第5話:芽吹く命と新たな仲間
「……ん?」
朝日が昇る頃、アルトは湖のほとりに立ち、昨日植えた種の様子を見に来た。そして、目を凝らすと——。
「芽が……出てる?」
乾ききった大地に小さな緑が顔を出していた。
「おおおおっ! やったぞ!!」
思わず叫ぶと、村人たちも駆け寄ってきた。
「本当だ……! 信じられん、砂漠に芽が出るなんて……」
「奇跡だ……いや、領主さまが起こした奇跡だ!」
村人たちは歓声を上げ、互いに抱き合って喜んだ。
「まあ、これで終わりじゃないけどな。作物を育てるにはまだまだやることがある」
アルトは冷静に言ったが、内心ではガッツポーズを取りたい気分だった。
(よし、順調だ……! これなら、この土地を本当にオアシスにできるかもしれない)
そんな彼の元に、突然、見知らぬ少女が現れた。
「ねえ、あんたがこの土地を変えたって噂の領主かい?」
その声はどこか気怠げで、だけど芯の強さを感じさせた。
振り向くと、そこには薄茶色のふわふわした耳をピクピク動かす、獣人の少女が立っていた。
「……獣人?」
アルトは驚いた。獣人は王都ではほとんど見かけない種族で、辺境に暮らしていることが多い。
少女は腰に手を当てながらニヤリと笑った。
「オイラはティナ。ここの噂を聞いて来たんよ。砂漠に湖ができたっち、ほんとかいな?」
彼女の話し方には独特のイントネーションがあった。
「……博多弁?」
「はかた……? なんそれ? ま、いいや! とりあえず、オイラにも水を分けてくれるっちゃ?」
ティナはそう言うと、アルトの前に手を差し出した。
「もちろん、いいぞ!」
アルトは湖の水を汲んで差し出すと、ティナは一気に飲み干した。
「……ぷはーっ! うまっ!! なんこれ、オアシスの水より澄んどるやん!」
彼女の目がキラキラと輝く。
「オイラ、この湖、気に入ったばい! ここに住ませてもらうっちゃ!」
「え、いや、そんな簡単に……」
「よろしく頼むばい、領主さん!」
まさかの展開にアルトは頭を抱えたが、村人たちはティナの明るさにすぐに打ち解けた。
こうして、砂漠の村に新たな仲間が加わることになった——。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます