「歌女神降臨!!」


 などなど、大絶賛の声が一気に流れていく。


 そのチャットを、ソラがどれほど読めているのかは分からないが、ソラはクールな顔を崩さないまま──


 ──ふと思い出したかのように、言った。


「実は今日、大切なお知らせがあります」


 一拍置いて、チャット欄が狂乱する。


「何それ!?」


「きっといい報告だよね!」


「ヤバイ報告やめてよ!?」


 などなど、様々な憶測が一瞬にして画面を埋め尽くす。


 文字が暴走するように連投され、もはや読むのも追いつかない。


 オレはゴクリと唾をのみ込んだ。


(大切なお知らせって……オレは聞いてないが……)


 ソラとは縁遠くなったわけではなく、高校もクラスも同じだから、毎日のように顔を合わせている。


 さらにソラはクールだけど無口というわけでもないので──っていうか無口なのはオレだから、ソラのほうから積極的に話してくれる。


 だというのに、オレは何も聞いていない。


 ふと、嫌な予感がよぎった。


 画面越しのソラは、至って冷静な表情。


 いつも通りに見えるけれど……その瞳の奥には決意のようなものが宿っている気がしてならない。


 チャット欄は、流れが速すぎて残像化している。


(頼むから、爆弾発言とかやめてくれよ……?)


 ソラの唇が動くまでの一瞬が、えらく長く感じた。


 オレは無意識に息を飲み込んで──あまりにも大きな波乱がこれから始まるとは、この瞬間はまだ考えてもいなかった。

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