私のウソは月夜を騙してる

七月七日(なつきネコ)

第1話 私は月夜に嘘をつく

「……あなたの恋人なの……よ」


私はしてはいけない嘘をついてしまった。


夕日がとても、綺麗な病室での出来事。

そう、奇跡が起きた日に、紛れこんだ悪魔のせい。


「わ、私の……」


彼女は困ったように目を丸くしている。


事故で記憶をなくしたといってたけど、本当みたいだ。


こんなことすら、信じてしまう……純粋な人……


今なら、ほら……訂正できる。

そうじゃないと戻れなくなる。


もしかしたら、嫌われて友達にすら………こんなにも卑怯なことなのに。


 だから、私はごまかそう口を開こうとする。

……けれど、悪魔は時を進めてしまう。


「そう……あたしの……恋人……なんだ」


顔を赤くして、驚いている。

けれど、わかる。本当に喜んでいるんだと……。


だって、私はあなたの事をずっと見ていたのだから……


そんな顔をされると冗談だと言えない。


残照がまぶしく、赤い病室の中で私は影の下の彼女の笑顔に一喜一憂している。


私の表情は影の中、浮かび上がってしまうだろう。


まるで、光を背負う彼女、そばで見守る私は影に隠れるだけ。


こんなにも綺麗で、私に釣り合いがとれない私のそばにいてくれた月夜。


きっと、裏切り行為なのに。私は高揚して止まらない……


こんなにもトキメイて悲しくて、嬉しくてときめきが止まらない。


私は気づいてしまう。このときから私は。


「そ、そうよ。そんなふういっても許してあげないから……」


 ウソをつき続けることになってしまう事に。


私は涙し、彼女は優しく微笑む。


春風のように切なくて、邪気のない月夜に私は見とれてしまう。


 ドキドキと鼓動が早鐘をうっている。


「まったく、心配させて!」


感情をごまかして、私は顔を背けてしまう。

そう、本当は震える喜びを隠してる。


だって、ずっと。あこがれの初恋が叶ってしまった。


しかし、心の奥に


こんな、卑怯な方法でもよろこんでしまう。


私はひどい人間なんだろう。


喜びとの中に後ろめたさを隠し私、香原朝日こうはら あさひ天羽月夜あまは つきよ への初恋を叶えてしまっていた。

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