第1話
暗い洞窟の入り口に到着した一行。道中の戦闘で感じた手ごたえに全員が自信に満ちた表情を浮かべている。この洞窟に住む三つ目ゴブリンはそのほとんどが強くなく、まとめる三つ目大ゴブリンの存在も確認されていない。つまりは最初の冒険にピッタリともいえるイージーなクエスト。
「よし、ここに居る三つ目ゴブリンを殲滅しよう。そうすれば少しはこの辺に素材を取りに来る者の平和を守れるはずだ」
ヘンリーがそう意気込むと右手の甲に熱を感じた。魔力を感じたイーダが一瞬身構えるもその出所がヘンリの右手――勇者の紋章――から来るものだとわかるとすぐに警戒を解く。ヘンリーが不思議に思って手袋を外すと紋様が黄色く光っていた。
「なんだ……? 光るなんて聞いたことない」
「いいえ、昔聞いたことあるわ。勇者の紋様には祝福があってその祝福によって紋様が光るって。実際、すごい魔力を感じるもの」
オーランドの言葉にイーダが答える。コウエンが興味津々にその紋様をのぞき込んでいる。神秘的な光に三人はさすがは勇者だと話すも、当の本人であるヘンリーだけはその光に不気味さすら感じていた。
それを言おうか悩んでいる最中、その光は収まった。祝福を受けただけなのだと、心配することは何もないのだとヘンリーは自分に心の中で言い聞かせながら手袋をつける。
気を取り直して一行は洞窟内へと足を踏み入れた。中は広めで暗いが三つ目ゴブリンが設置したのであろう松明で視界は確保されている。数メートルほど進むと見張りと思わしき三つ目ゴブリンが三体居たものの素早く詠唱したイーダの炎玉で一体、強い踏み込みで一気に距離を詰め、無駄のない動きで二体の急所をレイピアで刺して倒す。
「奥から三つ目が来る気配がする……。気が付いたかな、バフかけるね」
鋭い聴覚があわただしくこちらに来る足音を拾うと一人一人に攻撃と防御を強める魔法をかけていこうとするとイーダが「あ、」と声を上げた
「一本道だし極大魔法で殲滅できないかしら。魔力向上って可能かしら?」
「まっかせて!」
「魔法ってのはおっかないな……」
肩をすくめるオーランドを横目にコウエンがありったけの魔力をこめてイーダの魔力、魔法攻撃力を上げていく。この一発で終わるだろうという考えが見えるほどの強力な補助魔法。ヘンリーに嫌な予感が湧き出てくる。
そんな彼に気が付かずに三つ目ゴブリンを引き付ける合間に長い詠唱を行うイーダ。彼女もまた一発で終わらせる気なのだろう、魔法に詳しくないオーランドでもわかる程魔力が漏れ出ている。ヘンリーの嫌な予感がさらに強まる。
「光よ!」
三つ目ゴブリンたちが視認できる距離まで近付いた途端イーダの両掌が前に突き出されそこから洞窟内を隙間なく埋めるほどの太い光線が強烈な光とともに発射される。喰らったらひとたまりもないだろうその魔法にオーランドが出番なしかとレイピアを鞘に納める。それでもヘンリーの嫌な予感は止まらず強まるばかりで眉間のしわが強まっていく。おー、と感嘆の声を上げていたコウエンがそんな様子のヘンリーに気が付いた。
「どうしたの?」
「……嫌な予感が。気のせいだといいが」
「それが当たっていたとしても俺たちなら大丈夫だろう」
深刻な様子にヘンリーにオーランドが元気づけるように調子明るく言う。コウエンもヘンリーの背中を撫でた。
数十秒続いた光線が徐々に弱まり、細くなって消えた。松明すら吹っ飛ばしてしまったためどうなったか見えないがコウエンの耳は何の音も拾わない。念のためにと魔力に余裕のあるヘンリーが小さな光魔法で辺りを照らした。
光線は肉を焼き尽くしたのだろう、大量の三つ目ゴブリンの骨と灰があちこちに散らばっていた。奥まで確認しようとヘンリーがイーダよりも前に行こうとした瞬間、コウエンの耳がピク、と動いた。
「待って! でかい…足音……? 何この重さ」
遠くから聞こえるズシン、とした足音にコウエンの顔が青ざめていく。距離は相当離れているはずなのに聞こえてくる音の重みにその身体の大きさが想像される。
「魔力をかんz……」
戦闘に居たイーダが注意勧告しようとした瞬間、その身体が横に吹き飛ばされた。グシャ、という音とともに壁にぶつかり口から目から鼻から耳から血が噴き出る。身体の側面からぶつかったはずなのにその横側が不自然に平らになっている。骨が飛び出ている。ヘンリーは驚きに動けない。
「大ゴブリンだ!! 転移魔法を使ったのか!」
一早く我を取り戻したオーランドが大声を上げながらレイピアを抜く。対峙するは体長2m程はあろうか、でっぷりと太った大きな大きなゴブリン。その太い右腕でイーダを殺したのであろう、赤く濡れている。額に第三の目があり、ギョロリと突きかかろうとするオーランドを見下げる。
大ゴブリンはその巨体故に素早く動くオーランドを避けきれずにレイピアが腹に突き刺さり、すぐ抜くとみぞおちに向かって刺そうとするも大ゴブリンは両腕でガードする。その腕は脂肪だけかと思いきや強靭な筋肉があるのかレイピアは片方の腕すら貫通できない。そして、抜けない。
「筋力の補助魔法を!」
「魔力がない! ヘンリーもいい加減動いて!!」
叫ぶように答えるコウエンは言いながら腰の短剣を抜いて大ゴブリンに立ち向かう。やっと我に返ったヘンリーも大剣を抜いて今にも刺さったレイピアを折らんとする大ゴブリンの腕に向かって振り下ろした。
が、切り落とせない。刃の半分ほどで大剣の動きが止まった。大ゴブリンは煩わしそうに唸り声をあげると足元を狙いに来たコウエンを蹴る。ただ蹴っただけなのにまともに食らったコウエンは吹っ飛び、口から大量の血を吐いて倒れる。
「どんな筋肉しているんだこいつ!! くっそ、解析魔法……!」
ヘンリーが叫びながら全体重をかけて切り落とそうにも動かない。オーランドがレイピアを抜くのをあきらめて手を放し、ヘンリーの大剣の柄に手をかけて共に力を籠める。
ヘンリーの目の周りに魔力が集まり大ゴブリンの解析を始める。大ゴブリンは腕を斬られまいと力を籠め続けて大して動かない。
「なん……っだ、この強力な筋力増強魔法! 普通の三つ目大ゴブリンでも扱えないだろう!!」
解析結果に驚くヘンリー、それを聞いて何が起きているんだと言わんばかりのオーランド。魔力関係で頼りになる二人はすでに事切れている。
と、大ゴブリンも痺れを切らしたのか大剣が刺さっている腕に痛みも我慢して大きく振り上げた。そう、大剣を握っている二人ごと。とっさに手を放そうとする二人、しかしそれよりも早く強く強く地面に叩きつけた。
「がっ……!」
痛みに呻く二人、大ゴブリンは先にオーランドの顔に向かってその顔よりも大きな足を下ろした。グシャともプチとも聞こえる音、弾ける血と脳漿がヘンリーの顔にかかる。逃げようとするヘンリーだが、オーランドを踏みつぶした脚とは逆の脚で蹴られ大砲で打たれたかのような衝撃とともに壁にぶつかる。
痛みしか感じない中、潰れたイーダ、蹴り殺されたコウエン、踏みつぶされたオーランドを見る。
――あの嫌な予感はコイツだったのか。嗚呼……俺は最初の敵に殺される最弱の勇者になるのか。
そう悟った瞬間、大ゴブリンの拳が彼の腹を胸をつぶした。視界が暗転する。意識がなくなる。
「なんだ……? 光るなんて聞いたことない」
「いいえ、昔聞いたことあるわ。勇者の紋様には祝福があってその祝福によって紋様が光るって。実際、すごい魔力を感じるもの」
オーランドの言葉にイーダが答える。コウエンが興味津々にその紋様をのぞき込んでいる。神秘的な光に三人はさすがは勇者だと話すも、当の本人は呆気に取られていた。
――さっきのは……?
徐々に光が収まっていくのを見ながら話す三人を見るヘンリー。先ほどの出来事は白昼夢だったのかと思うほど三人とも元気に聞き覚えのある会話を繰り広げていた。
光が収まるとヘンリーは先ほどの出来事を振り払うように軽く首を振ってから手袋を付けなおした。そして一行は洞窟内へと足を踏み入れる。中は広めで暗いが三つ目ゴブリンが設置したのであろう松明で視界は確保されている。数メートルほど進むと見張りと思わしき三つ目ゴブリンが三体居たものの素早く詠唱したイーダの炎玉で一体、強い踏み込みで一気に距離を詰め、無駄のない動きで二体の急所をレイピアで刺して倒す。
全く同じ展開、同じ動き。
「奥から三つ目が来る気配がする……。気が付いたかな、バフかけるね」
鋭い聴覚があわただしくこちらに来る足音を拾うと一人一人に攻撃と防御を強める魔法をかけていこうとするとイーダが「あ、」と声を上げた
「一本道だし極大魔法で殲滅できないかしら。魔力向上って可能かしら?」
「まっかせて!」
「魔法ってのはおっかないな……」
「まっ……」
肩をすくめたオーランド。そして止めようとするヘンリーよりも先にコウエンがありったけの魔力をこめてイーダの魔力、魔法攻撃力を上げていく。この一発で終わるだろうという考えが見えるほどの強力な補助魔法。
――ダメだ。ダメだ!!
どう止めようか、そもそもどうしてこんな状況になっているのかわからず混乱しているヘンリーに気が付かず、三つ目ゴブリンを引き付ける合間に長い詠唱を行うイーダ。彼女もまた一発で終わらせる気なのだろう、魔法に詳しくないオーランドでもわかる程魔力が漏れ出ている。
「光よ!」
「ダメだ!!」
遅かった。三つ目ゴブリンたちが視認できる距離まで近付いた途端イーダの両掌が前に突き出されそこから洞窟内を隙間なく埋めるほどの太い光線が強烈な光とともに発射される。
魔法に集中しているイーダは気が付かず、オーランドとコウエンが様子のおかしいヘンリーに声をかける。
「どうした?」
「ダメだ、まだ魔力を使い切っちゃダメだ! 奥に強化された大ゴブリンがいる!」
「えぇ!? そんなのいないって話だよ!? もうアタシの魔力ないし、イーダの魔法だって止められないよ!」
そう返すコウエンの言葉にイーダもそれを肯定するように首を横に振る。数十秒続いた光線が徐々に弱まり、細くなって消えた。松明すら吹っ飛ばしてしまったためどうなったか見えないがコウエンの耳は何の音も拾わない。ヘンリーは急いで前回と同じように小さな光魔法で辺りを照らした。
光線は肉を焼き尽くしたのだろう、大量の三つ目ゴブリンの骨と灰があちこちに散らばっていた。
――この後すぐイーダが……。
ヘンリーはイーダを押しのけるように前に出た。イーダは驚きつつも転移魔法の魔力を感知し、その瞬間にヘンリーの身体に大きな衝撃とありえないほどの痛みが全身を襲った。目の前が真っ暗になる。遠のいていく意識の最中、一つの答えにたどり着く。
――同じ展開すぎる。これは、もしかして。
「なんだ……? 光るなんて聞いたことない」
「いいえ、昔聞いたことあるわ。勇者の紋様には祝福があってその祝福によって紋様が光るって。実際、すごい魔力を感じるもの」
オーランドの言葉にイーダが答える。コウエンが興味津々にその紋様をのぞき込んでいる。三度目の出来事にヘンリーはその紋様の光を睨みつけるように見ている。
――オーランド達は最初から今回まで全く変わらない。つまりループして記憶を持ち越すのは俺だけだ。ループから抜け出す方法は分からないが、する条件は俺の死。そして戻る時間はこの紋様が光った時。
二度目ほどの混乱はもうなく、冷静に分析を始めていくヘンリー。紋様の光が収まってくると彼は今までと同じように手袋を着ける。
「みんな、聞いてくれ。作戦を立てよう」
顔を上げたヘンリーの表情は三人にとっては先ほどまでの自信に満ち溢れたそれから変わっていて一瞬呆けるものの、イーダが発言をしたいと軽く片手を挙げる。発言を促すようにヘンリーが彼女の方を向いて頷いた。
「コウエンの補助魔法を貰って極大魔法の光線を撃とうと思っているわ。私の魔法攻撃の素晴らしさを知ってほしいもの」
「そう言う事ならアタシの補助魔法の凄さも知ってほしいし、全力でかけるよ!」
――それじゃ同じなんだ。
そう言いそうになるもののヘンリーは考える素振りを見せる。拒否するにも真っ向から否定してはこれからの仲に亀裂が入る可能性もある。と、オーランドが先ほどのイーダに習って片手を挙げるとみんながそちらを向く。
「確かに実力を知るのは大事だが、洞窟は一本道とは限らないんじゃないだろうか。もし横道に三つ目ゴブリンがいて……それが数多かった場合俺とヘンリーだけで対処する事になってしまう」
オーランドの言葉にヘンリーは内心安堵の息を吐く。却下する理由は異なれどもこの案を採用させなければなんでもいいのだ。イーダとコウエンも確かに、と頷いて全力を使い切ることは止めた様子だ。じゃあどうするのか、と三人の視線がヘンリーに向かう。勇者である彼が実質的なこのパーティーのリーダーなのだ。
「相手は強くもない三つ目ゴブリンだが数が多いと聞く。なら今はコウエンの視野に頼っている連携攻撃を彼女に頼らずペアで練習しつつ、長期戦を想定して力を温存しながら殲滅していくのはどうだろうか」
もっともらしいことを述べつつも一番の目的である力の温存を強調する。そうすればあの強力な筋力補助魔法がかかった大ゴブリンにも対抗できるのではないか。
――対抗できなければここから進まない気がするんだ。
「それはいいかも! そしたら魔法が得意なアタシとイーダは分けたほうがいいよね」
「それなら俺とイーダは能力的には攻撃一辺倒だしある程度補助もできるヘンリーとイーダが組んだほうが良くないか? コウエンは俺とペアを組めばバランスが取れると思う」
「特に異論は無い。よろしくな、イーダ」
「ええ、よろしく」
片手を差し出すヘンリーに妖精族特有の華奢な手で応えるイーダ。オーランドとコウエンもまた握手し、あまり二組とも離れないことを約束して洞窟の中へと歩み出した。
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