「魔法少女を寝返らせたい!」と魔法少女を説得していたら、他の魔法少女が病んだかもしれない
猫野 ジム
第1話 ピンクの女の子と青の女の子
魔法少女。女の子なら小さな頃に憧れたこともあるだろう。それなら男からみればどういう存在なのだろうか?
俺の場合は『応援したくなる存在』だ。誰にその正体を明かすわけでもなく、誰も知らない場所で悪と戦う。
当然、褒められることもない。なんて健気なんだろう。
そんなわけで俺は魔法少女が好きだ。特に魔法少女アニメはよく見る。日曜の朝に放送しているようなものもいいけど、最近は深夜アニメとして放送されるものも多くなっている。
深夜アニメなだけあって、なかなかに種類があって面白い。重いストーリー性のもの、エロを前面に押し出しているもの、少女達の成長を描いているものなど、どれも応援したくなるような作品だ。
そして俺はまさに今、魔法少女アニメを見ている。ただしテレビではなく、現実として。
俺が今いる場所、それはとあるアニメで見ていた高校だ。どうしてそれが分かるかというと、右隣の席に主人公の魔法少女が座っているから。
どうやら俺はアニメの中へ転生してしまったようだ。
俺の席は五列あるうちの窓際の一番後ろ。前には五人ほど。教壇から見れば一番右奥ということになる。どうやら主人公席と呼ぶらしい。
(よりによってこの作品か……)
俺が転生したアニメ。それは可愛い魔法少女とは不釣り合いともいえる、重厚なストーリーで人気となっている作品だ。
突如として現れる怪異。それは時に人を襲い、時に街を破壊する。
そんな怪異に対抗できるのは魔法少女だけ。この街にも魔法少女がいて、人知れず戦っている。
魔法少女は一人だけじゃない。アニメでは四人いて、それぞれイメージカラーがある。
そして四人の中で中心的な存在、イメージカラーはピンクで名前は桜野(さくらの)桃華(とうか)。性格は明るくて素直。そんな子が隣の席に座っている。
主人公が赤じゃないところがいかにも魔法少女アニメっぽいな。
小柄でピンク髪のショートボブ。目鼻立ちがハッキリしていて可愛い。
モブといえば、実は俺もモブだったりする。このアニメ世界に転生したはいいものの、アニメに出てくるキャラクターではなかった。
完全に高校二年の俺として転生していたんだ。そもそも主人公は魔法少女だし。
「私、桜野桃華っていうんだ。せっかくお隣同士になったことだし、よろしくね!」
「あ、えっと、俺は一条(いちじょう)早真(そうま)です。よろしくお願いします」
ずっとテレビで観ていた存在に声をかけられて、つい慌ててしまった。目の前にいきなり推しのアイドルが現れたような感覚だ。
今は五月だけど俺は転校してきたことになっているらしい。
当然だけど、このアニメに俺は出演していない。なんかいきなり俺が知ってる展開じゃないんだけど大丈夫だろうか?
そして昼休みになったけど、転校してきたのが五月だというのが俺にとっては痛い。
クラス替えがあったとはいえ、五月にもなれば仲の良いグループ分けが済んでいるだろう。
そんな中に突っ込んでいくのは、俺の性格上ムリな話。というわけで望んでぼっち飯をすることに決めた。
学校でのぼっち飯といえば屋上だけど、まあ普通は出入り禁止になっているだろうな。教室は騒がしいし、どうしようか?
「ねえ一条くん、お昼ご飯はどうするの?」
「コンビニでパンを買って来てるんですけど、どこか人目につかない場所ってありますか?」
「敬語!? それに食堂があるから案内するよ!?」
魔法少女にツッコミをさせてしまった。自分で思ってる以上に緊張してるようだな、俺。
「そっか、一条くんは転校してきたばかりで、この学校のことよく分からないよね。案内も兼ねて一緒に食堂行こっか!」
「それは助かるけど、桜野さんはいつも誰かと一緒に過ごしてるんじゃないの?」
「うん、だから一条くんも一緒にどうかなって」
俺は知っている。普段から桜野さんは昼休みを他の魔法少女と過ごしているということを。
もちろんお互い魔法少女だということは本人達しか知らない。
ただ俺はアニメで観てたから知ってるってことだけど、言えないよなあ。
「あっ、
桜野さんが声をかけた女の子。165センチくらいのスラっとした高身長でサラサラな青髪ロングが綺麗な美人。ややつり目がちで瞳の色も青。常に冷静な行動を取り、感情の起伏は少なめ。
蒼月(そうげつ)氷奈(ひな)。彼女もまた魔法少女だ。イメージカラーは青。
桜野さんとは同じクラスで、公私ともに一番ともいえるパートナーだ。
なので自動的に俺とも同じクラスということになる。
「ああ……、今日転校してきた男子ね。私は別に構わないわ」
蒼月さんは少しだけ俺を見た後でそう返事をした。同席の許可はもらえたけど、俺に興味がないからどっちでもいいって感じだろうな。
アニメを観てそういう性格だと知ってるし、悪意はなさそうだから特に不快だとは思わない。
食堂はかなり広く、大きい窓から日差しが降り注ぎ、ちょっとした開放感を感じることができる。そしていくつものテーブル席が用意されており、たくさんの人で賑わっている。
空いているテーブルを見つけて座ろうとした時、桜野さんが慌てた様子で口を開く。
「一条くん、ごめん! 私達、急用を思い出したの。だから先に座って待っててくれるかな。必ず戻ってくるからね!」
桜野さんが申し訳なさそうな表情でそう言った。蒼月さんも「ごめんなさい」と後に続く。
そして二人が食堂から出て行ってしばらくすると、突然視界がモノクロのようになった。
これは怪異の気配を察知した魔法少女が、怪異と戦うため結界を張ったということだ。
その間は現実と全く別の世界になる。現実での時間は止まり、建物などの風景は同じだけど、人を含め生き物は存在しないので自由に戦える。
でもなぜか俺は動けている。転生特典か? いやいや、ただ危険に
気が付けば二人の姿はなかった。戦うなら広い場所だろうと、俺は校庭へと急いだ。
するとそこでは魔法少女に変身した二人が怪異と対峙していた。
イメージカラーを基調とした女の子らしい服装で、まさに魔法少女コスプレのようだ。
結界の中でも、魔法少女と怪異はハッキリと色づいて見える。
数メートルはあるだろう目玉から、下に向かって直接触手のようなものが垂れ下がっている生物が二人の魔法少女と対峙している。その異形はまさに怪異。
実はアニメの第一話に登場する怪異で、二人によって最初に倒される存在だ。
「私が攻撃するから桃華はいつもみたいに援護をお願い!」
「うん、分かった!」
そして桜野さんが指にはめた指輪から魔法弾を放つ。ピンク色をしたそれは、真っ直ぐに怪異へ向かう。
ところが触手によってかき消されてしまった。そこにすかさず蒼月さんが青いオーラをまとったパンチを喰らわせた。蒼月さんの攻撃方法は『打撃』だ。魔法少女なのに。
魔法弾に気を取られ『よそ見』をしていた目玉は、まともにパンチを喰らい全身が光り始めた。
「桃華、今よ!」
「うんっ!」
すると桜野さんは、片手で収まる大きさの白くて丸い宝石を取り出し、持っている手を前に突き出した。
するとそこに怪異が吸い込まれ、跡形もなく消え去った。
これにて怪異とのバトルは終了。魔法少女の勝利だ。第一話の内容と同じだった。俺が目撃しているということ以外は。
ただこのアニメはそんな平和なものじゃない。最終的に桜野さんはいなくなってしまう。死ぬとかじゃないけど、世界を救う代わりに一人、犠牲になってしまう。
なので俺がこのままモブでいれば、アニメの通りになるだろう。それを知ってて見過ごすことはできない。
今の俺にとってはこの世界が現実。そんなある意味バッドエンドな結末を変えようと、俺は考え始めるのだった。
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