chapter:33――到着!シュバル帝国


『乗客の皆様、暁の星号への長らくのご乗車、誠に有難うございました。当列車は後30分後に終点であるシュバル帝国中央へと到着いたします。

終点まで残り少なくなったお時間、その間だけでもこの暁の星号を心行くまで堪能できる様、乗務員とコンシェルジュ一同は心をもって――』 


 スピーカーから流れるピアノの様な楽器の美しい音楽の後、

車掌のアーノルドさんのアナウンスが、乗客達への感謝の気持ちを述べている。

俺はそれを耳にしながら、窓の外を流れる荒野の景色を眺めていた。

昨日の話し合いの後、俺は一号室、レイクとセネルさんは二号室へと別れ眠りについた。

そして目覚めて、三人で食堂車で朝食の美味に舌鼓を打ち、三人が一号室に戻った後の事である。


「あー、最初は慣れないと思ってたこの豪華な部屋も、いざ出ていくとなるとすっげぇ名残惜しいなぁ」

「そうですね、レイクさん。この列車では色々ありましたけど、その分だけこの列車から降りるというのが寂しくなります」

「そういうセネルさんは、この列車の料理がもう食えなくなるのが寂しいんだろ?」

「それもありますね、ここの列車で出される料理以上の物を食べられる日は来るかと思うと、名残惜しいです」


 俺の後ろでは、レイクとセネルさんがソファに座り思い思いに談笑している。

確かに、最初に乗った時は余りにも豪華すぎて、何処か居づらい感じがしていた暁の星号。

だけど、其処で色々あって、それで他の乗客達と打ち解け合って、共にこの列車の旅を楽しめる様になった。

けど、あと少しすればこの列車の旅も終わる。また招待でもされない限り、またこの列車に乗る事は無いのだろうな。

そう思うと、車窓に流れる荒野の光景が、何処か物悲しい物に見えてくる。


「ヒサシ、どうした? 窓の外をぼうって眺めてさ……何か考え事か?」

「いや、レイクとセネルさんが話していた事と同じ事を考えてた。この列車から降りるのが名残惜しいなって」

「なぁんだ、ヒサシも同じ事考えてたのかよ、まぁこんな豪華な列車、乗れる機会なんてそうそう無いだろうな?」

「いや、それだけじゃないよ、この列車で起きた色んな事全てが、あと少しで記憶の向こうになると思うとな……」

「そっか……」


 俺がそう言うと、レイクもセネルさんも再び沈黙する。

それと同時に、列車がトンネルに入ったらしく、風切り音と共に窓の外は暗くなる。

まるで俺達が感じている一抹の寂しさを表すように。


『お客様にお知らせいたします、このトンネル、レヴュラ大トンネルは魔道列車の設立にあたり、レヴュラ山脈を超える為に三年の歳月と莫大な労力を投じて建設された物で――』


 スピーカーからピアノに似た音楽の後、車掌アーノルドさんによるトンネルの解説が始まる。

聞いていると、まるで俺の元居た世界で見た、超大トンネルを作った時の様なエピソードと似ていて、妙な既視感を感じる。

解説によればレヴュラ大トンネルの長さ15.2デール(15.2km)、採掘中は何度も崩落や地下水の噴出で悩まされたが、

ある画期的工法が開発された事により、その工事は一気に進展していったと言っている


『この工法こそ、シールド工法と呼ばれる物であり、予めトンネルの内壁となるパーツを外で制作し、掘削の進捗に合わせて構成する事で――』


 待て、シールド工法と言うと俺の元居た世界ではトンネルを作る際にはポピュラーな工法だ。

だが、剣と魔法の世界であるこの世界に、それと同じ物があるというのか?

……ただの偶然、と言うには不自然すぎる。


「すっげぇなぁシュバル帝国って、山脈をぶち抜くトンネルを作るなんてどれだけの技術を持ってるんだ……?」

「でも、何処の何方様でしょうね? そのシールド工法を思いついて実行に移した方は」

「ひょっとしたら、ヒサシみたいに異世界から来た人間がその技術を教えたんじゃねーか?」

「んー、それは如何なんでしょうね? ヒサシさんみたいな異界から来た人間はそう居なさそうに思えるのですが……」


 レイクとセネルさんがクッキーに似た焼き菓子をかじりながら、俺の思った事を代弁する様に会話をしている。

俺と同じ様に異界から来た人間が、シュバル帝国の人間にシールド工法をを教えた、そうなら筋は通るが……

と、その時だ。ようやくトンネルを抜けたのか、闇に包まれていた車窓が一気に明るくなり、外の光景を映し出す。


「……嘘だろ……」


 窓に映る景色、恐らくシュバル帝国領の街の景色を見て、俺は驚きの余り、呟きを漏らした。


『暁の星号ご利用のお客様、長らくのご乗車有難うございました、間もなくシュバル帝国中央です、0番線への到着、開きますドアは右側――』


 車掌の案内と共に、三日間の旅を走り抜けた暁の星号がシュバル帝国中央駅の広大な構内へと進入してゆく。

構内はとても広く、幾重にも分かれた留置線の上には魔道列車で運用される様々な車両が停車している。

その殆どは、機関車が牽引するタイプの客車列車で、その中を走る動力分散式の暁の星号の異質感を強調する。

暁の星号専用の0番線ホームでは、既に暁の星号の乗客を迎え入れる為のモカブラウンの制服を着た駅員たちが横に並び、到着を待ち受けていた。

其処へ暁の星号が入線し、運転士の絶妙な操作で音も揺れもなくホームへ到着する。


「ようこそ、シュバル帝国へ」

「お荷物をお運びしましょうか?」

「タクシーの手配などご要望の方はおらっしゃりますでしょうか?」


 列車のプラグドアが開くと同時に、駅員たちが降りてきた乗客達を迎え入れる。

当然、俺とレイクとセネルさんも駅員たちに迎えられて、暁の星号から降りる。

乗客達が駅員達の丁寧な対応を受けてそれぞれ降車していく中、俺は逸る気持ちを抑えることが出来ず、駅の外へと向かう。

その途中には暁の星号利用者専用のラウンジとか色々とあるのだが、今の俺はそれに気を向けている場合ではない。


「おい、ヒサシ、何をそんなに急いでるんだよ!」

「そうですよ、手紙の依頼人と会う時間とはまだ時間はありますよ?」

「いや、ちょっとこの目で実際に確かめないといけないのがあるんだ」

「……?」


 レイクとセネルさんの言葉も耳に入らず、俺は足早に駅の外へ向かう。

その途中で、元の世界の駅では見慣れた物を見かけ、俺はさらに目を見開いて驚く。


「自動改札だと……!?」


 そう、俺が見間違える筈もない。

それは自動改札機が並ぶ改札口で、駅の利用者は当たり前の様に切符を機械に通して改札口を通っている。

しかも、IC改札の様な機構を持っているのもあるのか、利用客が改札械へカードをかざすと同時に、ピッと電子音が鳴って客を通している。

そして、利用する客こそは鎧を着た冒険者やフードを被った魔術師など、ファンタジーな格好をしてはいるが、

それを除けば、俺の前に広がる改札口の光景は紛れもなく、元の世界の都会の駅にある光景その物だった。

俺は恐る恐る、暁の星号の切符をIC改札?にかざすが、改札機は何の反応を示さず、ゲートを開く様子を見せない。


「あ!お客様、そちらの切符は改札機を利用できませんので、此方の方にて確認させていただきます」


 俺がゲートを開こうとしない改札機を前に呆然としていると、駅員の一人が俺へ声をかけてくれる。

彼は懐から出したタブレットの様な物に嵌め込まれた水晶版に切符を翳すと、切符が魔力の光の紋章を浮かび上がらせる。

駅員さんはそれを確認すると、頭を深々と下げて。


「お客様、暁の星号ご乗車有難うございました。また機会あればご利用して頂けると幸いでございます。どうぞ此方のゲートをお通りください。そちらの切符は記念品としてお持ち頂いて結構でございます」


 駅員のその言葉と共に、一番端の改札口のゲートが開き、そこを通る用に案内された。

どうやらあのタブレット状の物で改札では使えない切符を通す為に使われる様だ。

そして俺を追ってきたレイクとセネルさんも、俺の時と同じく駅員さんに切符を見て貰い、ゲートを通って出てきた。


「ったくよぉ、ヒサシ、お前は先先行きやがって、何をそんなに急いでるんだよ」

「そうですよ、ヒサシさん、何か急ぐ理由でもあるのですか?」

「そうだな、シュバル帝国の街を見たいんだ……もしかするとひょっとして」


 追い付いたレイクとセネルさんが色々と言う中、俺はシュバル帝国中央駅の外に出る。

そして、目の前に広がっていた光景を前に、俺は唖然とした様子を隠せず呟いた。


「な、何だこりゃあ……」


 駅の前は、それこそ元の世界の大きな駅、例えば東京駅の駅前の様に凄まじく発展した都市の景観となっていた。

道路はアスファルトに似た素材で舗装され、其処を元の世界の自動車に似た乗り物が引っ切り無しに行き来している。

更にロータリー状になっている場所ではパンタグラフ(集電装置)の無い市電に似た乗り物が乗客待ちで停車している。

そしてその周囲には、それこそ俺が元居た世界の高層ビルが立ち並び、まさに摩天楼という言葉が相応しい威容を誇っていた。

そのビルの壁には、恐らくは魔力を通す水晶版に映像を映しているのか、様々な動く広告が掲示されている

歩道にはファンタジーな衣装を着た人もいれば、元の世界で見かける様な衣服の人々が沢山行き交っている。

更に道路には横断歩道が設置されており、その脇で元の世界でもお馴染みの信号機が鎮座し、道路を渡る人達の安全を守っている。

後ろを振り向いて駅舎を見れば、それは元居た世界の日本の鉄道の玄関口、東京駅に似た赤煉瓦の立派な駅舎だった、

それはまさしく、俺が元居た世界の日本の都会の景色をそのまま持ってきた様な、そんな光景だった。


「何だこりゃ、すっげぇ……シュバル帝国ってここまで発展した国なのかよ……!」

「何というか、今までいたソルキン村やヴァレンティの街と比べて、まるで別世界ですね……」


 レイクもセネルさんも、あまりの凄さに呆気にとられた様子を見せている。

まぁ無理もないよな、剣と魔法のファンタジーの世界に、現代日本に似た光景があるなんて、到底想像できる筈もない。

――暁の星号がレヴュラ大トンネルを抜けた時に見えたシュバル帝国の街の景色、それは日本の近代的な住宅街に似た建物が並ぶ光景だった。

それを見た俺はまさかと思い、居ても立っても居られず暁の星号を降りるなり、駅の外へ出てみればこの光景である。

驚きを通り越して、何か夢でも見ているのではないかと思ってしまった程だ

そんな矢先、呆気に取られている俺達の前へ、明らかに高級な作りと思わせる黒塗りのリムジン風の自動車に似た乗り物が停車する。


「ヤマナカ・ヒサシ様とその御一行様ですね? お待ちしておりました、どうぞこの魔動車にお乗りください」

「え、あっ、はい……」


 乗車していた黒いスーツ姿の運転手がドアを開けて俺達へ声をかけると同時に、後部のドアが観音開きに自動的に開く、

シュバル帝国中央駅前の光景を前に呆気に取られている状態の俺達は、運転手に促されるまま魔動車に乗り込んでゆく。

そして俺とレイクとセネルさんが車内へ乗り込むと、運転手が操作したのかドアが自動的に閉まり、音を立てず魔動車が走り出す。

恐らく高級な素材で作られたのであろうフカフカなシートに身を預けた俺は、対面のシートに座るレイクとセネルさんへ目を移す。


「なぁ、本当に別世界に来ちまったのかなオレ達……」

「いえ、所々に魔力を使った機材が見受けられる辺り、この国の技術水準が他とは段違いに違うのではないかと思います」

「ええ、この我が国、シュバル帝国は我等が女帝陛下のご尽力により、今の技術力と発展を遂げた国となっております」


 レイクの呟きにセネルさんが答え、運転手が補足説明を入れる。

そういえば、俺達が使っている公用貨幣、これもシュバル帝国の造幣局が鋳造しているとは聞いたが、

確かにこれだけの技術力を持った国が作った貨幣なら、偽造が難しい信用性の高い貨幣として流通するのも無理もない話だ。

……しかし女帝陛下、ねぇ……このシュバル帝国をここまで発展させたという事だから、余程政治力の高い女性なのだろうか?

そんな事を考えている内に、俺達を乗せた魔動車は街を出て郊外へと走ってゆく。

次第に高層ビルは姿を消してゆき、団地やら一戸建ての住宅、そして所々に何かの畑のある光景に移り変わる。

この光景も、何処か元居た世界の日本の郊外の光景を彷彿とさせた。


「なぁ、運転手さん、俺達をここまで招待した貴族ってどんな奴なんだ?」

「それは屋敷へ到着次第、我が主人がお話ししますので、ヤマナカ・ヒサシ様はどうぞ席におかけになって到着までお待ちください」


 ……試しに運転手に聞いてみたらこの反応、うさん臭さ大爆発である。

念の為に何が起きても良いように心がけておくべきだな。そう、レイクとセネルさんへ目配せして置く。

やがて、郊外を抜けた辺りで長く続く高い塀の横を通り、如何にも金を掛けて作ったであろう門の前へ到着する。

そこで運転手は懐から水晶球を取り出し、何やら話したと思うと、門が自動で開き、俺達を乗せた魔動車が屋敷の中へ入ってゆく。

屋敷のエントランスに到着すると、黒いタキシードに身を包んだ長身の竜人と屈強な熊の獣人の男性二人が現れ、後部座席のドアを開ける。


「お待ちしておりました、我が主人がお待ちです」

「靴はお脱ぎになり其処のスリッパに履き替えた上で中にお入りください」


 竜人の男性と熊の獣人の男性は、その見た目に似つかわしくない丁寧な口調で俺達を屋敷の中へと案内する。

靴から棚にあるスリッパに履き替えた俺とレイクとセネルさんは、二人に案内されるがまま、屋敷の奥へ入っていく。

屋敷の中を見た印象は、発展している都会とも言うべき駅前に比べ、中世の頃の貴族が住んでいそうな雰囲気を醸し出している。


「あんなすっげぇ街の国の貴族にしちゃ、屋敷はオレ達が知っている感じの内装だよな……ちょっと拍子抜けだぜ」

「レイク、そういう事は口にチャックしておけ、聞かれたらいい印象持ってもらえないぞ」

「あ、わりぃ、ヒサシ……」


 レイクと小声で話しつつ、視線を巡らせてみると、使用人やメイドが何人も目につく。

大体は人間も居るが、中には兎獣人の女性や狐っぽい尻尾を持つ男性など、ファンタジー世界のお約束の種族も多数いるようだ。

どうやらこのシュバル帝国も、人間至上主義ではなく、様々な種族が共存する国である様だ。

そんな事を思いつつ、屋敷の廊下を通り過ぎ、やがて俺達は大きく重厚そうな扉の前にたどり着く


「アルヴェート様、招待をしたヤマナカ・ヒサシ御一行をお連れしました」

「ああ、入れ」


 竜人の男性が扉に向かって声をかけると、中から男性の声が返ってくる。

それと共に扉が自動的に開き、二人に案内されて俺達は部屋の中へと入ってゆく。

如何にも貴族が自室にしていそうな、赤を基調とした部屋には、品の良い調度品や家具が並んでいる。

その部屋の中央にあるソファに腰掛けている人物の姿が目に留まる。

ぱっと見た目では、普通の衣服を着ていたら目立たなさそうなちょび髭の人間の男性が、俺達の方へと視線を向けてくる。

その男性の見た目は、人間で言えば40代後半から50代前半の印象を受ける。


「ようやく来てくれたか、ヤマナカ・ヒサシとその仲間たちよ。私こそアルヴァート・レーグ・フェリンシュタインである」

「俺はヤマナカ・ヒサシです。この度は招待を頂きまして有難うございます」

「オレはレイク・レパルス、イエロー級の冒険者で職業は盗賊、そしてヒサシの身元引受人だ」

「私はセネル・アーティアと申します、ホワイト級の冒険者でヒサシさんとレイクさんとパーティを組んでいます」


 相手から自己紹介されたので一応それぞれ自己紹介を返す。

しかし、こんな一見ぱっとしない雰囲気の貴族が、依頼料総額1000アメル+暁の星号の乗車券三人分を用意できるとは……

……やっぱり何か怪しい感じがするな。


「して、早速であるが、依頼内容についてだが、手紙にあった通り女帝陛下より賜った剣、黒翼を探す件だが……」


 依頼内容を話し始めた所でアルヴァートさんは急に表情を曇らせ、

手で合図すると、丁度剣の入るサイズの革張りの箱を持った使用人がやってくる。


「実はいうと、君達が来る間に黒翼は発見されたのだ。だがな、発見された時にはこんな状態になっていたのだ……」


 テーブルに置かれた箱を開けると、其処には確かに手紙に書かれた通りの、黒く輝く刀身の剣が入っていた。

ただし、その剣は所々が刃こぼれし、更に真ん中から折れ曲がっている状態であった。


「……え? 確か、これって確か、名工の手によりアダマンタイトから鍛え抜かれし剣、だった筈じゃ?」

「うむ、確かにその通りである。だが盗んだ犯人はあろう事に、アダマンタイトのハンマーで思いっきりこの剣を叩きまくったそうなのだ」


 あー、確かにアダマンタイトの剣でも、同じアダマンタイトのハンマーで叩けばこんな事になる、か。


「おい、その犯人って誰だったんだよ?」

「我が家の使用人の一人だ。どうも皿を割った事できつく𠮟った事を逆恨みをしてやった事だそうだ」

「犯人はアダマンタイトのハンマーは何処から入手したのです?」

「それも我が家に収蔵されていた宝物の一つであった。しかしこんな使い方をされるとは……」


 レイクとセネルさんの質問に対し、アルヴァートさんは頭を抱えて悔しがる。

確かに、せっかく見つけた宝物の剣が見るも無残な姿になっていたら、頭を抱えたくなるのも無理もない。

しかも近々、その剣を賜った女帝から『再びこの剣を見たい』と言われている状況なのだ。

もし、女帝へ「こんな状態です」と見せたら下手しなくても一発で斬首刑にされかねない。


「そう言う訳で、この剣を如何にか出来ない物か、君たちに相談したい所なのだ」

「なるほど……」


 つまりは、この黒翼を完全に修復するか、もしくは黒翼とほぼ同じ偽物を作って欲しいという事か。


「あの、アルヴァートさん、この黒翼を作った名工は今は如何しています?」

「残念ながら、10年前に天寿を全うしてしまった。それも弟子も取らずにな……」


 俺の質問に対し、アルヴァートさんは溜息を漏らして頭をがっくりと項垂れさせる。

つまり、同じ名工で修復するという事も出来ない。さらに言えば弟子も居ないから黒翼を新たに作れる職人も居ないという事か……。

こりゃ完全に手詰まりだな……ただし、俺達が普通の冒険者であるのであれば、の話だが。


「大丈夫ですよ、アルヴァートさん。他言無用にして頂けるなら、この黒翼を完全に修復することが出来ます」

「何と、それは真なのか!?」

「ええ、俺に任せていただければ、ですが」


 そう、笑みを浮かべる俺のネックレスの黒い正方形の石が、きらりと輝いた。

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何でも作れる箱でのんびり異世界生活する筈だったのに、何故こうなった! けもさわこういち @MOFMOF717

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