フロム・ゼロ

@harupyon

第1話

 その日、私は珍しく病院の待合室の中にいた。頭が重くて吐き気がしたので、熱中症を疑い、お昼休みの時間を利用して来ていた。夏バテだろうとも思う。


 そこで待合室のテレビがお昼のニュースを伝え始めた。

 美しい女性が重い表情で声を発する。

 そのテレビの前を背の高い男性が占領して、美しいアナウンサーの顔がよく見えなくなる。

「一昨日の……」

 その時、隣にいた女性が抱っこしていた赤ちゃんが大きな声で泣き始めて、そのニュースを伝える女性の声と被さった。

「……三十歳男性が」

 赤ちゃんの泣き声がようやく収まる。

「雑居ビルの屋上から転落して死亡したとの報道を受けて、警視庁は事件と事故の両方で調べているとの続報が入りました。時間帯により目撃者が何人かいたが、その中の一人が、ビルの上に人影みたいなものを見たと言う目撃情報を受けたとのことです。その人影は長い髪の持ち主のようだったと言う証言もあり、引き続き両面から調べて行くとのことです。次に」

 私はそれを聞きながら重たい頭を椅子に傾けて、時間を気にしていた。

 時刻は十二時半。一時に会社に戻るためには、あと二十分ぐらいの余裕しかない。1分でも遅刻したくないのだ。お局の佐藤がうるさいから。

 私は閉じられた診察室のドアが開くのを今か今かと待っていた。

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