第四章 4 頼れる相棒
四
早朝に起床。テスラの部屋を後にし、そのまま組合施設に向かう。
食事は出来るし、椅子もある。人が少ないとはいえ、荒事を行うような時間でもない。
私は、カミュ達が集まるまでの間、ここでだらだらと過ごすことにした。
しばらくすると、マリナベルが顔を出した。
「早いね。一番だと思ったんだけどな」
マリナベルも朝食はまだらしく、食事を頼んでから、私と同じテーブルに着席した。
「マリナベル、教会のことわかった?」
「教会じゃ無くて、テスラの事が知りたいんじゃ無いのかい?」
「そ~よ。わかっているなら、さっさと教えて」
私の態度に、マリナベルは苦笑いを浮かべた。
「テスラは尋問を受けているそうだよ。でも、彼は君が悪魔ではないと主張して引かないらしい」
「不安ね」
「ああ。彼らは、神の名の下なら、道徳なんて吹っ飛ぶからね」
拷問などに移行する可能性は十分ある。既に行われている可能性もある。
「焦らないでくれ。助けるのなら、それこそ人数が必要だろう? 皆が集まるまでは待つんだ」
「多分、拷問は無いわ。父親が、かなり高位に位置しているから」
「あとは、そうだね。今回の件、首魁は司祭長だってことだよ。ま、この都市の教会勢力のトップだ」
言われなくても、大体予想は付いていた。
「理由なんだけど、今回の降臨際の失敗で、出世の目がなくなったらしい。だから、悪魔を祓ったという功績で、一発逆転を狙っているそうだ」
「俗物ね。そもそも、悪魔じゃ無いってのに。悪魔に見えるかも知れないけど」
私の言葉に、マリナベルは苦笑いを浮かべるだけで、否定はしてくれなかった。
次に現れたのはサルベナだった。
「あら~、早いわねぇ」
いつも通りおっとりした口調でサルベナは微笑みながら、こちらに合流した。
「何か情報は?」
「エルフの貴族様って、貴女の知り合いかしら?」
「ええ。知り合い」
「その方が、王都に連絡を取って、今回の件を解決しようとしているらしいわぁ」
「そう、なのね」
王宮は、少なくとも敵ではなさそうだ。少なくとも、表立っては、何もしてこないだろう。
次に現れたのは、意外な人物だった。
私を含めた三人が、共に驚きの声をあげた。
「テスラ⁉」
いや、フルプレートで顔を隠している。中身が違う可能性がある。
「顔を見せて」
警戒し、相手にそう告げる。だが、相手は顔を見せることは無く「僕だよ」と答えた。
テスラの声だ。声音も、口調も、違和感はない。ただ、顔を見せないことだけが、不自然だった。
「止まってくれたまえ」
マリナベルも警戒の色を濃くする。サルベナも、食事の手を止めていた。
「テスラなら、顔を見せて」
私の言葉に、テスラは兜の内側からでもわかるように、嘆息した。
そして、兜を脱いだ。
テスラに間違いは無かった。だが、その顔は痣や少し晴れ上がっている部分があった。
明らかに、殴られた痕跡であった。
「何されたの?」
「尋問だよ」
「拷問、でしょ?」
テスラは苦笑いを浮かべた。
「鎧脱いで。他の怪我確認するから」
「おいおい、待ってくれよ。ここ、家じゃないんだよ? 安心してくれ、大きな怪我なんかないよ」
「うっさい! 一回誤魔化そうとしたあんたが悪いんでしょ。信用出来ないわ!」
私は、無理矢理テスラの鎧を脱がす。そして、手、足、腹などを確認していく。
テスラはばつが悪そうにしているが、そんなことは関係ない。
しかし、顔以外に怪我と呼べる怪我は無かった。
「顔だけって、なんで?」
普通は、顔を避けるものではないだろうか。拷問にしろ、尋問にしろ下手くそなのか?
「う~んとね、指とか折ろうとしてはきたんだよ。でも、僕が拳を握ったら、彼らの腕力じゃ、指を開けなくてね。その内、拘束椅子のベルトを引きちぎって見せたら、怯えてしまったんだよ」
「……じゃあ、顔殴られる必要なかったんじゃないの?」
「司祭長様に話を聞いて貰う必要があったからね。敵意がないことを、示さなくちゃいけなかったのさ」
私は、安心して思わず深く息を吐いた。
「まあ、無事で良かったわ」
「ああ、それを伝えに来たんだ。心配掛けたくなかったからね。これから、司祭長様に話を聞いて貰いに行くから、また留守にするけど、待っていてくれ。もうじき、終わるから」
「わかった、ありがと。一人で解決するなんて、流石相棒ね」
そういうと、テスラは拳を突き出した。私は、その拳に、自分の拳を合わせた。
「じゃ、結果をここで待っているわ」
「ああ。じゃ、また行ってくるよ」
テスラは再び、組合施設を出て行く。
拷問はないと考えていたが、高位神官の息子を拷問するとは、かなり教会は暴走しているようだ。ただ、まあ、テスラは抵抗しようと思えば、明らかに勝てるようだ。心配は要らないかな?
私が席に戻ると、二人も落ち着いた笑顔をしていた。
「一応、解決しそうねぇ」
「酒場は燃やされてしまったけどね」
「店が広くなると思って諦めなさいよ」
三人は、いきなり解決の目処が見えたためか、途端に警戒を緩めて、だらけ始めてしまう。
少しすると、ママが現れた。だらけている私たちを見て、眉根をひそめていたが、状況を説明すると「そりゃ、良かった」と快活に笑った。
「それで、良い物件見つかった?」
「ああ、結構いいのもあったよ。みんなの意見も聞きたいね」
「え~、実物も見たいわぁ」
「じゃあ、二人で見てくれば? 私はマリナベルと待ってるわよ」
なら、とママとサルベナが二人で実物を見てくることになった。
「マリナはいいのかい?」
ママの質問に、マリナベルは手をひらひらと振った。
ママとサルベナは、ショッピングに行くかのような気楽さで外に出て行った。
「サーナ達、遅くなるかしらね」
「あの二人だからね。ま、期待はしない方が良いだろうね」
私たちは、この場でだらだらと過ごすことにした。
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