第33話 どっとはらい

 ヒトデヒッ――じゃなくて、ヒトデ怪人が爆死したせいか戦闘員たちは我先にと逃げ出しました。

 まぁ、ちょちょいとゴーレムを複数体錬成して後を追わせたので逃がすことはないでしょうけれど。戦闘員を野放しにするとか我が国の治安に関わりますし。


『……あのレベルのゴーレムを複数同時に、しかも魔石や呪文詠唱無しで錬成するとかバケモノ――いや、バケモノの方がまだ可愛いのにゃ』


 アヤネから斬新な褒められ方をされてしまいました。


『これが褒め言葉に聞こえちゃうのかにゃー……』


 私が爆炎で汚れた服を払っているとリルが近づいてきました。


「あの、ミラカさんですよね?」


 なぜだかじとーっとした目で見つめられながら確認されてしまいます。しかし、心配は無用。なぜなら今の私は仮面を付けて、髪色も変えています! まさに完璧な変装!


「いいえ違います。私はそのような超絶美少女ではありません」


「自分で美少女とか言わないでください。まぁ事実ですけど……仮面で顔を隠すのはともかく、その服。さっきと同じままですよ?」


「なんと!?」


 これは盲点でした。髪色を替え顔を隠したというのに何という凡ミスでしょう。……いえ、ここは考え方を変えましょう。同じ服というだけで私の正体に気づいたリルは名探偵に違いないのだ、と。


「この程度で名探偵扱いとか逆に恥ずかしいのですけれど?」


 しかし、まだ服が同じというだけ。まだ誤魔化しようはあるはずです。


「ミラカのその謎のポジティブさは何なのでしょうね?」


「……こほん。あなたが正義の心を忘れない限り! 私は再び現れるでしょう!」


「いや、まとめに入らないでください。どこのお助けキャラですかあなたは」


「ではさらば!」


 その場でジャンプして屋根の上に飛び移り、そのまま姿を隠した私です。

 建物の反対側へと飛び降りた私は路地から広場へと駆けて、手を振りながらリルに声を掛けます。


「やや、リル無事でしたかよかったです」


「……誤魔化すにしても、もう少し上手くやれないんですか?」


 リルにジトッとした目で見つめられてしまいました。ちょっとドキドキ。


「あらあら、リルが何を言っているか分かりませんねー」


「なんであんなバレバレの変装で誤魔化せていると思えるのか、不思議でなりませんね……」


 なぜだかリルに呆れられてしまいました。解せぬ。じゃなくて、解せません。


 首を軽く横に振ったリルは、ふと思いついたように私の顔を見つめてきました。


「助けていただいたのだからお礼を言わないといけないですね。いえ、言葉だけでは足りないですから何か行動で示すべきでしょうか?」


「ふぁ!?」


 超絶美少女であるリルからお礼を言われるだけでご褒美だというのに、行動で示すとな!? あれですか!? 一般向けではとても描写できないことを要求してもいいんですか!?


『ビックリするほど頭ピンク色なのにゃ……』


 こんな清廉潔白な私を捕まえて、ひどい言いぐさもあったものですね?


『せーれんけっぱく? 異世界語なのかにゃ?』


 ははは? どういうことかしら? あとでお城の裏庭に来るように。


『言動がもう昭和のヤンキーなのにゃ……』


 自らの寿命を縮めるアヤネでした。




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