29
次の日もミックスジュースを売って過ごした2人。
昨日よりも完売が早かった。
念のため模倣屋として店を開けていたが、誰も来る気配はなく。閉めてしまおうかと考えていると、アイコが様子を見にきていた。
また話しかけてくるだろう。そう思いユイは気づかないフリをする。
案の定アイコはユイに駆け寄ってきた。
「ねぇ、最近ヘンテコな色のジュースで儲けてるって本当?」
「ヘンテコ、ねぇ……。ま、そうだね。完売したけど」
「完売……!? アイのジュース屋が繁盛しない理由ってユイのせいじゃない! アイ何も悪いことしてないのに商品被せてくるとか、酷くない!?」
「いや、元々売ってたものがいきなり売れ始めただけなんだけど……」
ユイの言葉を聞かずアイコは地面に座り込みさめざめと泣き始める。
周りの目がアイコに集中し、「あんな所で泣いてるなんて、きっと模倣屋が何かしたんだ」など、模倣屋が悪いように言う人々。中にはアイコと一緒にいた男が紛れている。
その男が中心になって悪評を口にしているのだ。
「……営業妨害だし、やめてくれない?」
「それはこっちのセリフよ! 男だって店だってアイが先なのにぃ!」
先ほどまでさめざめと泣いていたアイコは視線が集まったところで大きく泣き、立ち去った。
「あんだけされたらアイコの仕業だって決めつけたくなるなぁ。証拠がないけど」
「ユイ、今日は店閉めよう。俺はこれから野暮用を済ませたい」
「アイコとその取り巻きに突っかかるのはやめてね?」
「……保証はしないぞ」
図星だったギンは眉間に皺を寄せ、苦し紛れにそう言った。
ユイとしても尻尾が掴めるのならギンにお任せしたいと考えていた。しかし、ギンを危険なことに巻き込みたくないというのも本音だ。
ギンはギンでさっさと決着をつけ、ユイに今よりも笑って日々を過ごして欲しいと思っている。だからこそ自分が危険な目に遭うことなど苦ではない。
「とりあえず、今日は大人しく閉めようか。ジュースはもうないし、この状況じゃ預けてくれる人も借りる人も来ないだろうし」
手早く片付け店を閉める。
今は外に出るのも憚られる。外に出ずゆっくりと余暇を過ごそうとユイはライトノベルを片手にリビングのソファに寝そべった。
その様子を見ていたギンは1つ息を吐いた後、家を出た。鍵をしっかりと閉め足早に店を離れる。
「見つからないように…………して、あの男を……」
ギンは頭の整理も兼ねて小さく呟く。
「俺に喧嘩売ったこと、後悔させてやる」
いつも気怠げなギンは少し楽しそうに含み笑いを浮かべるのだった。
◇
「ユイ、大丈夫かい? 君の親は薄情者なのか?」
次の日、朝開店してすぐに現れたのはハルマだった。
ユイは両親に何があっても駆けつけないでほしいとお願いしている。それを知らない男にいきなり親を薄情者呼ばわりして良い気はしない。
「私がお願いしてるだけだよ」
「そのお願いを破ってでも、子を守るのが親ってものじゃないのかな?」
「そんなの、それぞれでしょ。会っていきなり薄情者とか勝手なこと言わないで」
「ほら、開店の邪魔だからどっかいけよ」
ユイに構うハルマを追い払うように、ギンは外に出た。その様子にハルマは肩を落とす。
「……せっかく助けてあげようと思ってたのに」
「自分達でなんとかするからいい。どうせハルマは力で揉み消すだけなんでしょう?」
「それの何が悪いんだ? 力さえあれば何もかも思い通りじゃないか」
お金も権力もあるハルマは、その力を使うことを惜しまない。お金を出して黙らせる。職権乱用と言われようと使える時はとことん使い相手を踏み潰す。
きっとユイがその手を取れば、さらに模倣屋は悪い方向へと進んでいただろう。
「私はしっかり調べて身の潔白を証明したい。私は何も悪くないんだから」
「はは、強情な君も悪くない。それじゃあ、オレは高みの見物でもしていよう」
「どうぞご勝手に」
――店を離れたハルマ。ちょうどその時にアイコが通りかかり「ハルマくん!」と可愛こぶりっ子で駆け寄る。しかし、ハルマは聞こえていない様子で大股で歩いている。
アイコは腕を取りもう一度ハルマを呼ぶ。
「ねえ、ハルマくんってば」
「邪魔」
「きゃっ」
絡みついた腕を引き剥がし、アイコを突き飛ばす。
扱いが雑な時はあったが、突き飛ばされることなどなかったアイコは、泣くことも騒ぐことも忘れ、ただ呆然と地べたに座り込んでいた。
「……ごめん」
我に帰ったハルマは一言謝罪をした。だが、アイコの手を取って起こしてあげるわけもなく、足早にその場を離れた。
「……何? なんで?」
ハルマをあんな風にしたのは誰なのかとアイコは考える。
あそこまで乱れた姿はアイコは知らない。アイコでは到底できないことだ。
「……」
だからこそアイコはすぐに原因はユイだと確信した。
ハルマはユイの言動に一喜一憂するほどに敏感だ。
時にはユイの邪魔者をこっそり排除してしまうほどのユイ狂いだ。
だが、それをユイは知らないまま生き、今も自分とユイの周りの力だけで生きていると思っている。
「やっぱりムカツク」
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