ǝı̣ɹʎʞ

 グリーグの「朝」――。

 心地好い音色が朝の訪れを優雅に報せ、私は寝惚け眼を擦りながらゆったりと起床する。

 時計の確認、七時半――。

 新築のアパート。その三階に差し込む朝日は眩しくて、美しい。

 つい一年ほど前にできた建物で、内装もすごく綺麗。駅近で道路の向かいにはコンビニもある。なんとも好立地な物件だった――家賃には頭を悩ませているけど。

 起き上がり、ぼっさぼさになった髪を掻く。大学生になってから念願の金髪にしたら、髪質が格段に落ちた。マジ最悪。

 うーんっと背を伸ばして、起床の覚悟。車通りも少なく、これ以上にない安寧とした朝だった。

 今日は火曜、大学の講義は二限からで、時間にはまだ余裕がある。歯磨きと洗顔を済まして、朝ご飯を作ろう。


 ぼーっとしたまま、洗面所に行く。何かを焼く音――。

 鏡に映る私を見て、洗顔を始める。甘い匂い――。

 歯ブラシを手に取る。コップにはもう一本、柄の透明な歯ブラシ。鼻腔を擽るシロップの香り――。

 …………。

 さぁっ、目が覚めた。

「朝ご飯、できてるよー」

 部屋中に漂う甘い匂い――。テーブルには狐色に出来上がった、食欲をそそるほかほかのパンケーキ。溶けたバターに、たっぷりかけられたメープルシロップ。

「――冷めないうちにっ」

 目前には、ベージュの髪をふわりと靡かせる小柄な少女――。可愛さ全開、愛嬌満載。そんな彼女に急かされながら、椅子に座る。

「いっただっきまーす」

 私と彼女、顔を合わせるように対面して座り、優美な朝食の時間が始まった。

 笑顔満面でパンケーキを頬張る彼女……。かわいい。

 …………。

 ………………。

 ……………………。

 待って、ねぇ……。

「あんた、誰――?」

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ǝı̣ɹʎʞ @dark_blue_nurse

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