異世界薬剤師 ~緑の髪の子~

小狸日

001呪いの子

ある町を大地震が襲った。

建物は崩れ、人々はその下敷きに・・・


大勢の人の命を奪った地震が治まり、その町で1人の女の子が生まれた。

綺麗な緑色の髪をした女の子が・・・


『呪いの子』


緑の髪は災いを招く「呪いの子」と呼ばれていた。


******


馬車がスピードを出して街道を走り、その後ろから何体もの灰色の魔物が追い掛けている。


「姐さん、お嬢の状態はどうです。」


姐さんと呼ばれた女性の側には、高熱にうなされている少女が居た。

少女は魔獣の毒に侵されていた。

女性は、少女の汗で額にへばりついた黒髪を分け、額に手をかざし回復魔法をかけている。

回復魔法では解毒は出来ないが、苦痛を和らげる事は出来る。


「良く無い。こんなに揺れてしまっては体に負担が掛かるだけだ。」


「そうですか。バン、ジャン、悪いが付き合ってくれるか。」

「仕方無いな。俺は女性の味方だからな。」

「やるしかないよね。」


バン、ジャンと呼ばれた2人の男は同意すると、鞘から剣を抜く。


「姐さん、デカイのを一発お願いします。」

「お前達・・・分かった。」


その女性の手を、少女が掴む。


「止めて、私の為に無理はしないで。」


虚ろな眼差しで見る少女の手をそっと外し、女性が火の魔法を灰色の魔獣に向けて放つと男達は馬車を飛び降り、魔獣に挑んで行った。


「トウ、バン、ジャン、私の為に。」


少女の目から涙が流れた。


******


灰色の魔獣、グレイウルフの注意を俺達に向けさせろ。

グレイウルフを街道から遠ざけろ。

それだけを目的に、攻撃を仕掛けながら森の中へと駆け出した。

馬車から飛び降りてから、何時間経っているのだろう。


「これは持久戦になって来たな。」

「そうだな。あいつ等、俺達が弱るのを待っているみたいだ。」

「でも、これで馬車は安全だよね。」


3人は岩を背にしてグレイウルフと対峙している。

トウは腕に怪我をしていて、かなりの出血だ。


「良いか、俺が奴等の中へ切り込んで行く。隙を見つけてお前達はこの場を逃げ出せ。」

「トウは何を言ってるの。そんな事、出来る訳無いよ。」

「これは、リーダー命令だ。このままだと全員死ぬ。

 なら、誰かが助かる道を選択するしかない。

 俺はこの傷だ。この場を逃げられても後が厳しい。

 だったら、俺が2人の突破口を開いて見せる。」


トウの言葉に、ジャンは何も言えなくなってしまった。


「待て。もしかすると、他に方法が有るかもしれない。」


バンが指し示す方を見ると、光が点滅していた。

明らかにこちらに合図を送っている。

その光の点滅に合わせてバンが指笛を吹くと光が消えた。


「どうやら、俺達が気が付いたと分かったみたいだな。

 誰かは分からないが、俺達を助ける為に何かをしてくれるかもしれない。

 動きが有ったら、光が有った方へ走るぞ。

 トウ、絶対に一人でグレイウルフへ攻撃を仕掛けるなよ。」


バンに言われ、トウが頷いている。

すると、光が点滅していた方から何かが飛んで来た。

それが木や地面にぶつかり弾けると、赤い煙が広がり、強い匂いと、目に刺激が襲う。

それが何発もグレイウルフに向けて飛んでくると、グレイウルフ達の囲いが崩れた。


「今だ、走れ。」


3人は走りだした。

3人を追おうとしたグレイウルフも居たが、赤い煙に阻まれ目標を見失っていた。


「そのまま、真っ直ぐ走って大岩の所へ。俺も後から向かう。」


走って逃げる3人に、木の上から声が掛けられる。

その間にも、木の上から煙球を飛ばしている。

未だ若い男の声だ。3人は言われた通りに走り続け彼が言っていた大岩に辿り着いた。


「どうやら、俺達は助かったみたいだな。」

「あぁ。トウ、腕を出せ。ポーションは切らしているが、応急処置だけでもしておく。」


バンがゲートと呼ばれる魔法陣を形成すると、空間魔法で収納していた薬と布を取り出し

腕の傷の応急処置をしてくれた。


「しかし、魔道士っていうのは便利だな。

 空間魔法が有れば、手ぶらで荷物を持ち運びできる。」


「そうは言っても、俺は初級魔道師だからな。

 収納力は大したことは無いし、使える魔法もたかが知れている。

 属性が風だったから細かい探索魔法が使えるのが救いだったな。」


バンはそう言いながら、ゲートを開いてパンと水を取り出すとトウとジャンに配っていた。


「命の恩人は未だ来ないようだから、今の内に腹ごしらえでもしようぜ。」


岩場の影で3人が待っていると、フードを被った人物が近付いてきた。

彼が助けてくれた人か。

小柄で、子供位の身長しかない。

3人は立ち上がり、命の恩人を迎えた。

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