クーデレ幼馴染が私のことを好きすぎてやばいんですけど?!
SEN
第1話 クーデレ幼馴染が私を悩ませるんですけど?!
ガラリと教室の扉を開けて中に入る。春の日差しに照らされてポカポカと温まった教室は和やかな雰囲気が漂い、平和なひと時が流れていく。そんな教室には20人くらいの生徒がいて、思い思いのことをしているけれど、その中で一際輝く少女がいた。
銀色のロングヘアは日光を反射して輝き、絵画の中の美女と見紛う整った顔立ちを彩る。サファイヤのように蒼い瞳は吸い込まれてしまいそうなほど深い。目元の泣きぼくろは蠱惑的で、シルクのように白い肌とのコントラストを際立出せる。
一目見て彼女が特別な存在だと誰もが理解するだろう。それほどまで美しい彼女は他に一切興味を見せずに黙々と勉強をしていて、冷たい氷のような雰囲気をまとっている。誰も話しかけないで。そんなことを暗に言っているかのような近づき難い様子で、彼女の周りには不自然なほど人がいない。けれど彼女が持つ輝きは誰もが触れたがるほど美しい。誰もが二の足を踏んで入ることができない彼女の半径二メートルの空間に、私は慣れた足取りで踏み込んだ。
「やっほー、
彼女の近くに来ると私の肩から力が抜けて、意識しなくても柔らかい笑顔を形作る。私の声に気が付いた彼女は、キレイに整えられたノートに落としていた視線を私に向けた。
「
そうやって私の名前を呼ぶ声はふわふわの毛布みたいに私を包み込み、温かで心地よい感触が胸の中を撫でる。クールな美少女にふさわしい透明に澄んだ声は、何度聞いても癒される。そして、さっきまでの突き刺さるような鋭い瞳が嘘のように、彼女の目はふわりと柔らかい弧を描いていた。私にだけ向けられるこの目が大好きだ。この目を向けられると、私はどうしようもないくらい彼女が愛おしくなってしまう。
誰よりも可愛い彼女が、私を癒してくれる彼女の声が、私を見つめる優しい目が、彼女の傍にいるこの時間が、私は大好きだ。けれど、一つだけどうしても困ってしまうことがあるのだ。
「どうかしたの」
「なんでもないよ。紗雪が居たから来ただけ」
私に優しい目を向けたまま、ペンを置いた彼女は私の手を取った。彼女は探りを入れるように指先で私の手の甲を撫でている。私が要求を呑んでグーのかたちの手を開くと、流れるように指を絡ませてきた。こうして私に触れたがるのはいつものことだけど、やっぱりドキドキしてしまう。
「勉強中?」
「うん。明日の古文の予習」
平静を装って会話を続ける。彼女がさっきまでペンを走らせていたノートに目を向けると、教科書に載っている古文の文章とその読解が書かれていた。彼女と同じクラスの私も同じようなノートになっているはずなのだけど、書いてある文章が違っていた。
「明日やるとこってこの段落だっけ」
「そうだよ」
「うわー、完全にやるとこ間違えてた……佐藤先生の授業はしっかり予習しないとなのに……」
古文を担当する佐藤先生は皺が目立つおばあちゃん先生で、古文の知識が豊富で授業の話が面白い良い先生なのだけど、その分細かいところまで聞いてくるから、予習をしっかりしないと質問に答えられないのだ。
「じゃあ、私のノート写していいよ」
「え、いや、それは悪いよ」
うっかり別のところを予習してしまって頭を抱える私に助け舟を出してくれた。でも、それは悪い気がして反射的に断ってしまった。これが私の困りごとのトリガーになることは分かっているはずだったのに。
「気にしないで。大好きな風香のためだもの」
涼しい顔でなんて事の無いように彼女は私に大好きと言った。慈しむような優しい微笑みはその言葉が冗談でなく本気であると否が応でも理解させる。何度言われてもこの言葉には慣れない。
これが私の困りごと。彼女、
〇〇〇
私の名前は
そんな私には大好きな幼馴染がいる。名前は白華紗雪。立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花とはまさに紗雪のための言葉。天から舞い降りた天使のように美しい容姿、私より一回り小さい愛らしい体格、木漏れ日の差す泉の妖精のような魅惑的な声、紗雪は誰もが見惚れる美少女だ。しかも、運動神経抜群で成績優秀。才色兼備な紗雪はいつもみんなの注目を集めている。
でも、紗雪は基本的に周囲に興味がない。自分が周りからどう見られているかも、自分の言動で相手が何を感じるのかもどうでもいいと思っている。氷の女王。紗雪の態度を見て周囲のみんなはそう呼んだ。
紗雪は私に対してだけそんな呼び名とはまるで違う姿を見せる。大好き、可愛い、そんな甘い言葉をクールな表情のまま囁くのだ。一切何のためらいもなく、自分の言葉に照れることもなく、ただひたすら私に愛を伝える紗雪に私の心はいつもかき乱されている。
べつにそんな態度が嫌なわけじゃない。私も紗雪のことが好きだからむしろ嬉しいし、いざ好きと言ってくれなくなったら絶対に寂しい。でも、余りにもストレートすぎると言いますか、私のことが好きすぎると言いますか、とにかく私の心が持たないのだ。
だから私は毎日悩んでいる。私ばっかり赤面させられるこの状況を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます