第28話 大魔王様、昂揚する
『魔物使い』に
ただただ熱と物理的衝撃を持たせた魔力をぶつけるだけのシンプルで雑な攻撃だが、それでもこちらには無限の魔力がある。低級の魔物を焼き払うだけなら十分な威力がある。
事実、魔物使いが率いている小型の魔物『スライム』や『オオネズミ』などは言うに及ばず、中型の魔物『キメラ』や『ワイバーン』なども次々と死んでいる。大型の魔物である巨大な四足獣『ベヒモス」もきち直撃させれば、半身を吹き飛ばすことができる。
それを際限なく半日間も続けている。
第三区画はすでに地獄絵図。見えている地面の半分はオレの魔力砲で赤く焼き付くほどのありさまだ。
対する『魔物の軍勢』はただこちらに向かって押し進むのみ。爆撃機と歩兵が戦うようなもので、いかに2万の大軍といえどもひとたまりもない、はずだった。
そう、半日間の砲撃にも関わらず、オレは敵軍を殲滅できていない。それどころかこのままでは第三防衛圏を突破される。そんな事態に陥っていた。
それこれも、相手が『不死身』なせいだ。
「なるほど。正確には『魔物使い』じゃなくて『
戦場の様子を移した立体映像を眺めながら、アルセリアが言った。
実際、映像の中では砲撃で半分にされた『ベヒモス』がこれまた半分になった別の個体とぐちゃぐちゃになってつながり、再び行軍を再開している。
食欲をなくす光景だ。まあ、オレはラスボスだし、神経が太く、腹も減るのでセレンの用意してくれた昼食に迷いなく手を付けるが。
玉座の間でのことだ。砲撃を続けるにはオレはここから動くわけにはいかず、半日間座りっぱなしだ。いい加減、けつが痛くなってきた。
しかし、『死霊術師』、ネクロマンサーか。前世でのイメージ的には死体を操ったり、ゾンビを造ったりするのが専門の魔術師という感じだ。
確かに今目の前で起きている現象とも一致している。死体が動き、死体が戦い、死体が寄り集ってより大きな死体へと変わっているんだ。ほかに説明のしようもないだろう。
原作でも似たような能力を使うキャラはいた。いたが、あくまで魔界側の敵キャラクターで勇者という正義の象徴とは結び付けにくいが……、
「……ありえない。勇者が死霊術を使うなんて」
その答えは、『聖剣の勇者』が教えてくれる。彼女は流民たちの大魔王城城内への避難誘導を終えてからは、この玉座の間で戦場の様子にくぎ付けになっていた。
「我が勇者よ。なぜありえないのだ?」
「………勇者の力は始まりの女神の祝福、と言われてる。逆に、死霊術は魔界の創造主である『魔神』の
ありえない、と言いつつも最後の方は自信なさげな聖剣の勇者。どうやら途中で自分が100年間寝ていたことを思い出したらしい。100年もあればあらゆるものが変わる。
それはともかくとして、理屈としては理解できる。
原作でもあった
もっとも、それが体質的な問題なのか、精神的、あるいは信仰上の問題なのかで話はだいぶ変わってくるのだが。
ついでに言えば、我が勇者と呼んでも否定しなくなってきたのはいい傾向だ。本人に聞けば、いちいち否定するのに疲れたと言い訳するだろうが、そうなっている時点で心のガードが下がってきている。これは、陥落する日も近いか。
「アルセリア。そなたの眼から見てどうだ?」
「……確かに、勇者が死霊術の類を使うなんてのは聞いたことがない。まあ、そもそも、魔界側には勇者に関する知見がほとんどないんだけど……でも、そうね、死霊術のことなら多少は分かる。近接分野だしね」
そこで言葉を切ると、アルセリアは画面を指さしてこう続けた。
「屍が細胞単位で結合しているところから見て、かなりの使い手ではある。少なくとも『
「余のような、か?」
頷くアルセリア。となると、敵も無限の魔力、ないしはそれに等しい供給源をもっていると考えるべきか。
……聖剣の勇者もそうだが、魔力『∞』というのは意外と珍しくないのかもしれない。
だが、それでいい。オレはラスボス。その特殊性は能力だけではなく精神性にもあるべきだ。
その点において、オレは心配してない。それどころか、無限の魔力だけでは勝ち上がれないと知って、むしろ、気分が昂揚してきた。
難敵を打倒してこそラスボスの価値は上がる。ましてや、同等の力を持つ存在を蹴散らしたなんて燃えるじゃないか。それこそ、オレのラスボスとしての株はうなぎのぼりだ。
「でも、死霊術ならこっちの領域。術の解析はできてるし、弱点も把握してる」
「ほう。では、対応策も浮かんでいるな?」
「当然。少し時間と、協力が必要になるけどね」
アルセリアはちらりと聖剣の勇者を一瞥する。
なるほど。概ね意図は理解した。問題は彼女がこちらの協力要請を呑むかどうかだが、そこは問題ないだろう。当の本人は頭の上に疑問符を浮かべているが、まあ、大丈夫だ。
原作においても、闇の属性の魔法である死霊術は光の属性、つまり、勇者の操る魔法に対して弱い。いわゆる特効効果を持っているのだ。
「そちらは余がやろう。そなたは準備を進めよ。時間稼ぎは、イーグレットに任せる」
オレの答えに、アルセリアが頷く。
どうやってと聞いて来ないあたり、アルセリアもオレのことをだいぶ信用してくれるようになったな。
「……なるべく急ぐわ。夜が来れば、死霊術の効果が増す。アタシの城にあんな下品な連中を上がらせる気はないわ」
ついでに、敵の奥の手も把握できた。敵がだらだらとただ前進を続けているのは時間が味方に付いているからだ。夜になれば、自然と戦力が増し、城を落とせるという寸法だ。
……通常の攻城戦とは逆だな。こちらが勝つには決着を急がねばならない。必要なのは、聖剣の勇者の協力。そして、それを取り付けるのがオレの仕事だ。
聖剣の勇者、彼女の人柄はこの一月でよく理解できた。
彼女は難民たちのまとめ役として多くの仕事をこなした。『最初は面倒だ』とか『なんでボクが』と口では言うものの、頼まれた仕事は必ずやり遂げるし、その仕事ぶりは丁寧だ。難民同士のケンカを仲裁した時など、当事者の家を尋ねてまでアフターケアに尽力していた。
そんな姿を見せていたおかげか、難民たちからの人望も厚い。子供たちからは『剣士様』と呼ばれて慕われている。本人は鞘だけしか持っていないのにそう呼ばれるのは複雑なようだが、重要なのは彼女が面倒見がよく、まじめな性格をしている点だ。
なので、説得は容易い。
「――大魔王」
というか、アルセリアが退席してすぐに話しかけてきた。表情こそいつもの無気力をよそおっているが、居ても立っても居られないのは握った両の拳から見ても明らかだ。
勇者を名乗るものが大量虐殺を企てる、というのは彼女の正義感にとってはそれほど許しがたいことなのだろう。怨敵であるはずの魔王にその力を貸してもいいと考えるのは、よほどのことだ。
……気持ちは分かる。ただ殺す、ただ奪うなんて行為はラスボスでなくてもできることだ。
端的に言えば、くだらない。ラスボス業務の一環ではあっても、決して本道じゃない。オレが聖剣の勇者の立場でも同じ選択をしていただろう。
「――戦いたいのだろう? 許すぞ、武器を与える」
「え?」
オレが先んじてそう許可を出すと、聖剣の勇者はきょとんとする。まさかオレがすべてを察しているとは思わなかったのだろう。
だが、全てを察し、全てに先んじてこそのラスボス。この程度は朝飯前だ。
「しかし、剣を振るい、前線で敵を討つだけが戦いではない。そなたには我らの策に協力してもらおう」
「……どうすればいいの?」
「まずはアルセリアの後を追え。彼女が必要なことを教えてくれよう」
「アルセリア……? あの吸血鬼のこと?」
眉をひそめる聖剣の勇者だが、オレが頷くと彼女はアルセリアの後を追っていった。
おそらくかつて自分と戦った『黒血姫』と今のアルセリアが脳内で一致しないのだろう。無理もないが、そうなった原因は聖剣の勇者にあるのだから、彼女が余計なことを言わないように祈るしかあるまい。
「……少し、疲れたな」
玉座の間に
……正直、この半日で精神的には疲労困憊で、めちゃくちゃしんど…………いや、そんなことはない! まだやれる……! ラスボスは疲れない!
さっそく、仕事に取り掛かるとしよう。城の最下部にある出撃口に通信をつなぐ。
通信先にいるのは、イーグレットだ。その背後には彼女の率いる五名の竜人の騎士と難民たちの中から選りすぐった五十名の人間の戦士たち。第二防衛線を守るのは彼らの役目だ。
「敵の情報は届いているな? 我が騎士よ、
「――はっ! お任せを陛下! 『
イーグレットの号令によって、我が近衛兵団こと 『
アルセリアの開発した『魔力保護膜』によって守られた騎士たちは隕石のごとき勢いで地面に激突、周囲の魔物どもを蹴散らしながらも、無事に戦地に到着した。
そのまま『赫竜親衛騎士団』はイーグレットの指揮の元、魔物たちとの戦いを始める。数は五十名程度でしかないが、1人1人が一騎当千。そこにオレの砲撃による援護が加われば十分に戦える。
しかし、我ながらいいネーミングセンスだ、『赫竜親衛騎士団』。彼らの活躍を見ていると、オレの心臓も高鳴り、気合が入る。
戦いはここからだ。ゲスな勇者め、我が民の一人たりとてお前には殺させない。ラスボスの矜持、思い知るがいい。
――
あとがき
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