ロリータ・コスプレイヤー!異世界でゴスロリ令嬢として貴族生活を始めましたわ!

八戸三春

第一章

第1話

西園寺麗(さいおんじ れい)は、特別な日常を送っていたわけではない。普通の大学生で、普通の一人暮らしをしていた。だが、彼女には一つ、大きな特徴があった。それは、「ロリータ・コスプレイヤー」という異色の趣味を持っていることだ。


特に彼女は、常にゴスロリファッションに身を包んでいた。カラフルで繊細なレース、ふわりと広がるスカート、そして真っ黒なドレープの衣装。特に、レースやフリルが細部に施されたその衣装に、麗は愛着を持っていた。日々の大学生活を送りながらも、イベントがあるたびにその衣装を着て、コスプレイヤーとして活動していたのだ。


「今日もまた、いい一日だったなぁ」


麗は自室でゴスロリの衣装を脱ぎ、着替えながら思った。大学では特に目立つ存在ではなかったが、コスプレイベントに参加しているときの自分は、まるで別人だった。思い通りの衣装に身を包み、好きなキャラクターになりきって、他のコスプレイヤーたちと楽しい時間を過ごす。そのときだけは、現実世界の面倒くさいことから解放されて、心から楽しめる瞬間だった。


今日は久しぶりの大きなコスプレイベント。会場に着くと、すでにたくさんのコスプレイヤーたちが集まっており、活気に満ちていた。麗もその一員として、特にお気に入りの衣装でイベントに参加していた。ゴスロリの中でも、彼女が特に好きなデザインは、ヴィクトリア朝風のクラシックなものだった。フリル、リボン、レース――どれを取っても完璧に整えられたその衣装に、麗は心から満足していた。


「やっぱり、この服が一番落ち着くなぁ」


イベントは楽しく、あっという間に終わりの時間が迫っていた。麗は会場を歩き回りながら、ふと気づく。外はもう暗くなり始めており、寒さが増してきていた。


「そろそろ帰らないと」


そう思い、麗は出口に向かって歩き始めた。その時、何かが足元に引っかかり、麗は思いがけずバランスを崩して倒れそうになった。


「うわっ!」


慌てて手をついて倒れないようにしたものの、視界がぐるりと回り、足元がふわりと浮く感覚に包まれた。周りの音が遠くなり、麗は一瞬で意識を失った。


その後、麗が目を覚ましたのは、いつもとは全く違う場所だった。辺りは静かで、見慣れない建物が建ち並び、空の色も何か異常なほどに幻想的だった。思わず立ち上がろうとした麗は、自分の服装に気がつく。


「え? なんで、私はゴスロリの衣装を着てるんだ?」


ゴスロリの衣装はそのままに、麗は一瞬、何が起こったのか理解できなかった。振り返ると、身の回りには美しい風景が広がっている。そこは、どこか異世界のような雰囲気を漂わせていた。


「これって、夢? それとも……異世界?」


麗はしばらく呆然と立ち尽くし、状況を整理しようと試みる。心臓がドキドキと速く脈打ち、どこかで冷静でいなければならないことを感じた。


「でも、こんなことって現実にあるわけないよね。どうしてこんなところに……」


そのとき、麗の耳に微かな足音が聞こえてきた。振り返ると、そこには優雅な衣装をまとった人物が立っていた。年齢は不詳だが、その姿勢と物腰から、麗はその人物が単なる通行人ではないことを感じ取った。


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