世界葬
澁谷晴
第1話 真沼盈、破壊師志願
真沼家は古代より何世代にも渡ってホガハミ様の維持管理を担ってきたが、永衛五年に変容が発生した段階で見切りを付け、別個体を新しく作ろうとした一派に所属していた。結果的に新たなホガハミ様を完成させるに至らず、京師(現在の久世県と柳瀬県の一部)の住民半数が死傷する事態(永衛の崩落)を引き起こした。
この大災害の結果、副産物として真沼家は〈突沸〉と現在呼ばれている異相体を代々宿していくこととなり、分家の末裔である
明確な目的をもって彼が異相体破壊師となったのは泰輪十五年のことで、十三年の蕭垂れの結果発生した就職難のあおりを受け、大学卒業と同時に個人として活動を開始した。
五月の頭で、街路樹の新緑が色鮮やかだった。盈が住む玉蟲県翁村市は比較的、異相体の発生が多く、関係従事者も多数居住していた。出生率は依然として高い上に現代人は寿命以外では――全身が呪詛で冒されたり臓器が全部消失しても――なかなか死なないので、市内に既に多数建ち並んでいる巨大なマンションが、更に建築中だった。
人が多ければ相応の職場も必要なので、住居同様馬鹿げた大きさの建造物も無数に聳え立ち、異相由来のテクノロジーがそれらを飾り立てる。崇拝のためか魔除けのためか単なるアートか、名も知らない神々の像が立ち並ぶ。厳めしい老人や慈愛に溢れた女神、小判を手にした猫や狸などの獣――それらは日を跨ぐと自然に増えている。
通常、異相体関係業者にはトラブルに直接対処する者や、それらと依頼者を仲介する者、異相体を買い取る者、対処者に物資を売る者など様々な種類がいるが、盈は明確に破壊師として活動していくと最初から決めていた。異相化空間――〈異界〉に潜る探索者よりも難易度は低いし、近年の傾向を考えてのことでもあった。
例えば親族が異相化した場合、常識的に考えれば、破壊師を呼んで破壊してもらって燃えるゴミの日に出す、といった雑な対処はできるはずもないと思われる。だが、実際にはそれでも構わないという人が半数以上に上るのだった。人間の突発的異相化を解除する場合、心臓とか脳、膵臓とかのガスト失調に個人で対処するとなれば、例えばホフマン法を用いることとなるだろうが、白金の入手がどうしても困難になってくるし、漏窄を行うにしても最低六年は必要になるので、「じゃあもう、破壊でよいです」というご家族が出てくる。
オプションとして霊的対話とか、お清めの儀式とかもなしの破壊である。除霊師とか祓魔師とか名乗って対処している業者には、「説教されることが多い」とか「余計な費用を取られる」という風説が未だに根強く、近年では破壊師を大々的に名乗り始めている業者も増加傾向にあるのだった。やはり、人間関係の希薄化、地域社会の崩壊といった社会問題が、この業界にも押し寄せてきているのだろうか。
真沼盈は自身の成功を概ね確信していた。〈突沸〉による誘導・没入に間違いはない。ないはずだ。手始めに、簡単な案件で弾みを付けよう。彼は閑静な住宅街へ向かった。
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