BABO
dear_me
第1話 いつもの私
昼休みのチャイムが鳴り響き、教室の中が一瞬で騒がしくなる。廊下を歩く音、机を叩く音、隣のクラスから漏れてくる楽しげな笑い声。だけど、その中でもひときわ目を引くのは、金髪のサイドテールを揺らしながら机に座っている如月凛花の姿だ。
彼女の周りにはいつも人が集まる。ギャルっぽい見た目に反して、気さくで誰にでも明るく話しかける性格が、まるで磁石のように人を引き寄せるからだ。今日も、女子たちと男子たちが交互に凛花の周りに集まり、楽しげに話している。
「ねえ、凛花ちゃんさ、なんであんなに頭いいの?私なんて、ちょっとでも勉強始めると眠くなるしさー」
「あー、それわかるー!でも凛花ちゃんはやっぱり勉強できるから、うらやましいな。テストで1位ってほんとにすごいよ!」
凛花は、にっこりと笑って肩をすくめる。彼女の髪の毛が、まるで意図的に遊ばせるように、ふわりと揺れる。その姿が、まるでまわりの空気を軽くしているようだった。
「うるさいなー、私だってめっちゃ頑張ってるんだから。てか、みんなもっと集中して勉強しなよ?でもさ、テストのときはついつい遊びたくなっちゃうよね~。まあ、なんとかなるっしょ。」
周りの女子たちは、凛花の豪快な言い回しに、思わず吹き出してしまう。その顔を見て、凛花も少しだけ照れくさそうに笑っていた。だが、そんな中で凛花はほんの少し、机の下で手帳を取り出し、サラサラと筆を走らせる。無意識に、今度のテスト範囲を確認しているのだ。
「いやー、ほんとにギャルなのに勉強できるってすごいよな。見た目と中身が全然違う感じが、また凛花ちゃんの魅力だよ!」
男子の声が割り込んでくるが、凛花はにっこりと笑ってそれに応える。
「おう、ありがと。でもギャルって言っても、ちゃんとやるときはやってるからな。遊ぶときは遊んで、勉強するときは勉強する。それが大事!」
その言葉が、周りの友達にも響いたのか、みんな自然と静かになって、自分の昼食を取り始める。凛花は、ふと目を落として、サラサラとメモ帳に何かを書き続けている。
「でもさ、凛花ちゃんってほんとにすごいよね。なんか、いろんな人が話しかけても、全然気にしないし。私も見習わなきゃ」
ある女子が、そう呟くと、凛花は顔を上げて、軽くその子に笑顔を向けた。
「気にすることなんてないよ、マジで。みんなと仲良くするのが一番だし。」
教室の中に静かな時間が流れ、昼食を楽しみながらも、凛花は次の授業のことを少しだけ考える。だが、同時に、午後の放課後に待ち受ける『放課後カウンセリング』の時間が頭をよぎる。無意識に彼女の指が、机の上で少しだけ震える。
-----
放課後、教室の中はすっかり静かになり、クラスメイトたちはそれぞれの予定に向かって動き出していた。凛花もその一員となり、いつものように、にこやかに誰かと話しながら、バッグを肩にかけて席を立つ。
「おい、凛花、今からみんなで遊びに行こうぜ!カラオケとか行こうよ!最近、全然遊んでないじゃん!」
男子のひとりが、軽く腕を引っ張りながら声をかけてきた。周りには他の女子たちもいて、みんな楽しそうにその提案に賛同している。凛花はその場の雰囲気を感じ取ると、少しだけ考え込み、しかしすぐにその表情を元に戻す。
「えー、ありがと!でも今日はちょっと用事があるんだ。ごめんね、また今度ね!」
明るい声で断ったが、その顔にほんの少しの曇りが見えたのは、本人が気づかぬうちだった。
「え、マジで?用事ってなに?別に無理して行かなくてもいいのに~」
女子が少し驚いたような声をあげる。もちろん、凛花の明るさを知っているから、どんなことがあるのか気になってしまうのだろう。しかし、凛花はそれに対して何も言わず、軽く肩をすくめる。
「ホントにー、また今度行くから!今日はちょっとね、放課後にやることがあるんだ。ほんと、ごめんね!」
その言葉で納得したのか、男子は仕方ないという顔をしながら、軽く「じゃあ、また今度!」と手を振った。女子たちも笑顔で手を振り返しながら、どこか気を使っている様子だ。
「じゃあ、凛花、気をつけてね!用事、頑張って!」
その場から離れながらも、凛花の背中にはちょっとした気まずさが残っていた。実は、彼女が「用事」と言ったのは、放課後カウンセリングに行くことだが、それを誰にも知られたくないという気持ちがあった。
彼女が放課後カウンセリングに行くのはこれが初めてであり、正直なところ、少し緊張していた。友達に話すこともなければ、そもそもそのことを誰かに知られるのが何となく嫌だったのだ。
それでも、無理に隠し通すつもりはなかった。カウンセリングという場所は、凛花にとって一種の逃げ場でもあり、どうしても必要な時間だったから。
教室の外に出ると、廊下の端に『放課後カウンセリング』の部屋が見える。凛花はその場所を何度も見てきたが、今日まで踏み込むことはなかった。心の中で何度も「行こうかな…」と思ったが、ふとした瞬間にその決意が固まる。
「よし、行くしかない!」
自分に言い聞かせるように呟きながら、凛花は歩き出した。足音が廊下に響き、心拍数が少しずつ速くなるのを感じる。いつものように元気に、明るく振舞っていたけれど、今日は少しだけ、その顔に緊張が浮かんでいた。
そして、カウンセリング室の前に立つと、ドアをノックする前に深呼吸をひとつ。
「大丈夫、行ける。誰にも言わないようにすればいいだけだし。」
自分にそう言い聞かせるように、凛花はドアを軽くノックした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます