この間の夢
世界の半分
*
目前に無限の選択肢があった。
無限並べられた四角。
正方形のマス目が私の視界のすべてだった。
右端も左端も、はじめも終わりもなく四角が並ぶ。
その一つ一つに無限の色があった。
何色かは判断がつかない。赤であり青であり黄色。
すべて同じ色なのかもしれないし、違う色なのかもしれない。
人が判別できる色の領域を通り越してしまったように思えた。
(死後の世界はこんな感じの色かな)
ぼんやりとそんなことを思いながら、私はペンを手に取った。
どこから湧いてくるのか、そうしなければいけないという使命感が私を動かす。
私のペンは一マス一マスの輪郭をなぞりはじめる。
ただ果てしなく、四角は脳内に続いていく。
私はそれをズームして、なぞる。
その行為は延々と続く。埋め尽くされている。
何度も何度もその行為を繰り返していくと、いつの間にか私が私の体から離れていってしまう。待って、いかないで、と手を伸ばそうとしたが、握ったペンが邪魔してうまくいかない。
卵の殻を割って、黄身が皿の上に落ちるようにつるんと、私から私が産み落とされた。
私と乖離した私が、私の目の前にいる。
私の前に、小人の私がいる。私の目と鼻の先に産み落とされた私がいる。
そこにいるはずなのに、そこには何も見えなくて、そこだけ世界にぽっかりと穴が開いてしまったような気分だった。
小人は虚の具現化で姿は見えないのに、なぜかそれが自分自身だとわかる。
小人の私と大きな私の感覚は重なっていて、大きさの違う二つの私がどちらも私として存在していた。
小人がペンで四角をなぞる。
大きい私にはそれがひどく遠いことに感じる。目と鼻の先を通り越して意識の外ですべてが行われているような気がする。
気持ち悪い。
それでも小人はペンを動かすのをやめない。
私は初めて、無限を見た。
そして、怖いと思った。
無限は人の子を見るのが初めてだろうか。
怖いと思っただろうか。
私は目を覚ました。目を覚まさずにはいられなかった。
この間の夢 世界の半分 @sekainohanbun17
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