大日本皇国の古文書(written by sana)

 ウィンチェスター王家、内閣府直轄公文書館・館長、ウォーレン・ミッドマイヤーとは私のことである。気軽に、ウォーちゃんと呼んでくれ給え。


 あえて語る必要もないが、公文書館では、王家のありとあらゆる文書を保管している。それ故に、国家の礎を知ることになる。文官、考古学者、魔術師、司書、教師、医師、商人、貴族……ありとあらゆる身分、職種をこえて、この国家プロジェクトは稼働しているワケだが。

 我々は、大きな壁にぶつかっている。



 ――異世界、大日本皇国の字で描かれた古文書。聖母・サクラ様が生まれた国の言語は、解読に難解を極めた。


 まるで解読できないのだ。

 一文字目は分からない。

 二文字目は「焼き」これは解読できた。

 しかし、それ以降は、ちんぷんかんぷんなのだ。


 異世界あちらでは、言葉の様変わりがあまりに早いという。


 ナウでヤングなトレンドは、チョベリバでケ-ワイ。アタリマエダのクラッカー。ジュリアナ・キョウト、君の瞳に100万ボルト・ゲッツ!

 うむ、何のことやら全然、分からぬ。


 それは良い。

 我々は、言語を探求する者ではない。

 今は兎に角、この文書の解読に必要な箇所を、情報収拾するのだ。時間は有限である。我々は、妖精のように、悠久の時を生きられない。


(……なぜもったいぶるのか。理解ができんっ)


 妖精の思惑は、所詮、ヒトには分からないと言うことか。ため息をついていると、当の眷属妖精と末姫のチェリー姫がお気楽な鼻歌が聞こえてきた。




「♪鯛焼き一番、電話は二番、三時のおやつは鯛焼堂♪」

「♪YO! YO! 今日のオヤツに鯛焼きドウ?♪」


 聖母・サクラ様が、異世界から持ち込んだ食材は多々あるが、そのなかでもウィンチェスターのソウルスイーツとなった、鯛焼きである。今や、城下に屋台を含めたら、300店舗は下らない。犬も歩けば、鯛焼堂とは、このことか。


(私には、ちょっと甘すぎるから、抹茶ぐらいが良いが)


 未だ、王女としての自覚がない末姫はさておき。

 私達は、気を取り直して、古文書に向き合ったのだった。





■■■





【とある未来の眷属妖精の物語】


(ばーか)

 パタパタ、羽をはばたかせ、飛びながら舌を出す。

 あんたらが、必死に解明しようとしていたの、桜那が初めて書いた鯛焼堂のCMなんだよね。某カステラ店のパクリだけど。


 え?

 教えてあげろ――?


 チェル、鬼だろ。

 幼い時の暴挙って、淑女は知られたくないものなんだよ。

 少なくとも、ボクは桜那に怒られるのは、勘弁だね。あいつ、怒ったら怖いんだって。



 いや、君はなんで不機嫌になるの?




 それより、今日はどこの鯛焼き屋さんに行く?

 今は、クリームの気分なんだよなぁ……って、チェル?

 

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