第17話 俺を決して逃がさないつもりだ

 〈太陽の薔薇〉のメンバーに、れてもらった紅茶を飲んでいると、三階からドスドスとリーダーが大量の端切れを持ってきた。


 「これだけあれば足りるでしょう。 三人分のシャツとおズボンを大至急作成するように、忘れないで言うのよ。 〈ゆうまちゃん〉、分かった?  それとこれは前金よ、出来上がったらもう半分を渡すからね」


 「はぁ、こんなにあるんですね。 重くて持てません」


 「そんなことを言っているから、〈ゆうまちゃん〉はモテないのよ。 桟橋さんばしまでは持ってあげるから文句を言わないの」


 おっさんだから、オヤジギャグは当然か。


 「はい、承知しました。 けど他の人の採寸は、どうするんです? 」


 「ふふっ、心配いらないわ。 私達はほとんど同じ体格なのよ」


 どうして笑うんだろう、兄弟じゃないと思うが、確かに雰囲気もよく似ているな。

 

 ただ不気味である。


 桟橋に着くまで、荷物を持ってくれている二人のメンバーが、俺の着ているシャツをずっと触ってくるんだ。


 「これ良いわね。 色の配置がズバコンよ」


 「それに縫製ほうせいがとても丁寧ていねいだわ。 愛を感じてしまうね」


 服だけならまだ許せるのだが、一緒に俺の体も触ってくるんだ、ゾォゾォゾゾーってなる。

 偶然なのか、わざとなのか、判然はんぜんとしない、絶妙な手の動きが熟練すぎて怖い。


 「ひぃー、もう止めてよ」


 「ふふっ、何を言っているの? 私には分かんない」


 「うふっ、だんだん良くなるから、心配ご無用よ」


 これも〈サト〉さんのためだと俺は歯を食いしばった、声も出さなかった。

 だから〈サト〉さん、帰ったら俺の体をなぜ回してね、お願いだ。


 「もう迷子になっちゃダメよ」


 と声をかけられて、俺はまた渡船に乗った、ほっとけよ、バカめ。



 〈ツィアの町〉に着いたけど、あれ、宿はどっちだったかな。


 「〈ゆうま〉、お帰りなさい。 ひゃー、大きな荷物だね。 押してあげるよ」


 「ありだとう、〈サニ〉。 助かったよ」


 ほっ、迷子状態から抜け出せたぞ。


 俺は大きな荷物を背負い、〈サニ〉がその荷物を後ろから押してくれる。

 なんだか保育園の時に遊んだ、汽車ゴッコを思い出すな。


 「発車おーらい、しゅぽぽ、しゅっぽ、しゅぽぽ」


 「あははっ、おーらい、しゅっぽ、しゅぽぽ。 変なの。 あははっ、だけど楽しいな」


 この世界に汽車はないけど、〈サニ〉は俺のまねをして大喜びだ、普段は大人しい子がはしゃいでいる。

 汽車ゴッコは偉大な遊びだよ。

 俺もなんだか楽しくなってくる、しゅぽぽー。


「お帰りなさい。 えぇー、その荷物は。 まさか全て端切れなんですか? 」


 「そうなんですよ。 シャツとズボンを三着づつ作って欲しいようです。 これは前金で、あと半分は完成後って言ってました」


 「へっ、こんなに。 多過ぎます。 あっ、めまいがします。 うっ、立っていられません」


 〈サト〉さんが倒れそうになったから、俺は慌てて抱きとめた、柔らかい体と良い匂いだ。

 痩せた体だけど、女性を抱きしめるのは、こんな状況でも心が浮き立ってしまう。

 あぁ、ずっとこうしていたい。


 「あっ、お母さん、大丈夫? スープを買ってこようか? 」


 「〈サニ〉、もう大丈夫よ。 お腹が空いた訳じゃ無いわ。 見た事も無い大金だったから、驚いてしまったのよ」


 俺に抱きしめられながら〈サト〉さんが、〈サニ〉の方へ向き直ったから、おっぱいが俺の手に当たった。

 痩せているわりには存在感があるぞ、俺の手は当たったまま動こうとはしない。


 「へっ、それはすごいね。 お母さんの服が売れたんだね」


 「そう、お母さんのパッチワークが評価されたのよ。 嬉しいなんてもんじゃ無いわ」


 「んー、お母さんと〈ゆうま〉は、引っついたままだ。 すごく仲良しなんだね」


 「あっ、〈サト〉さん、もう大丈夫ですか? 」


 「あっ、もう平気ですわ。 私を離してください」


 〈サト〉さんは、顔を真っ赤に染めたけど、俺が手をゆるめめるまでは、自分から離れようとはしなかった。

 よろめいていたのかもしれない。


 その日の夕食は、〈サト〉さんが肉を買ってきてくれて、豪華なものとなった。

 未来はまだ分からないけど、金の心配は今はいらないので、大奮発だいふんぱつしたらしい。


 〈サニ〉も、屈託くったくのない笑顔で肉にパクついている、子供はこうでなくちゃ。


 「うわぁ、お肉って美味しいんだね」


 「うふふっ、これからはいつでも食べさせてあげるわ」


 夕食が終わりくつろいでいると、〈サト〉さんが早速、服を作り始めた。

 だけど大量の端切れを前にして、「はぁー」ともうため息をついているな。


 「〈サト〉さん、どうされました? 」


 「これだけの量があると。 どうしたら良いの、と途方に暮とほうにくれているのです」


 〈サト〉さんが、その綺麗な目で俺を見詰めてくる、その意図は一目瞭然いとはいちもくりょうぜんだな。


 「なにか手伝いましょうか? 」


 「お客様なのに申し訳ありません。 何度も助けていただいて、とても感謝しております。 この端切れを色ごとに分けてくださいませんか? 」


 〈サト〉さんは、礼を先に言っているぞ、俺を決して逃がさないつもりだ。

 キラキラとした目を俺から決してそらさない、嫌とは言わせないつもりなんだ。


 降っていてきた、このもうけ話をどうしても、モノにしたいんだろうな。


 「分かりました。 色の種類に分ければ良いのですね? 」


 「はい、そうです。 お礼は後でしますから、頼みますね」

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