「給食、プリン戦争」(比率:不問3)約15分
・役表
先生:♂♀
けんいち、揺れる幸福:♂♀
だいすけ、しょうへい:♂♀
ーーーーー
お昼の時間、六年二組の教室。
先生「みんな、座ったかな? いただきますをする前に、今日はしょうへいくんがお休みだから、プリンが一個余ってます。誰か食べたい人いますかー?」
だいすけ「はーいはーい!」
けんいち「食べたーい!」
先生「えっと、だいすけくんとけんいちくんだね。じゃあ、じゃんけんして勝った方にプリンをあげるね」
だいすけ「おーし、負けねぇぞ!」
けんいち「僕だって!」
先生「じゃあ、いくよー! じゃーん、けーん、ぽんっ!」
だいすけとけんいちは、互いの顔に拳をぶつける。
だいすけ「おらぁぁ!」
けんいち「でらぁぁ!」
二人は衝撃で後ろへと後退する。
けんいち「んぐぅ⁉︎」
だいすけ「ちぃ!」
先生「……え? ちょっ、なにしてるの?」
だいすけ「こんなもんかぁ! けんいちぃぃ!」
けんいち「まだまだぁぁぁぁ!」
二人は、また拳をまじわせる。
だいすけ「どらぁぁぁ!」
けんいち「はぁぁぁぁ!」
先生「だいすけくん、けんいちくん、なにしてるの⁉︎ じゃんけんだよ! じゃんけんの『けん』は『
けんいちは、後方へと吹っ飛ぶ。
けんいち「ぐはぁぁ⁉︎」
先生「けんいちくぅぅぅぅん! 大丈夫⁉︎」
だいすけ「弱いな。弱すぎるよ、けんいちぃ……!」
けんいち「く、くそぉ……!」
先生「ちょっと、二人とも落ち着いて! プリンごときで殴りあわないで!」
だいすけ「プリン『ごとき』だって? わかってない……先生は、なにもわかってないなぁ……!」
先生「え……?」
けんいち「先生……プリンっていうのは、僕たち小学生には、とても大切なものなんだ……!」
だいすけ「大人のてめぇと違って、プリンに金をかけられるほど小学生のお財布は
先生「す、すみません……」
だいすけ「だから俺様は、どうしてもプリンが食いてぇんだよ……! 美味しい美味しいプリンを二つ食いてぇ……! てめぇとの友情が……!」
だいすけは、けんいちを殴り飛ばす。
だいすけ「壊れることになってもなぁぁぁぁ!」
けんいち「ぐはぁぁ⁉︎」
先生「もうやめてぇぇぇぇぇ! 別の方法でプリンを取り合ってくださいぃぃぃ!」
けんいち「く、くそぉ……!」
だいすけ「まだおわらねぇぜ!」
けんいち「なっ⁉︎」
だいすけはけんいちに馬乗り、殴り続ける。
だいすけ「おらぁ!」
けんいち「ぐはぁ⁉︎」
だいすけ「まだまだぁ!」
先生「だいすけくんがけんいちくんを馬乗りしているせいで、けんいちくんが拳の雨から逃れられない! だいすけくん、もうやめてあげて! このままじゃけんいちくんが!」
だいすけ「止まれねぇよ! 俺はもう止まれねぇ! プリンを手に入れるまで、止まることはねぇ! ひゃははははは!」
先生「仲良し小学校六年二組の教室が、歌舞伎町界隈みたくなっちゃってるよ! 龍が
だいすけ「先生、勘違いしてるよ。俺とけんいちは、とっても仲良しだよ」
先生「え?」
だいすけ「なぁ、けんいち。俺たち、仲良しだよなぁ?」
けんいち「う、うぅ……!」
だいすけ「けんいちくぅ~ん?」
だいすけは、けんいちの髪を引っ張る。
けんいち「うぐっ⁉︎」
だいすけ「俺たちは、とっても、仲良しだよねぇ?」
けんいち「な、な、仲良し……です……!」
だいすけ「ほら。聞いた、先生? 本人が仲良しって言ってるよ」
先生「仲良し小学校のガキ大将はレベルが違うね! ガキ大将レベルが高すぎるよ! ジャイアンも震えちゃうくらいのガキ大将だよ!」
だいすけ「これは遊びだよ、先生。仲良しな友達がする、あ・そ・び」
だいすけは、けんいちを殴る。
けんいち「ぐふっ⁉︎」
先生「ガキ大将ってレベルじゃないよ! 闇に支配されたやつのセリフだよ! ほら、今から『道徳』の授業するよ! 今すぐ正しい道に戻ってきなさい!」
だいすけ「わかったよ、先生。じゃあ、さっさと終わらせるか」
先生「終わらせるって、なにを⁉︎ だいすけくん、落ち着いて!」
だいすけ「じゃあな、けんいち……!」
だいすけは、拳を高く振り上げる。
だいすけ「死ねぇぇぇぇぇ!」
先生「そんな汚い言葉、使っちゃいけませんんん!」
けんいちは、だいすけの拳を受け止める。
だいすけ「な、なにぃ⁉︎」
先生「け、けんいちくんが、だいすけくんの拳を受け止めた⁉︎」
けんいち「そうだよ……僕たちは仲良しの友達じゃないか……だいすけくん!」
だいすけ(く、くそぉ! なんで力だ! 拳が動かせねぇ!)
けんいち「友が道を外れたのなら、無理やりにでも正しい道に戻してやるのが……仲良しの友達がすることだよなぁ!」
けんいちの背後に人型の何かが現れる。
だいすけ「な、なにぃぃ⁉︎」
先生「けんいちくん! けんいちくんの背後に誰かいるよ! 誰なの、その人⁉︎ どう見ても危ない人だよね⁉︎ 早く離れて!」
人型の何か──『揺れる幸福』は、だいすけを殴り飛ばす。
揺れる幸福「おらぁ!」
だいすけ「だばぶぅ⁉︎」
先生「だいすけくぅぅぅん! ちょっ、けんいちくん! その背後の人は誰なの⁉︎ 先生に教えて! だいすけくんを殴り飛ばしたその危ない人は、一体誰なの⁉︎」
だいすけ「て、てめぇ……! いつのまにその力を……⁉︎」
けんいち「友達を助けたいって想いが、僕を強くしてくれたのさ」
先生「けんいちくん! 強さの秘密はいいから、背後の人について教えて!」
けんいち「これは、もう一人の僕自身! 僕の『強さ』が形になったもの!」
先生「なにそれ⁉︎ 聞いても理解できなかった! ごめんね!」
けんいち「いくよ! 『
先生「揺れる幸福と書いて、プリン・ア・ラ・モードとは読みません! そんな読み方教えてません!」
けんいち「この拳で、友を救う!」
揺れる幸福「うぉぉぉぉぉぉ!」
揺れる幸福は、だいすけくんを殴りまくる。
揺れる幸福「プリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリ、プリィィィ!」
だいすけは、吹き飛んでいく。
だいすけ「ぐわぁぁ⁉︎」
先生「だいすけくぅぅぅぅん!」
けんいち「友を救えて、プリンも食べれる……最高の一日だぜっ」
視界がだんだんとボヤけていく。現実世界──けんいちは膝をついて俯いていた。先生は、必死にけんいちの肩を揺すっている。
先生「けんいちくん! しっかりして、けんいちくん!」
けんいち「……」
先生(どうなってるの⁉︎ けんいちくんの背後に現れた人がだいすけくんを殴ってから、けんいちくんが俯いて動かなくなった……! な、なにがどうなって……⁉︎)
だいすけ「くくくく……!
先生「だいすけくん! もしかして、あなたが……⁉︎」
だいすけ「くくくく……! 今ごろ、俺に勝ってプリンを美味しく食べている『夢』を見てるんじゃぁないかなぁ?」
先生「ゆ、夢……? も、もしかして……!」
だいすけ「幻術だよ。俺は『だいすけの呪い』って言ってるけどな」
先生「自分の名前がついた技をカッコいいと思ってしまう、まだまだあなたは小学生ね!」
先生「というか、こんなに騒いでるのに誰一人声をあげない……。みんなは、今なにを──」
生徒は皆、俯いてピクリとも動かなくなっている。
先生「み、みんな俯いてる……! もしかして……!」
だいすけ「安心しろよ、先生。俺がこの教室のプリンをぜーんぶ食ったら、みんなを解放してやるよ」
先生「だいすけくん! なんてことしてんの! あとで反省文だからね! 二枚書かせるからね!」
だいすけ「ところで、先生はなんで夢を見てないの?」
先生「え?」
だいすけ「おかしいなぁ? 俺は、この六年二組の教室全体に力を使ったはず。それなのに、なんで先生は夢を見てないの?」
先生「え? そ、それは……なんでなんだろうね? 大人だから?」
だいすけ「なるほど、大人は子どもと違って夢を見ない、と? ふふふ、大人って面白い生き物だねぇ……! 興味が湧いてきたよ」
先生「だ、だいすけくん?」
だいすけ「今はプリンよりも、先生のことが気になって気になって仕方ないや……!」
先生「ちょっ、だいすけくん? じりじりと近寄ってこないで。怖いんだけど」
だいすけ「怖がらないでください、先生」
先生「そのセリフが一番怖いんだよ! やめて! こないで!」
だいすけ「恐怖で震えている先生、かわいいですねぇ。ますます興味が湧いてきましたよ……!」
先生「六年生とは思えないオーラ出てるよ! セリフ言ってるよ! 威圧感半端ないよ! やめて、こないでぇぇぇぇ!」
だいすけ「やめません。先生は知っていますか? 子どもの好奇心って……!」
だいすけは、先生に顔をグイッと近づける。
だいすけ「底が、ないんですよ」
先生「いやぁぁぁぁぁぁ!」
けんいち「超がつくほどバカだってことも教えてやれよ」
先生「え?」
だいすけ「なっ⁉︎」
けんいち「歯ぁくいしばれ! だいすけぇぇぇぇ!」
だいすけ(くそっ! ガードが間に合わな──)
けんいちは、だいすけくんを殴り飛ばす。
けんいち「おらぁぁぁ!」
だいすけ「がばぶぅ⁉︎」
先生「けんいちくん!」
けんいち「ありがとう、先生。あんたが声をかけ続けてくれたから……諦めなかったから、僕は夢から覚めることができたよ」
先生「先生は肩揺すってただけだよ!」
だいすけ「く、くそがぁ……! こ、こんなところで……こんなところで、この俺様がぁ……! 俺様は、仲良し小学校のガキ大将なんだよ……! ガキ大将が、こんなところでぇ……!」
けんいち「だいすけくん、僕は残念だよ。こんなことになるなんてね」
だいすけ「け、けんいちぃ……! きさまぁ……!」
けんいち「今度は、君が夢を見る番だよ」
けんいちの背後に、揺れる幸福が現れる。
だいすけ「ちくしょうがぁぁぁぁ! 俺様は、こんなところで──」
けんいち「遅い!」
揺れる幸福は、だいすけを殴りまくる。
揺れる幸福「プリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリ!」
先生「いやぁぁぁ! めちゃプリプリ言いながらだいすけくんを殴ってる! もうやめてぇぇぇぇ!」
揺れる幸福「プリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリ!」
先生「プリプリ言いすぎよ! ポケモンのプリンもそんなにプリプリ言わないよ! あざとい女の子もそんなプリプリしないよ! やりすぎだよ、けんいちくん!」
揺れる幸福「プリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリプリ、プリィィィィィィィ!」
けんいちくん「地獄でプリンでも揺らしてな」
先生「決め台詞カッコ悪っ!」
けんいち「馬鹿野郎、だいすけくん……! プリン一つに、なにしてんだよ……!」
先生「君にも言えることだよ! そっくりそのままお返しするよ!」
けんいち「安心しろ、だいすけくん。プリンは君の分まで、僕が美味しく──」
教室に、咀嚼音が響く。
しょうへい「(プリンを美味しく食べる音)」
先生「な、なに、この音……?」
けんいち「な、なにぃぃぃ⁉︎ ど、どうなってやがるぅ! さっきまでここにあったプリンがぁ、なくなってやがる!」
しょうへい「プリンって、もしかしてこれのことかぁ~い?」
けんいち「こ、この声は!」
しょうへいは、教卓の上に座ってプリンを食べている。
しょうへい「ハロ~、けんいちくぅ~ん」
けんいち「しょ、しょうへいくん!」
先生「しょうへいくん⁉︎ 今日は風邪でお休みじゃなかったの⁉︎ ってか、教卓の上に座っちゃダメよ! 今すぐ降りなさい!」
けんいち「い、いつのまに、そこに……!」
しょうへい「いつのまに? 逆に聞くけど、いつから僕がいないって思ってたのぉ?」
けんいち「な、なにを言って……! 先生もさっき言ってただろ! お前は、今日は風邪で休みだって──」
しょうへい「あぁ、悲しい……僕はとっっっても悲しいよ、けんいちくぅぅ~ん! 友達である僕のことを忘れるなんてねぇぇ~!」
しょうへい「いつから? おバカな君に教えてあげるよぉ。僕は最初から、ずぅっっと君たちを見ていたよ」
けんいち「さ、最初から……? も、もしかして⁉︎」
しょうへい「僕は、一限目の時から、ずっとこの教室にいたよぉ~」
先生「しょうへいくん、嘘はダメよ! 嘘吐いちゃダメよ! あなた、いなかったでしょ! 小学生は平気な顔で嘘吐けるよね! 嘘はいけませんよ!」
しょうへい「へへへへ、君たちの友情が壊れていくのを見ながら食べるプリンは……さいっこうに美味しいねぇ! あぁ~んっ」
けんいち「しょうへい……貴様ぁぁ……!」
しょうへい「おバカなけんいちくんもやっと気づいたみたいだねぇ。これも、ぜぇぇんぶ僕の作戦。君たちを争わせて、ボロボロになったところを……ふふふ、あははははは!」
けんいち「許さねぇ……! しょうへい、てめぇだけは許さねぇぇ!」
しょうへい「あぁ~! 熱い! 熱いねぇ~! けんいちくん、とっっても熱いよ~! 英語で言うと、ホットだねぇぇ~!」
先生「昨日英語の授業で習った単語ね! 早速使いたくなったのね! ってか、早く教卓から降りなさい!」
しょうへい「ガキ大将がいなくなって、クラスの人気者もボロボロ。君たちにもう勝ち目はないよ。このクラスは『学級委員長』である僕が支配する……! ふふふ、あはははは~!」
けんいち「しょうへいぃぃぃぃぃぃ!」
先生「あんたたち、仲良くしなさぁぁぁぁぁぁい!」
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