酔肖
ǝı̣ɹʎʞ
酔肖
金色の龍を纏った漆黒の盃に、
黎明。暁が地平を明るめ、
「無理に飲むことはないのだぞ」
対面で酒を呷る〈
これの何が美味しいのかと、甘耀は首を傾げながら、また辛さに顔を顰める――蚩尤の美貌も眺めながら。
「惚れるにしては顔が赤すぎる」
蚩尤は己の白皙たる身体に付いた、大きな龍の尻尾をゆらゆらと揺らし、甘耀の
「い、いえ……。何の、これしき……」
甘耀も蚩尤も、龍神と
女酒豪で恬淡な蚩尤と、龍人であって、犬のようにちんまりとした甘耀――。
釣り合いとしては非なるものだが、相性の凹凸は上手く嵌っていた。
「無理に呑むと気持ち悪くなってしまうぞ。この後のことも考えてくりゃれ」
一杯の三分の一を口へ含めた時、蚩尤がそう言い、酒の通しを忘れた甘燿は口の中で燃えそうに辛くなった酒に、涙を堪えた。
蚩尤は茹蛸のように顔の赤い甘燿に一瞥くれて、静かにくすっと笑う。
俯いて見えた妖艶な横顔に、甘燿はまた一つ、胸を射抜かれた気分であった。
龍人の感じる一日は極めて短い。二人が雲上の楼閣で盃を交わすだけで、気が付けば子の刻を回っていた。
「ううぅ……、蚩尤、さまっ……」
「にしても、弱いやつだな。まだ一晩だぞ」
座っていることも儘ならない甘燿は楼閣の冷えた床に寝そべって、ぐったりとのびていた。目を蕩けさせて、意味のない瞬きを何度も繰り返す。着物もすっかりはだけて、艶やかな素肌が露わになっていた。
「ふふっ、あまりにちょろい。まだまだ
ううー、と唸る甘燿の許へ、すっと躙り寄る。甘燿の藤納戸の長髪と、蚩尤の翡翠の髪。両方が溶け合うように入り混じって、一つの鮮やかな彩りが生まれた。
いつもの恭しい甘燿は
「ひゃっ!?」
甘燿は我知らず零れた己の嬌声に驚く。冷たい感覚が足許を過り、面を上げて見てみれば、そこには細くて長い、蚩尤の指が――。しかも、その指はしなやかに止めどなく甘燿の脚を登り、やがては彼女の股座に到達した。
「ちょ……っとっ、蚩尤さまぁっ」
甘燿は恥じらいに身を捩り、己の火照った顔を小さな手で覆い隠す。
「そう照れることもないだろう。顔が赧いのは分かりきったことだ」
蚩尤は空いた手で甘燿の手を払いのけ、甘燿の渦巻いた瞳と目を合わせた。龍人の獲物を逃がさない鋭利な眼光は、幼い甘燿を硬直させるには充分であった。
近い蚩尤の端正な顔に、甘燿はもう頭の天辺まで熱くなって、沸騰も寸前である。
「今宵こそは……、酒に肖って寝ることを許さん」
悲願の宵――。
幾夜も寝て振られた蚩尤の恋情。今宵ばかり、甘燿は振り解けそうもない――。
酔肖 ǝı̣ɹʎʞ @dark_blue_nurse
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます