第7話「危機と成長」
第1話「異変の予兆」
文化祭から一週間が過ぎた朝、神社の境内に不穏な空気が漂っていた。千代は早朝の清掃中、いつもと違う違和感を覚えていた。
「主様、この気配...」
月詠の声には、かすかな緊張が混ざっている。千代も同じものを感じていた。空気が重く、まるで誰かに見つめられているような感覚。
「ええ、何か様子がおかしいわ」
境内の隅から、座敷童子たちが慌ただしく飛んでくる。
「大変! 大変なの!」
「街の妖怪たちが騒いでるわ」
「みんな、不安そうなの」
三姉妹の報告に、千代は眉をひそめる。確かに、ここ数日、街の様子がおかしかった。占いの結果も、やや不安定になっている。
「千代ちゃん、おはよう!」
陽の声が、緊張した空気を破る。しかし、彼女の表情にも心配の色が見える。
「陽...あなたも感じているのね」
「うん、妖怪さんたちが落ち着かないの。特に昨夜から...」
言葉の途中で、突然の風が境内を駆け抜ける。紅葉が不自然な渦を巻き、空気が一瞬凍りつく。
「これは!」
千代と陽が同時に身構えた瞬間、赤玉の狐が姿を現す。その表情には、普段の余裕が見られない。
「危機が迫っています」
狐の言葉に、境内が静まり返る。月詠が千代の前に立ち、陽も自然と千代の隣に寄り添う。
「新たな力が目覚めようとしている。しかし、それは祝福とは限らない」
「新たな...力?」
千代の問いかけに、狐は深い瞳で二人を見つめる。
「あなたたちの絆が深まったことで、古い封印が揺らぎ始めた」
その時、街の方から不穏な気配が漂ってくる。陽が敏感に反応する。
「千代ちゃん、あれ...」
遠くの空が、かすかに歪んでいるように見えた。しかし、それは一般の人々の目には映らないものだろう。
「主様、私たちにできることは...」
月詠の言葉を遮るように、再び強い風が吹く。赤玉の狐の姿が、風に溶けていく。
「二人の力が試される時が来ました。しかし、恐れることはない」
最後の言葉を残し、狐は消えた。残された二人は、自然と手を取り合う。
「陽...私たち」
「大丈夫。一緒なら、きっと」
陽の力強い言葉に、千代は小さく頷く。文化祭での告白以来、二人の絆は確実に強くなっていた。しかし、それは新たな試練の始まりでもあったのだ。
「とりあえず、街の様子を見に行きましょう」
千代の提案に、陽も同意する。二人が境内を後にする頃、朝日が不吉な色を帯びていた。何かが、確実に動き始めている—。
第2話「広がる闇」
街に立ち込める異様な空気は、時間とともに濃くなっていった。下校時、千代と陽は商店街を歩きながら、その変化を感じ取っていた。
「ほら、あそこ」
陽が指さす方向には、普段は見かけない妖怪たちが慌ただしく行き交う姿があった。一般の人々の目には映らないそれらの存在が、まるで何かから逃げるように動いている。
「逃げているのね...でも、何から?」
千代の問いかけに、月詠が静かに応える。
「闇の気配です。しかし、これまでに感じたことのないもの」
その時、近くの占い屋から悲鳴が聞こえた。二人は咄嗟に駆け寄る。
「大変です! 占いが、占いが全く当たらないんです!」
店主の女性が取り乱している。千代は状況を確認するため、そっとタロットカードに触れた。
「これは...」
カードから伝わる感覚に、千代は息を飲む。通常なら感じるはずの力が、まるで闇に飲み込まれたかのように歪んでいた。
「私のも見て」
陽が差し出した古い数珠にも、同じような異常が見られる。二人の持つ霊力を持った道具が、次々と機能を失っていく。
「主様、これは単なる偶然ではありません」
月詠の言葉に、座敷童子たちも不安そうな表情で頷く。
「街中の占い師さんたちが、同じように困ってるの」
「みんな、力が使えなくなってるわ」
「これって、きっと...」
三姉妹の報告を聞きながら、千代は自身の占いの力を試してみる。しかし、カードは無機質な紙切れのように冷たく、何の反応も示さない。
「陽、あなたの霊感は?」
「うん...なんだか、ぼんやりしてきてる。妖怪さんたちの姿も、だんだん見えにくくなってきた」
二人の会話の間にも、街の異変は広がっていく。商店街の明かりが、いつもより暗く感じられる。人々の表情にも、無意識の不安が浮かんでいた。
「これは、きっと赤玉様の言っていた...」
千代の言葉を遮るように、突然の風が吹き抜ける。その風に乗って、かすかな笑い声が聞こえた気がした。
「千代ちゃん!」
陽が千代の手を強く握る。その温もりが、不安な心を少し落ち着かせる。
「私たちの力が、何者かに...」
「でも、一緒なら」
二人の言葉が重なる。文化祭での告白以来、二人の間には確かな絆が育まれていた。その絆は、この異変の中でむしろ強くなっているようだった。
「主様、一度神社に戻りましょう。この状況を詳しく調べる必要があります」
月詠の提案に、二人は頷く。夕暮れの街を見渡すと、空には不自然な闇が広がりつつあった。何者かの意志を感じさせる、不穏な闇—。
第3話「力を合わせて」
夜の神社。千代と陽は本殿の前で向かい合い、状況の打開策を探っていた。周囲には式神たちが集まり、月明かりの下で作戦会議が開かれている。
「やはり、二人の力を合わせるしかないでしょう」
月詠の提案に、千代は静かに頷く。しかし、その方法が分からない。
「でも、どうやって...」
「私たちの力は、まだ完全には失われていないもの」
陽が差し出した数珠には、かすかな光が残っていた。千代のタロットカードにも、微弱ながら反応がある。
「主様、二人の絆を利用するのです」
月詠の言葉に、二人は顔を見合わせる。文化祭での告白以来、二人の間には確かな絆が育まれていた。その絆こそが、今の状況を打開する鍵なのかもしれない。
「試してみましょう」
千代が陽の前に座り、タロットカードを広げる。陽も数珠を手に取り、千代と向き合う。
「まずは、お互いの力を感じ取ることから」
二人が目を閉じ、静かに呼吸を整える。すると、不思議な感覚が広がり始めた。
「これは...」
千代の周りに、淡い光が浮かび上がる。それは陽の数珠から放たれる光と呼応するように、ゆっくりと形を作っていく。
「主様、その調子です!」
月詠の声に励まされ、二人は集中を深める。するとカードが一枚、自然と浮かび上がった。
「大きな変化を表すカード」
千代の説明に、陽が目を開ける。
「見える...街の様子が」
陽の霊感が捉えた映像を、千代のカードが映し出す。街を覆う闇の正体が、少しずつ明らかになっていく。
「あれは...」
闇の中心に、得体の知れない存在が潜んでいた。それは人の形でもなく、妖怪の姿でもない。まるで、古い呪いが具現化したかのような存在。
「百年前の...」
その時、境内に強い風が吹き抜ける。二人の力が作り出した光の輪が、一瞬激しく明滅した。
「千代ちゃん!」
陽が千代の手を取る。その瞬間、光の輪が安定を取り戻す。
「二人で見る世界は、一人では見えないものが見えるのね」
千代の言葉に、陽は優しく微笑む。二人の力が融合することで、新たな可能性が開けていく。
「これなら、きっと...」
しかし、その言葉の途中で異変が起きた。境内の空気が急激に重くなり、闇の気配が神社にまで押し寄せてくる。
「主様、危険です!」
月詠の警告に、二人は咄嗟に身を寄せ合う。しかし、その時に感じた二人の温もりは、どんな闇よりも確かなものだった。
「陽、私たち...」
「うん、一緒に立ち向かおう」
固い決意を胸に、二人は立ち上がる。解決への道筋は、まだ見えない。しかし、二人で力を合わせれば、きっと道は開けるはず—。
第4話「試練の時」
深まる夜。神社の境内に、不穏な空気が渦を巻いていた。千代と陽は本殿の前で、押し寄せる闇の気配と対峙している。
「この気配...私たちを試しているのね」
千代の言葉に、陽が静かに頷く。二人の周りには、かすかな光の輪が形作られていた。それは、二人の力が融合して生まれた守りの場。
「でも、なかなか近づけないわ」
確かに、闇の正体に迫ろうとするたびに、不思議な力で阻まれる。月詠が心配そうに見守る中、座敷童子たちが慌ただしく飛んでくる。
「大変! 街の方が...」
「妖怪さんたちが、次々と」
「消えていくの!」
三姉妹の報告に、二人は顔を見合わせる。このまま手をこまねいているわけにはいかない。
「陽、もう一度試してみましょう」
千代がタロットカードを広げ、陽が数珠を手に取る。二人の呼吸が、自然と一つに重なっていく。
「この感覚...」
融合した力が、新たな視界を開いていく。街を覆う闇の中に、かすかな光の道が見えてきた。
「これは、私たちへの導き?」
その時、突然の衝撃が二人を襲う。闇が形を変え、まるで生き物のように蠢き始めた。
「千代ちゃん、危ない!」
陽が咄嗟に千代を庇う。その瞬間、二人の間に強い光が走った。
「これは...」
驚きの声を上げる間もなく、二人の体が光に包まれる。そこに映し出されたのは、百年前の記憶の断片。
「見えるわ...私たちの前世が」
かつての二人も、同じように闇と対峙していた。しかし、その時は力が足りず、闇を完全に封じることはできなかった。
「だから、私たちに託されたの」
記憶が薄れていく中、千代と陽は確かな決意を胸に抱く。今度こそ、二人の力で道を切り開かなければならない。
「主様、新しい力が目覚めようとしています」
月詠の声に導かれ、千代は陽の手を強く握る。その温もりが、新たな可能性を呼び覚ましていく。
「一緒なら、きっと...」
「できるはず」
二人の言葉が重なった瞬間、境内に温かな光が広がった。それは、百年前よりも強く、純粋な輝き。
「これが、私たちの本当の力?」
しかし、そこに突如として濃い闇が襲いかかる。光の輪が、一瞬激しく揺らいだ。
「まだ...完全じゃないのね」
千代の呟きに、陽が強く頷く。
「でも、確実に近づいてる。私たち、きっと...」
言葉の途中で、再び闇の気配が強まる。しかし、今度は二人の表情に迷いはない。
「陽、行きましょう」
「うん、一緒に」
二人は手を取り合ったまま、本殿を後にする。街へと続く階段を見下ろすと、そこには不気味な闇が渦巻いていた。
しかし、二人の心は以前より強くなっている。どんな試練が待ち受けていようと、共に乗り越えていく—そんな確かな決意が、秋の夜空に輝いていた。
第5話「互いを想う気持ち」
街を覆う闇は、時間とともにその濃さを増していった。千代と陽は商店街の一角で足を止め、不自然に歪む空間を見上げている。
「妖怪さんたちが、どんどん姿を消していくわ」
陽の声には、かすかな震えが混じっていた。その手に握られた数珠の光も、徐々に弱まっている。
「このままでは...」
千代の言葉が途切れる中、突然の風が二人を包み込む。その風は、まるで二人の力を吸い取るかのように冷たい。
「千代ちゃん!」
陽が咄嗟に千代を抱きしめる。その瞬間、二人の周りに淡い光の膜が形成された。
「この光...私たちの想いが」
抱擁が生み出した光は、確かな温もりを持っていた。それは闇をも押し返すほどの、純粋な輝き。
「主様、その調子です」
月詠の声に導かれ、二人はさらに強く抱きしめ合う。するとタロットカードが自然と舞い上がり、二人を中心に円を描き始めた。
「見える...私には見えるわ」
千代の目に映るのは、街を覆う闇の正体。それは単なる邪気ではなく、百年前の封印された想いが歪んで具現化したもの。
「私たちの前世の...」
「うん、きっとそう」
陽も同じものを感じ取っていた。二人の力が一つになることで、見えなかったものが見えてくる。
「あの時、私たちは...」
記憶の断片が、さらに鮮明に蘇ってくる。百年前、同じような危機に直面した二人。しかし、その時は力が足りず、想いを封印するしかなかった。
「でも、今度は違う」
陽の力強い言葉に、千代は顔を上げる。そこには、揺るぎない決意を秘めた瞳があった。
「私たちには、確かな絆がある」
その言葉と同時に、二人の体から柔らかな光が溢れ出す。それは闇をも照らすほどの、温かな輝き。
「この力は...」
驚く二人の前に、赤玉の狐が姿を現す。
「想いが重なれば、新たな力が目覚める。それが、あなたたち二人に与えられた運命」
狐の言葉に、二人は静かに頷く。まだ完全な力とは言えないかもしれない。しかし、確実に道は開けてきている。
「陽...私」
「大丈夫。一緒だから」
再び強まる闇の気配。しかし、二人の表情に迷いはない。互いを想う気持ちが、どんな闇よりも強い光となって輝いている。
「行きましょう」
「うん、どこまでも」
手を取り合う二人の姿に、月詠は安堵の表情を浮かべる。座敷童子たちも、小さな歓声を上げていた。
夜空に浮かぶ月が、二人を優しく照らしている。これは試練の始まりかもしれない。しかし、互いを想う気持ちがある限り、きっと道は開けるはず—。
第6話「真実との対峙」
闇に包まれた街の中心部。千代と陽は、かつての自分たちが封印を施した場所へと足を踏み入れていた。古い神社の跡地には、今はビルが建ち並んでいる。
「ここが、百年前の...」
千代の言葉が途切れる中、空間が歪み始める。現代の景色が薄れ、かつての神社の姿が幻のように浮かび上がる。
「見えるわ...私たちの記憶が」
二人の前に、百年前の光景が広がっていく。同じように闇と対峙する二人の姿。しかし、その時は力が及ばず、想いを封印することしかできなかった。
「主様、気を付けてください」
月詠の警告の直後、強い風が吹き抜ける。その風に乗って、かすかな声が聞こえてきた。
『なぜ...私たちの想いを』
千代と陽は、その声に息を呑む。それは百年前の自分たちの声であり、同時に現在の闇の正体でもあった。
「封印された想い...それが歪んで」
陽の言葉に、千代は静かに頷く。二人の純粋な想いは、時を経て別の形に変わってしまった。それが今、街を覆う闇となっている。
「でも、今度は違う」
千代が陽の手を強く握る。その瞬間、二人の周りに光の輪が形成される。
「私たちには、確かな絆がある」
その言葉と共に、タロットカードが舞い上がる。数珠の光も強まり、闇を押し返していく。
『それでも...あの時の痛みは』
闇の中から、再び声が響く。しかし今度は、その声に応える力が二人にはあった。
「分かっています。あの時の想いも、今の私たちの一部」
千代の言葉に、闇が僅かに揺らぐ。
「だから、もう封印なんてしない。ちゃんと向き合って、受け入れる」
陽の声が重なる。二人の言葉が、闇の中心へと届いていく。
「主様、力が...」
月詠の声に気付くと、二人の体から温かな光が溢れ出していた。それは百年前よりも強く、純粋な輝き。
「私たちの本当の力」
光は闇を照らし、そこに隠された真実を映し出す。封印された想いは、決して消えてはいなかった。ただ、新たな形で目覚めるのを待っていたのだ。
「受け入れましょう。私たちの過去も、現在も」
千代の言葉に、陽が頷く。二人の力が一つになると、不思議な現象が起き始めた。闇が光に包まれ、その姿を変えていく。
「これが、本当の姿...」
それは憎しみや怒りではなく, 純粋な想いの結晶。百年の時を経て, ようやく本来の形を取り戻そうとしていた。
「私たち、きっと」
「うん、一緒なら」
手を取り合う二人の前で、新たな物語が始まろうとしていた。
第7話「最後の決断」
夜空に月が高く昇る頃、千代と陽は古い神社の跡地で、過去からの想いと向き合っていた。闇は形を変え、今や美しい光の結晶となって二人の前に浮かんでいる。
「この光は...」
千代が手を伸ばすと、結晶が優しく脈動する。そこには百年前の想いが、純粋なままの姿で封じられていた。
「まるで、私たちの心そのもの」
陽の言葉に、月詠が静かに頷く。
「主様、これが本来あるべき姿なのです」
結晶の中で、かつての二人の想いが優しく光を放っている。それは憎しみでも怒りでもなく、ただ純粋な愛そのものだった。
「でも、このままじゃ...」
確かに、結晶は不安定な状態にある。このまま放置すれば、再び闇に飲み込まれてしまうかもしれない。
「千代ちゃん、私たちにできること」
陽が千代の手を取る。その瞬間、二人の心に同じ考えが浮かぶ。
「ええ、今度は違う方法で」
タロットカードが舞い、数珠が光を放つ。二人の力が、新たな可能性を開こうとしていた。
「主様、その方法は...」
月詠の声には、かすかな不安が混じる。しかし、千代の表情は決意に満ちていた。
「大丈夫。今の私たちなら」
「できるはず。だって...」
陽が言葉を継ぐ。
「私たちには、確かな絆があるから」
その言葉と共に、結晶が強く輝き始める。座敷童子たちが息を呑む中、二人は静かに目を閉じる。
「百年前の想いを、今度は...」
「受け入れて、新しい力に」
二人の声が重なった瞬間、不思議な現象が起き始めた。結晶が溶け出し、光の粒子となって二人の周りを舞う。
「主様!」
月詠の声が響く中、光の渦が二人を包み込んでいく。しかし、そこに恐れはない。むしろ、温かな安心感が広がっていた。
「陽...」
「うん、一緒に」
手を強く握り合う二人。百年前の想いが、新たな形で二人の中に溶け込もうとしていた。
「これが、私たちの選んだ道」
千代の言葉に、陽が頷く。封印でもなく、否定でもない。純粋な想いを、そのまま受け入れる道。
「主様、新しい力が...」
月詠の言葉の通り、二人の体から今までにない光が放たれ始める。それは百年の時を経て、ようやく目覚めた本当の力。
「準備はいい?」
「ええ、いつでも」
決戦の時が近づいていた。しかし、二人の表情には迷いがない。共に選んだ道を、最後まで歩む決意が、夜空に輝いていた。
第8話「決戦」
夜空が最も濃い色を帯びる頃、古い神社の跡地は神秘的な光に包まれていた。千代と陽の周りには、百年の時を経た想いが光の粒子となって舞っている。
「始まるわ」
千代の声に呼応するように、街全体が不思議な輝きを放ち始めた。それは闇が完全に姿を現す前触れ。二人は強く手を握り合う。
「私たちの力を、一つに」
タロットカードが円を描くように舞い上がり、陽の数珠が七色の光を放つ。二人の力が融合した瞬間、空間が大きく歪んだ。
「これが、最後の試練」
月詠の言葉通り、闇が最後の抵抗を始める。百年前の封印された想いが、歪んだ形で襲いかかってくる。
「でも、もう恐れはしない」
陽の力強い言葉に、千代も頷く。二人の周りに形成された光の輪が、闇を押し返していく。
「見えるわ...本当の姿が」
千代の占いの力と、陽の霊感が完全に一つとなる。その視界に映るのは、純粋な想いの結晶。それは決して消えることなく、ただ新たな形での目覚めを待っていた。
「受け入れましょう」
二人の声が重なった瞬間、驚くべき現象が起きる。光の渦が二人を中心に広がり、街を覆っていた闇を飲み込んでいく。
「主様、素晴らしい!」
月詠の声に、座敷童子たちも歓声を上げる。しかし、戦いはまだ終わらない。
「このまま...!」
闇が最後の抵抗を見せる中、千代と陽の力が最高潮に達する。百年前の想いが、二人の中で新たな力として目覚めていく。
「私たちの道は」
「ここにある!」
完全に一つとなった声が夜空に響き、光が闇を貫く。それは憎しみでも怒りでもない、純粋な愛の力。
「終わったの?」
かすかな問いかけに、赤玉の狐が姿を現す。
「いいえ、始まったのです」
その言葉通り、光は消えることなく、より穏やかな輝きへと変わっていく。それは二人の新たな力の証。
「見て、千代ちゃん」
街に散りばめられた光の粒子が、ゆっくりと舞い降りる。妖怪たちが姿を現し、安堵の表情を浮かべている。
「私たちの力で」
「守れたのね」
抱き合う二人の周りで、光の粒子が優しく舞う。それは百年の時を経て、ようやく本来の姿を取り戻した想いの輝き。
「主様、本当におめでとうございます」
月詠の祝福の言葉に、二人は微笑む。決して簡単な道のりではなかったが、共に乗り越えられた。それこそが、最大の証だった。
第9話「勝利の瞬間」
夜明け前の街は、静かな光に包まれていた。闇との戦いを終えた神社の跡地で、千代と陽は新しい力の温もりを感じていた。
「本当に、終わったのね」
千代の言葉に、陽が優しく頷く。二人の周りには、まだ光の粒子が優しく舞っている。それは百年の時を経た想いが、ようやく本来の姿を取り戻した証。
「ねぇ、千代ちゃん。試してみない?」
陽の提案に、千代は静かにタロットカードを取り出す。以前とは違う、温かな感触が手のひらに伝わってくる。
「不思議...こんなに鮮明に」
カードが示す未来が、かつてないほど明確に見えていた。それは闇との戦いを経て、二人の力が真の姿を取り戻した証。
「私にも見えるわ」
陽の数珠が七色の光を放つ。その光は以前より温かく、まるで生命を持つかのよう。
「主様、おめでとうございます」
月詠の声には、深い感動が込められていた。座敷童子たちも喜びの舞を披露している。
「みんな戻ってきたのね!」
「街の妖怪さんたち、無事だったわ」
「よかった、よかった!」
三姉妹の歓声に、街中の妖怪たちが応える。闇に飲み込まれていた存在たちが、次々と本来の姿を取り戻していく。
「これが私たちの本当の力」
千代の言葉に、陽が寄り添う。二人で受け入れた過去の想いは、今や新たな力となって心の中で輝いていた。
「もう、封印なんていらないのね」
「うん、これからは一緒に」
その時、赤玉の狐が静かに姿を現す。その表情には、深い安堵の色が浮かんでいた。
「よくぞ成し遂げました。これぞ真の結末」
狐の言葉に、二人は微笑む。百年前とは違う道を選び、そして新しい力を手に入れた。
「千代ちゃん、見て!」
陽が空を指さす。夜明けの光が、街を優しく照らし始めていた。その光は、まるで二人の新しい力のよう。
「私たち、もっと強くなれたのね」
タロットカードが風に舞い、数珠が共鳴する。その響きは、かつてないほど澄んでいた。
「主様、これからが本当の始まりですね」
月詠の言葉に、二人は頷く。戦いは終わっても、物語はまだ続いていく。むしろ、本当の物語は、ここから始まるのかもしれない。
「陽...」
「うん、一緒に歩いていこう」
手を取り合う二人を、夜明けの光が優しく包み込む。それは新しい日の始まりであり、同時に二人の新たな物語の幕開けでもあった。
第10話「新たな力」
朝日が街を染め始める頃、千代と陽は神社へと戻っていた。階段を上りながら、二人は新しい力の温もりを噛みしめている。
「不思議ね。こんなに自然に力が馴染むなんて」
千代の手の中で、タロットカードが柔らかな光を放つ。それは以前よりも温かく、まるで生きているかのよう。
「うん、私も同じ」
陽の持つ数珠も、七色の光を静かに脈動させている。二人の力は、闇との戦いを経てより深く、より確かなものになっていた。
「主様、試してみましょうか?」
月詠の提案に、千代は静かに頷く。境内の中央で、二人は向かい合って座る。
「いつもの占いを、新しい力で」
カードを広げる千代の手に、迷いはない。陽も数珠を手に取り、穏やかな表情を浮かべる。
「これは...!」
二人の力が融合した瞬間、驚くべき光景が広がる。カードが示す未来が、まるで映像のように鮮明に見えていた。
「千代ちゃん、見える?私たちの道が」
「ええ、こんなにはっきりと」
それは単なる占いの結果ではなく、二人で切り開いていく未来の可能性。光となって溶け込んだ百年前の想いが、その道筋を照らしている。
「素晴らしい成長ですね」
赤玉の狐が静かに姿を現す。その表情には、深い満足の色が浮かんでいた。
「この力は、きっと誰かの幸せのために」
千代の言葉に、陽が優しく微笑む。
「うん、私たちらしい使い方ね」
座敷童子たちが、嬉しそうに二人の周りを舞う。
「見てて良かったわ!」
「二人の成長」
「これからが楽しみ!」
妖怪たちの祝福を受けながら、千代と陽は手を取り合う。その瞬間、境内全体が柔らかな光に包まれた。
「主様、本当におめでとうございます」
月詠の声には、深い感動が込められている。かつての主従関係を超えて、真の絆で結ばれた証。
「これからも、もっともっと」
「強くなれるわ、一緒に」
朝日が境内を優しく照らす中、二人の新しい物語は確実に動き始めていた。それは闇との戦いを超えて、さらに大きな可能性へと続いていく道。
「陽...」
「うん、千代ちゃん」
言葉を交わすまでもなく、二人の心は通じ合っていた。これは終わりではなく、新たな始まり。
「行きましょう」
「うん、どこまでも」
手を取り合ったまま、二人は朝日に向かって歩き出す。その背中を、月詠と妖怪たちが温かく見守っていた。
新しい力と共に歩む道は、きっと輝かしいものになるはず—。それを誰もが確信していた、清々しい朝の訪れだった。
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