第7話【Side リアム】あの子は何者!?
その凶報が齎されたのは良く晴れた春の日の朝だった。
「
突如として地表に現れ異形の化け物を吐き出し、生き物たちを蹂躙する殺戮装置。
我々人類の歴史はこの呪いとの闘いの歴史だ。
それがフィオの森に開いた。
僕はギルドからの一報を素早く伯爵様に伝え、その足で現地へ向かう。
現当主の伯爵様は大変聡明な方であらせられる。
先代当主が悪戯に市井に落とした種の僕でさえ分け隔てなく接し、言葉を聞き、重用してくださるお方だ。
あのお方なら速やかに兵の指揮を執り、情報を精査し、王城へ向かわれるはず。
王都に背中を向け元凶の森へと急いだ。
通り過ぎたギルドでは受付嬢が大声で冒険者たちに緊急通達をしているところだった。
それを無視して走る。
一刻も早く現地へ向かい、被害を食い止めなければ。
一瞬、あの店の少女の顔が浮かぶ。
王都からバスクオスカ平原に向かう途中の小さな店の不思議な店主だ。
小動物のような丸顔にクリンとした琥珀色の瞳。少しそばかすの残るその顔はとても愛嬌があって、ウェーブの残る明るいカッパーオレンジの髪をいつも一つ結びにして三角巾を被っている。
子ゴブリンと思しき従魔と店を営み、本職は「ファーマー」だと言う。
ノエルはフィオの森の惨状に気付いているだろうか。穴から溢れた異形は間違いなく王都を目指すだろう。避難が間に合うといいが…。
粟立つ心を抑え城門を潜ったところでアンジー君と行き会った。
ギルドに詳細を報告した帰りで彼女も一足先にフィオの森に向かうそうだ。
僕もクィールに相乗りさせてもらうことにした。
-------------
フィオの森に降り立った僕たちが目にしたのは信じられない光景だった。
あたりに異形の悲鳴が響き渡る。
近付くだけでその威圧感に足が震えるようなあのデカブツをノエルの従魔が抑え込んでいる?
あれは小鬼?子ゴブリンではなかったのか?
僕は今何を見ている…?
囂々と燃え盛る炎、三体の何かがサイクロプスの周りを飛び回っている。
「っ!?サイクロプスが膝をついた!いや違う、片足が凍って粉砕された?」
凍らせたのはあの巨大な白猪か?その足を粉砕したのは?まさか小鬼!?
何ということだ。ノエルは一体何者なんだ!
それよりも、……再生している?
あれだけやってもダメなのか!?
彼女に聞きたいことは山ほどある。
けれどあの化け物を食い止めなければ王都は…。
あれは“絶望”だ。“絶望”が形を成した姿だ。
それでも…、この命に代えても…。
思いは同じだったのだろう、アンジー君も覚悟を決めた顔だった。
そして剣を握り締めたはずだったのだが…。
突如空から降りてきた超越者達によってその幕はあっけなく閉じた。
サイクロプスが斃されてしまったのだ。赤子の首をひねるかの如く何でもないことのようにあっさりと。
あの、一体でも私が敵うだろうかと思えるほどに強いノエルの従魔達でさえ決定打がなかったサイクロプスを、だ。
あの者達を見た後だとノエルでさえ普通に感じられてしまうほどに次元が違う。
ほら、今もこうして彼らを前に勝手に体が震えている。
そんな彼等と親しげに話をしているノエルは本当に何者なんだ?
ますますわからなくなった。
今、君の目の前にいるのは剣聖獣王と深淵の魔術師だぞ!?
国やギルドでさえ手も足も、口さえも出せない治外法権、世界の絶対的強者達なんだぞ!?
そんな法も軍も国籍も意味を成さない化け物達とああも親しげに…もう眩暈がしそうだ。
超越者達とノエルが知己なんて何かの間違いであってくれ。
そんな僕の願い空しく、
「ノエルはもう二度と帰ることのできない俺達の故郷みたいなもんだ。厄介ごとに巻き込むんじゃねぇぞ」
近付いてきた剣聖獣王が私の耳元でとんでもなく重大な爆弾を落としていった。
こんなに肝が冷えたことは未だかつて一度もない。
サイクロプスを見た時だって一瞬で命が刈り取られるような錯覚はしなかった。
それなのに…。
情けないがあまりの恐怖に僕は下着を少し濡らしてしまったのだ。
剣聖獣王から漏れ出た威圧に、何も宿していない虚無のような冷たい瞳の魔術師に。
国家安寧のため、藪を突いて大蛇が出ぬよう伯爵様に報告せねば。
それにしてもノエルを詮索する前にわかってよかった。もし詮索していたらと思うと…想像しただけでまた漏らしそうだ。
——————————————————
≪100話まで毎日更新中≫
ご訪問ありがとうございます。
今週末も寒波が日本を襲うそうで…。
雪国の皆様は大変な苦労をなさっていることでしょう。
どうかご安全に、ご無理なさいませんよう。
次のエピソードは
「第8話◆【Sied ブラッドベリ伯爵】伯爵様の憂鬱」
「第9話◆魔法植物でジャムが作りたい」です。
三連休前ということで、三話連続で投稿します。
楽しんでいただけましたら幸いです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます