#004 体はスライム

「それじゃあアーシはココで。今度おごる約束、忘れないでよ」

「今日はありがとね。それじゃあ」


 街に入り、別れる2人。このまま夕食を共にしたいところだが、ミュレーにはこれから、スライムの登録やクラス認定の手続きが待っている。


「あっ! ミュレーだ!!」

「おい見ろよ、おっぱいが3つに増えているぞ!!」

「ちょ、あんたたち!!」


 すれ違った子供たちがミュレーをからかう。この街は田舎ではあるが、そのぶん穏やかで貧困問題も深刻化していない。





『接続が切れたけど、何かあったのか?』

『な、何でもありません! ちょっとイタずら好きの子たちが』


 突然途切れる視界。外部の情報はご主人から供給されるものであり、動揺などで接続が切れてしまうようだ。やはり自力で周囲を確認する手段が欲しいところ。


『そうか。……これはおせっかいだが、たぶん彼らはご主人のことが"好きだから"カラかっているだけ。何かする必要はないが、生温かく見守ってやれ』

『えぇ!? そんなはずは……』


 もっと殺伐な世界も覚悟していたが、この世界は思いのほか穏やかだ。いや、たまたまこの街の領主が有能な人格者だっただけって可能性もあるが、ひとまず見える範囲は平和そのもの。すこし肩透かし感はあるが、戦争だの魔王だのって問題は無いに越したことはない。


『それより、話の続きだ』

『あぁ、はい。それでこの街の名は"バルタン"、アルフレド様が治める領地ですね』


 道すがら冒険者や街のことについて教わる。ちなみに街の四方の入り口には冒険者ギルドの支部があるものの、クラス認定などの手続きは今向かっている中央本部でしかおこなえない。


『なんだかエビ星人みたいな名前だな』

『はい? えっと、領主様の家名がタンシオールで、街や村は最後に領主様の家名を追加するって決まりがあるんですよ』

『なるほど、つまり領主が入れ替わってサンポール家が治めることになったら、街の名前はバルサンになるわけだ』

『そうです! やっぱりライムさんって、頭がいいんですね』


 ちなみにこの街、建築様式などは中世ベースのファンタジーゲームの世界に見えるものの、(魔法科学が発展しているのか)街路灯らしきものやガラス製品が散見される。さすがに現代とまではいかないが、生活水準は近代レベルのようだ。


『やはりスライム、というか魔物でここまで頭がいいのは珍しいのか?』

『そうですね~。かなり珍しいかと。でも、ありえなくはないと思いますよ』

『そうか、いちおう、流暢に会話できるってのは……』

『はい、内緒ですね!』


 体はスライム、頭脳は大人。その名はライム! ただし便利アイテムが無いのでマジで肉体面は役に立たない。……そうだ!!


『そういえば魔道具ってあるんだよな?』

『はい、こうして会話できているのも魔道具があってこそですね』


 ちなみに会話を成立させているのは<伝心の指輪>という魔道具の効果で、もちろん指輪以外の形状もあるのだが、形状以外にも違いはあり、本来はトランシーバーのように同様のアイテムを相手も使用していなければならないそうだ。そしてご主人が使っているのは吸い上げも出来る高機能タイプではあるものの、予算の都合で通信距離は短いものになってしまった。


『魔道具じゃなくてもいいから、それぞれの職人に知り合いはいないか?』

『あぁ、それなら何人か』


 こういう時、やはり人柄がいい人物は頼りになる。単純に日本と比べて世界が狭いって部分もあるが、半分引きこもりだった俺には眩しいやら煩わしいやら。


『俺を抱えながら戦うわけにもいかないだろうし、そのあたりの装備も整えていきたいな』


 個人的に異世界美少女(推測)に抱えられる生活は悪くないのだが、さすがに現状では要介護者すぎる。それこそ落とした衝撃でも死にかねない。ひとまず思いつく目標は…………①、知覚手段の確保。②、攻撃も含めて装備の拡充。③、スライムの体でも(貢献)できることを探すってところか。


『そうですね、明日にでも下見に…………あ、つきましたよ』


 到着したのは消防団のような施設。ここが『バルタン冒険者ギルド・本部』であり、ここでは持ち込まれる依頼の対応や、各種クラス認定などをおこなっている。酒場に併設されていて荒くれ者が集まっている場所をイメージしていたが、少なくとも本部は役所感が強い。


『それじゃあ手はずどおりに』

『はい!』




 いざ、冒険者ギルドに!!

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