34

 早朝。警察とアイコ、そして野次馬。

 模倣屋の前に集まっていた。


「早くして。アイ、これから仕事なんだから」


 アイコは勝ち誇った表情を浮かべていたが、何かに焦っている様子で警察を急かす。

 ユウキはハルマに返してもらった道具で、ユウキの部下は自身の能力でユイの能力の確認へと入る。じっくりと探して行くが、2人して首を傾げた。

 いくら探しても魅了能力が確認できないからだ。

 ユウキは他の警察の人間にも手渡し確認を頼む。だが、見つからない。


「探しましたが、魅了能力の保持は確認できませんでした」

「う、嘘よ! アイは昨日、ユイに取られたもの!」


 震える声でそう言うが、警察が全員揃って模倣屋側につくはずがないと野次馬はざわつき始める。

 ユイは能力がなかったことに安堵した。ギンに魅了能力を引っ張り出してもらえていなければ、今頃模倣屋はバッシングを受け、そのまま店を閉めざるを得なかっただろう。

 

「それなら、アイコさんにも能力透視をさせていただいても?」

「もちろんいいわ。でも早くしてよね」


 魅了の能力を確認した警察。誰もが顔を合わせ、不思議そうな表情を見せた。アイコはその表情に目を瞬かせ、眉を顰めた。


「嘘をつくくらいなら、せめて能力を隠してからにしてくださいね……」

「は? 嘘なんてついてな――」

「アイコ、お前は虚偽告訴罪と業務妨害罪で逮捕させもらおう」


 ユウキは後輩に指示。手錠をアイコにかけようとした瞬間アイコは逃げ、男の後ろに隠れる。男はアイコに頼られていることに嬉しそうな表情を見せた。

 

「ち、違っ! 本当に盗られてるんだってば! この人がアイの能力をユイに移してるはずだもん!」


 突然アイコに背中を押され、前に出された男。その男は"回帰"の能力持ちだ。

 回帰は一定期間のみ能力を相手に移せる能力だ。2,3日すると元の所有者に戻る。

 そのためアイコはできるだけ早く能力を奪われたことを証明したかったのだ。

 

 男は先程の嬉しそうな表情は消え、目を見開いた。まさか自分に全て罪を被せてくるとは思っていなかったのだ。

 咄嗟に男は否定することもできず、「あ……」と震える口から声を漏らした。


「それは事実か?」

「……」


 ユウキの問いに答えない男。目を逸らし俯く。


「話は署で聞こう。連れて行け」


 アイコと男を逃げられないように捕まえる。アイコは自分も捕まると思っていなかったようで慌てて弁明を図る。

 自分は男に唆された。男が全て悪い。きっとユイが指示して気づかれないよう能力を戻したんだと饒舌に語る。

 だが、誰ももうアイコを信じることはできない。

 野次馬達は「なんだ」と思う人や「やっぱりあの子がとるわけない」と口にする人など様々だ。その中で誰もアイコを庇おうとする者もいない。

 

「アイは悪くない! アイは被害者なのよ――」

「黙れ」


 ユウキに睨まれ、アイコは泣きそうな表情を見せた。必死に自身をかばってくれそうな者を探した。そして野次馬の中にハルマが見えたアイコは「ハルマくん」と声をかけようとしたが、ハルマは眉を顰めていた。それはアイコが見たこともない不愉快そうな顔だった。

 アイコは助けてもらえないことを悟り、抵抗するのをやめたのだった。



 ◇



 野次馬は帰り、残ったのはユイとギン、そしてハルマだ。


「ハルマ、あんたのおかげで助かった」


 ギンはミックスジュースを手渡しながらハルマにお礼を言う。ハルマは「当たり前のことをしたまでだ」と言いながらミックスジュースを受け取った。

 2人の様子に、ユイは不思議そうにギンとハルマを交互に見た。


「どういうこと? もしかしてハルマが能力透視を全部借りたのって、ギンが言ったから?」

「ま、そういうことだ。ユイのためだって言ったらこいつ、二つ返事で引き受けたんだ」

「アイの行動は許せるものばかりではない。だから、ちょうど良かったのさ」

 

 ギンはハルマに耳が良いから聞こえたのだと言い、アイコがユイに何をしようとしているのか説明。このままではユイは捕まり、模倣屋は終わってしまう。また、数年は牢から出られないだろうと話した。

 そして、ハルマなら警察のやつと仲が良いから、能力透視の能力者や道具全て借りるくらいわけないだろとギンは挑発。

 ハルマは力技なことに可笑しさを覚えたが、ギンの心意気を買うことにしたのだ。

 

「さて、オレはもう行くよ。少しくらいユイが見直してくれているといいんだけど」

「少しはね。……ありがとうハルマ」

「お礼は食事のお誘いでいいよ。ギンも同伴で構わない」

 

 またね。とハルマは微笑み、近くで控えていた秘書と話しながら去って言った。

 

「ハルマと仲良くなった?」

「別に。利害が一致してただけさ」

「ふぅん。……ねぇ、アイコは本当に犯罪者になっちゃったのかな」

「ユウキには一応話してはいる……が、どうせあいつは魅了能力で減刑くらい自力でするだろうよ」


 アイコなら魅了を使わずとも、泣き落としだのなんだので自力で解決しそうだと2人して想像して、苦笑い。


「そう言えば、どうやってアイコに能力を返したの?」

「ユイから魅了能力を奪うとき、回帰能力ごと奪えたみたいだから、宅配偽って指に触れて返しといた」

「じゃあ、今も回帰能力がギンの中にあるの?」

「ない。回帰と魅了がひっついてたんだろうな」


 ギンはせっかくの新しい能力だったのになぁ。と少し残念そうな声でそう言った。

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