第三章:別れ

千尋が20歳になった年。


しずくの体調が少しずつ悪くなっていった。


歩くのが遅くなり、あまり鳴かなくなった。


ある夜、千尋が布団に入っていると、しずくがそっとそばにやってきた。


千尋が手を伸ばすと、しずくは静かに顔を寄せ、千尋の頬を一度だけ舐めた。


「ミャウ……」


それは、千尋に向けた最後の鳴き声だった。


翌朝、しずくは千尋の腕の中で、静かに眠るように息を引き取った。


「……しずく?」


動かない小さな体を抱きしめ、千尋は声を震わせた。


見えなくても分かる。


もう、この温もりは帰ってこない。


「しずく……ありがとう……ありがとう……」


涙が、止まらなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る