第38話 秋の深き頃
季節は進み、ついに11月下旬になった。俺が広島駅に配属されてからもう半年経ったのである。
市電に乗りながらそんなことを思っていると、すぐに広島駅に着く。
乗り過ごすわけには行かないのでそんな回想をやめ、定期券を見せて改札を出た。
普段通りの時間に広島駅の駅員室に入り、制服に着替えて会議室へと移動する。
そして普段通りミーティングを行い、今日のシフト表を確認する。今日は11時半〜13時の下り線メロディ立ち番を担当する。
それまでは先輩と協力しながら乗降確認の作業を行なっていく。
しかし作業をしていくと、あっという間に時間というものは過ぎ去っていくものだ。
11時になったので先輩に引き継いでもらい、俺は下り線の駅員室へと移動する。
駅員室の鍵をカードキーを使って開け、中に入ると現在本部から派遣されている三条さんが中にはいた。どうやら今月末で派遣は終わるらしく、本部に帰るとのこと。年末には別の方が本部からここに来るらしい。
特に話すことがないまま気まずい雰囲気になっていたが、どうやら三条さんの担当時間帯に来る最後の列車の接近放送が鳴っていたので駅員室を出て装置に向かっていった。
駅員室からだと微かにしか聞こえないのだが、メロディ自体は1.1コーラス扱ってからベルを長めに鳴らしていた。
そして帰ってきた三条さんは俺の近くまで来て、
「鍵どうぞ。ここから先よろしくお願いします。」
と俺に話しかけてきたので、
「了解です。業務お疲れ様でした。」
と声をかけると三条さんは駅員室を出て改札階へと歩いて行った。
ここから1時間半の間に当駅に来る列車は俺が捌くことになるので駅員室に備え付けの時刻表を見ながら時刻等を確認する。
そして次の列車の到着5分前になった時に外で接近メロディが鳴り響いているのを確認したので俺は制帽を被り、立ち番装置の鍵とカードキーをポケットに入れて駅員室を出る。
駅員室を出てドアを閉める時にちゃんと施錠するのも忘れてはいけない。あの中には機密事項のものもたくさんあるのだ。
ちゃんと鍵を閉めて装置に移動し、装置に鍵を刺す。
11月下旬になったのでいくら西の広島とはいえ、肌寒い風が肌に触れるたびに体が縮んでしまう。一応俺だって冬は雪がエグい富山で育ったんだから寒さへの耐性は比較的あるんだけどなぁ...
そう思っていると接近放送が流れ終わっていたので放送をかける。
「まもなく11番乗り場にみずほ号鹿児島中央行きが到着いたします。危ないので黄色い点字ブロックまでお下がりください。この列車は小倉・博多・久留米・熊本・終点鹿児島中央の順に停車いたします。次は小倉に止まります。列車は短い8両編成での到着です。自由席は1号車から3号車です。ご乗車のお客様は足元にご注意ください。」
と放送をかけ終えたらマイクのスイッチを切って、到着を知らせるベルを鳴らす。
けたたましいベルの音が広島駅に鳴り響く中、俺は岡山方面を注視していた。
そしてベルを鳴らし始めてから40秒ほど経つとほのかに青磁色に色づいている新幹線がホームに入ってきた。
このタイミングでベルを切ってもう1回放送をかける。
「お待たせいたしました。11番乗り場に到着の列車はみずほ号鹿児島中央行きです。次は小倉に止まります。」
放送をかけ終えたらマイクのスイッチを切って列車が完全に止まるのを待つ。
列車が所定の停車位置に止まったところで時刻を確認し、ホームドアを開ける。この列車は5秒早着...と。
『広島、広島です。 広島、広島です。ご乗車、ありがとうございました。』
「ご乗車ありがとうございました。広島、広島です。お降りの際は足元にご注意ください。この列車はみずほ号鹿児島中央行きです。次は小倉に止まります。」
と放送をかけ終えたら発車メロディのスイッチを稼働させる。
発車メロディが流れている間、乗降を確認しているととある乗客の方が俺に
「すみません。ここから厚狭まで行きたいんですけどどうしたらいいですか?」
と俺に聞いてきた。ちなみに厚狭駅は山口県にある各駅停車のこだま号しか停まらない新幹線駅だ。
「厚狭駅へ行かれる場合はこの後、あちらの12番乗り場に到着するこだま号をご利用ください。」
と返すと、感謝の意を示しながらその人は去っていった。そして時刻になっていたので発車メロディを止めてベルを短く鳴らす。
鳴らし終えるとマイクのスイッチを入れ、
「みずほ号ドア閉まります。安全よし。」
と放送をかけ、ITVの様子を確認し、安全を確認してからホームドアを閉める操作と乗降終了合図をかけるのを同時に行う。
そしてすぐに列車のドアも閉まり、戸締め灯が消滅した。
そしてドアが閉まった青磁色を薄く纏った新幹線はすぐに加速し、九州方面へと走り去っていった。
そしてITVをもう一度確認し、安全を確認して駅員室に戻った。
乗降自体はそこまで多くないけど質問があったので少しだけ疲れたなと思ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます