木曜ドラマ 開 -kai-
明日葉叶
第1話 扉の先は
飲食店に置いて大事なことはおいしいものを作ること。
それより大事なことはとにかく作ること。
作ることをしなければ、それは誰にも評価を受けることはできないのだから。
憂鬱な朝を乗り越えて、自転車で街道を抜ける。いつもの酒屋の角を曲がり、最近出来た大型スーパーを通り越し、海を臨む先に俺の勤務先がある。
ラーメン食堂だるま。どこにでもある田舎の格安ラーメン店である。
店の前を左右に貫くバイパスを行きかう自動車に注意して、横断歩道を渡り、いつもの場所に自転車を止める。いつもの場所、そういったけど今日からはまた別の場所がいつもの場所になる。それまで止めておいた店脇だと、店から出る油分を含んだ煙が換気扇に流れる。そしてその油分が溜まって、重力に逆らえなくなり停めておいた自転車のサドルにへばりつく。見た目を具体的に言うなら、黒い吐き捨てたガム。もしは、スパイダーマンに出てくるシンビオート。触れれば何にでも張り付く。長時間立ち仕事で足が棒のようになっているのに、退勤時にそんなものを拭いたくはない。
ましてや、今、この店は苦境に立たされている。
ことの発端は三週間前。オーナーの立川さんが隣町の支店と当店の売り上げを比べて、ついに苦言を呈した。
「よし。もう、メニュー変えちゃおう。もっとおいしいものを作りさえすればきっとお客さんだって来るよ。俺もアイディア出すからさ」
この店に赴任してから半年が立っていた。
数年前にもあったというラーメン食堂だるま前原支店の店長の評判は最悪だった。
本店に無断でメニューを変えた上に、窓ガラスにはスモークを焚きとはおいしいものを作ること。
それより大事なことはとにかく作ること。
作ることをしなければ、それは誰にも評価を受けることはできないのだから。
憂鬱な朝を乗り越えて、自転車で街道を抜ける。いつもの酒屋の角を曲がり、最近出来た大型スーパーを通り越し、海を臨む先に俺の勤務先がある。
ラーメン食堂だるま。どこにでもある田舎の格安ラーメン店である。
店の前を左右に貫く国道を行きかう自動車に注意して、横断歩道を渡り、いつもの場所に自転車を止める。いつもの場所、そういったけど今日からはまた別の場所がいつもの場所になる。それまで止めておいた店脇だと、店から出る油分を含んだ煙が換気扇に流れる。そしてその油分が溜まって、重力に逆らえなくなり停めておいた自転車のサドルにへばりつく。見た目を具体的に言うなら、黒い吐き捨てたガム。もしは、スパイダーマンに出てくるシンビオート。触れれば何にでも張り付く。長時間立ち仕事で足が棒のようになっているのに、退勤時にそんなものを拭いたくはない。
ましてや、今、この店は苦境に立たされている。
ことの発端は三週間前。オーナーの立川さんが隣町の支店と当店の売り上げを比べて、ついに苦言を呈した。
「よし。もう、メニュー変えちゃおう。もっとおいしいものを作りさえすればきっとお客さんだって来るよ。俺もアイディア出すからさ」
この店に赴任してから半年が立っていた。
数年前にもあったというラーメン食堂だるま前原支店の店長の評判は最悪だった。
本店に無断でメニューを変えた上に、窓ガラスにはスモークガラスに変え、評判を聞きつけて来店した社長には傲慢な態度だったという。
そのせいもあって、復活したラーメン食堂だるま前原支店はオープン当初から閑古鳥が鳴いていた。
メニュー変更はてこ入れというわけだ。
この店を任されている以上、俺だってそのことを考えなかったわけじゃない。
でも、何をするにもこの辺境地にはそれを可能にする材料を定期的に仕入れるすべがなかった。
東北の田舎の、さらに田舎。店の前はオーシャンビューだが、それ以外何もない。しいて言うなら、店脇に戦時中使われていたとされる防空壕があり、そこから少し目線をそらせば、直線距離200メートルほど先にコメリが見える。ちなみに、その防空壕とコメリとの間は見事な田園風景だ。
大型スーパーが出来たのはここ数日の間の話だ。
それも、物資の配送はやっていないとのことだ。
頭を抱えていた。まじめに勤務して皿を割ってしまって、食器が減る。それはもちろん当然なのだが、そんなことを立川オーナーが認めるわけもない。何が言いたいのかというと、要するに立川オーナーは現場の声に耳を傾けない。立川オーナーの要求が通る従業員がこの店で生き残れる。たとえそれがどんなに現実からかけ離れていた机上の空論だったとしても……。
店の裏の勝手口に向かう。閑古鳥が鳴くような店でも仕事がないわけじゃない。いくらかでも麺が減り、それが乗っていたバットが六枚ほど重なっていた。
今じゃ業者もこの店を甘く見ていて、週に一度しか空きバットの回収に訪れない。
深いため息を一つ、ドアノブに手をかけて回す。
時刻は八時五十六分。ギリギリだけどそれでも間に合うのが悲しい。
タイムカードに手を伸ばしたのと、勝手口が再び開いたのは同時だった。
「おう、お疲れー」
聞きたくない声だった。
「お疲れ様です」
現場をろくに知らないオーナーを正直下に見ていた。現場も知らないくせに口だけはよく動く。その様を見て、実は本体はその唇なのではと考えたこともあった。
「ごめん、ちょっと時間ないんだけどさ、例のアレ作れる? てか作って」
例のアレ。それは三週間前のあの発言から生まれてしまった机上の空論。
「あれって……、あの玉ねぎを使ったやつですか?」
「そう。時間ならあったでしょ? 玉ねぎ、うまく花が咲いてくれればいいんだけど……」
店にある食材で、なるべく手間をかけずに、見た目重視のものを、低価格で作れ。遠巻きに言われたのがこのふわっとした内容だ。
「作れなくはないですけど……」あなたの想像したものと、俺が想像したものが一致しているとは限りませんよ? なんて言おうものなら、きっと眉間にしわが寄る。
「けど何?」
「なんでもありません」
「俺も暇じゃないんだから早くやってよね」
そうは言われたものの、今日来るなんて連絡はなかった。だからもちろん事前に仕込みなんて出来るわけもない。
おそらく本格的に作れば仕込みだけでも20分ほど要するだろう。
でも作らねば帰ってもらえない。
立川オーナーに聞こえないようにこっそりとまたため息を一つ、俺は身支度を済ませて厨房に立った。
玉ねぎをカットし、醤油と砂糖、みりんを加え一煮立ち。粗熱が取れたら冷蔵庫保存。これがその例のアレの仕込みの簡単な内容だ。今からそれを端折りながらやってみせる。もちろん味に保証はない。
開店前の掃除もある。その中でのこの作業だ。もちろん立川オーナーのご高説を聞きながら。
作業をする間、立川オーナーはずっとカウンター席でこちらを見ていた。
「ねぇ、まだ?」
「もう少しでできますんで、もう少しだけ待ってもらえますか?」
日々の勤務に加え立川オーナーの存在、ストレスが体に影を落とすことは必然。
行平鍋を持つ手が震えていた。
「何これ?」
完成したものを一口も食べずに立川オーナーが吐いたセリフがこれだ。
「こんなもののために俺はここまで来たの? ねぇ、バカにしてるの? 毎日毎日さ、こんなところに突っ立って給料もらえるとでも思ってんの?」
「いえ、でも今日オーナーが来るとは聞いていなかったもので」
「いいわけでしょ? こんなもん、本当はすぐ出来るんでしょ? でも結果がこれなんでしょ? ほんとありえない」
こんな風景はどの店も同じなのだろうか? だとしたらこういう時のうまい交わし方を教えてほしかった。
厨房が強制収容所に思えた。看守に対しての口答えは即、死につながる。
「向こうの店長だって笑ってるよ? 篠川に店長が務まるはずがないって……。もう辞めたら? 親に頭下げて実家帰ったら?」
「それは……」
息も出来ないほどの重い空気を感じていた。指先一つ動かすことができない重圧に指先が小刻みに揺れるのが、落とした視線の先に映った。
いつまでこれが続くんだ? 成立しない会話に費やす時間がない。開店まで気が付けば十分を切っていた。
「ったく……。これだから俺は……」
立川オーナーの声がしりすぼみになったので、視線を同じ方向に向けると、窓の向こうでお客さんが開店時間を伺うように店内をのぞき込んでいた。
「来週もう一度来るけど、そん時までに答えだしといてね」
解放の合図に心が歓喜した瞬間、一つの疑問が生まれた。
オーナーの言う答えとは、玉ねぎの件だろうか? それとも……。
いつ来るかわからない状況で仕込みをする。もちろん来なかった場合はそれは無駄になり廃棄することになる。そしてそれはそれで無駄になったとまた要りもしないご高説を聞かなければならない羽目になる。
長い勤務時間を終え、退勤するためにカードを切るともう二十二時を過ぎていた。
外に出ると月はちょうど真上に来ていて、月明りに海が輝いて見えた。
今日は一人で店を回すには忙しい日だった。頼んでいたもやしも使いきり、無理を承知で業者に頼み、事なきを得た。
一度だけ隣町の支店の店長に死ねといわれたことがある。考えないようにしてきたけど、そういう気分になるときもある。だからじゃないけど、少しだけ波の音が聞きたくなった。生命が誕生したのは海だ。たまにはその母なる海に甘えたくなった。
田舎の国道はこの時間はもはやほとんど車は通らない。それが余計に店の脇に存在する黒い洞穴を恐怖の名所に変える。何せ防空壕。大戦時、使用されたことがあると立札に書いてあった。
その街灯したの真っ黒な暗闇を視界の隅に置き、まっすぐ国道を突っ切る。
目の前にあるのはただただ黒い海水。暗闇、大きな波の音。聞きたいと思ったのは確かだけど、こうして来るとこの音で黄昏るほどロマンチックな雰囲気じゃなかった。
帰ろうと踵を返した時だ。湿った風にスマホが滑り、そのまま砂浜へと落としてしまったのは。最悪。ほんとうに心からそう思った。
自転車をガードレールに立てかけて、砂浜へ降りる小さな階段を遠く離れた街灯の頼りない光を頼りに降りていく。
暗闇に点滅するスマホに近づき、拾うのと急に画面が明るくなるのはほとんど同時だった。
見ると知らない非通知で電話がかかっていた。どうやら驚いた拍子で電話を取ってしまったらしい。
小さな声が途切れ途切れで通話口から聞こえる。
「……も、……もも……、もど……」
すぐそばを揺蕩う冷たい海の音か、それとも受話器からの音声なのか、大きな波の音がすぐ耳のそばでした。
「……なんだよ。気味の悪い」
自分を落ち着かせようとそんな強気な発言をしたものの、足は完全に浮足立ち、膝が笑い、うまく歩けない。
「も、もも……」通話口からは相変わらず薄気味の悪い声。
こんなところにいても、何も悩みは消えない。通話を切った瞬間、現れたのは設定しているはずの猫の画像ではなく古びた木製の時計の文字盤だった。
その文字盤は短針が右回りで、長針が左回りと支離滅裂な動きをしていた。
「なんだ、これは……?」
いやな感じがした。何かとてつもない何かに巻き込まれるような、自分の力ではどうしようもない森羅万象に巻き込まれるような……。
針は一秒増すごとに回転数を上げていく。まるでそれが何かの力の大きさをはかるように……。
大きな波の音がした。そして、何も見えなくなった。
赤い手すりの大きな眼鏡橋を古風な服装の人たちが往来する。
どうやらここは江戸らしく、地方からやってくる人が多いらしい。
ということはどうやら、そういうことらしい。
ついにストレスが限界値を超えたのだ。きっとこれは夢で、本当は今頃誰かが見つけてくれて病院のベッドの上にいるはずだ。
だからここ二日飲まず食わずで宿屋の物陰から周囲の観察をしていたけど、空腹感がない。
夢の世界なのだから、俺が通勤に使っていた自転車も、一緒に持ってきた荷物もある。すべてはあの日の記憶に通じる。
ともあれば、早いところ目を覚まさなくてはならない。そのはずなんだけど、どうせ夢ならば夢の中を探索してみたい。なにせこっちはストレスのあまり寝つきが悪い日々が続いていたのだから。
拾ったスマホの電源が付かないので時間はわからないけど、体感的には夜の九時くらいか。寒くもないし暑くもない。きっと季節は春から夏にかけてか。俺が一年を通して一番好きな時期だった。
とりあえず何かしてみようと、目が言った先は立ち食いの蕎麦屋だった。みすぼらしい格好の爺さんとその孫と思われる若い女が木製の土台を引き回している。
親の影響で時代劇を見てきたけど、うまいとこ名称が思いつかない。
立ち上がり、物陰からのっそり現れた俺に、二人は目を丸くした。
「なんだ、そ、そそそ、その珍妙ないでたち……」爺さんが土台を急に落とすものだから、乗っていた食器が盛大に踊った。
「珍妙って……」これまで見てきた夢の中には言語が出てこないケースが多かったけど、どうやら今回は相当重症らしい。
「でも、おとっつぁん、噂じゃ阿蘭陀から漢方医が来ているって話だよ……? いでたちは少し怪しいけど、もしかしたらそういう格好が向こうでは礼儀なんじゃない?」
そういう格好と言われて、思い出す。店の意向で全身黒ずくめだったということを。黒いTシャツに、黒いジーパン、黒い前掛けにそして黒い厨房用クロックス。いきなり暗闇からこんな黒い塊が出てきたら驚くのは当然か。
「あんた、腹、減ってんだろ?」すっかり腰が抜けてしまった爺さんをかばうように女が言う。あまりきれいではない着物から見える肌は色白で、月明りによく映えている。
「ま、まぁ。近くにコンビニもないみたいだし」
「「コンビニ……?」」
「え、……あぁ。そのお店っていうか」
「こんな時間にやってる店はうち位なもんだよ。ただ、今日はもううちも店じまいでね、よかったら明日おいでよ。あんた言葉通じるみたいだし、外国の話も聞いてみたい」
女の指は暗闇に潜む一軒の木造の平屋をさしていた。店名であろうか「藪」と書いてあるのがうっすらわかった。
次の日もまた夢が覚めることはなかった。
夢の中で起きてしまった。
それも見知らぬ土地の見知らぬ蕎麦屋で。
あの後、俺に帰る場所がないと察した二人の好意だった。
うちには何もないけど、雨風くらいはしのげるさ。そう言ってくれたのはまたしても彼女だった。
そして寝ぼけ眼で通された席で、今俺は温かいそばを目の前にしている。
一応自分の中で状況を確認する。あの二人の仲では、俺は阿蘭陀(オランダ)からきた外人で、どういうわけか帰る場所がない。そんな奴に飯までふるまおうとしている。
夢なのだから二人に恩義を感じる必要もないのだけど。
時刻は子の刻だそうで、ここの常連らしい街の商人たちが俺の恰好をみてはいぶかし気に席に着いた。
あの爺さんも俺の存在に慣れてきたのか、お手製のそばを俺に出してくれた。
具材はシンプルにネギのみ。だしが効いているようで、それを前に呼吸をするたびにかつおだしのいい香りが鼻腔をくすぐる。
夢ならば、夢の中を探索する。そう決めた俺は、一口麺を啜る。口に広がるのは素材本来の素朴な味わい。合成化学調味料などには頼らない、本物の味だった。
「どう? おいしい?」
「ふぉ、……ふぉいふぃでふ」
夢の中で数日を過ごし、ついに肉体が感覚に追いついたらしく、空腹を覚えていた。そこにあまり刺激の少ない優しい味わいだ。まずいわけがない。
「よかったらさ、もう一晩泊っていきなよ。ここ最近物騒だからね。あんたみたいに体のがっしりとした男に守ってもらいたいのよね」の彼女の一言に、常連客たちが一斉に自分の上腕二頭筋の確認をしだす。
「おとっつぁんを」と彼女が付け加えると、さっきまでの会話がなかったかのような振る舞いで再び常連客達はそばを啜りだした。
そんな時だ。思い出したくもない状況に陥ったのは。
「ここか……。民衆の間で太鼓判を押されている蕎麦屋とは。……その割にはずいぶんみすぼらしいのぅ」
「お、お代官様! これは何故このような店に」
「何、少しばかり興味がわいたものでな。江戸で一番うまい蕎麦屋。そう聞いては一度食してみたいと思っておったのじゃ」
江戸の民衆に次いで今度はお代官様の登場だ。もちろんイメージに違わず、あの黒い兜のようなものまでつけている徹底ぶりだ。俺の脳みその記憶のままだ。
もちろんきっとこれも夢なので、気にせずそばを間食した。
あとで何かしら手伝ってお代は勘弁してもらおう。
「……おい、親父。こやつは何奴じゃ? この珍妙ないでたち。江戸のものではないな」
「へい。そちらの蘭学者さんは昨日そこの宿屋で記憶をなくしてらっして」
「なぜ記憶をなくしておるのに、蘭学者と?」
「このお方は、様々な知識をお持ちなようで……。それにこのいでたち。蘭学者でなければなんでございましょう」
「うむ。しかし、儂が知っておる蘭学者にも似ても似つかぬが……」
「お代官様、お待ち同様でございます。こちらが藪自慢の一品でございます」
記憶だとお代官様は基本的に悪役だ。金には汚いし、女にも汚い。もしかしたらそれは創作の世界だけの話ではないのかもしれない。何せその町の権力者たるお代官様の話を遮る形で彼女が自慢のそばを提供したのだから。
「ほう、藪そばか。どれ」
彼女の言動に少しばかり怪訝な顔をした代官が、そばを目にしたとたん表情を変える。好物なのかもしれない。
「……おい親父。これのだしはなんだ?」
「へい。それは向いの乾物屋で仕入れました鰹節で丁寧にだしを取りまして……」
「かつお……。ほかには?」
「えと、他……でございますか?」
「これは曲がりなりにも江戸一番なのだろう? それではその辺の飯炊き女でも作れるではないか」
なぁ? とお代官とされる男が、両目のクマを揺らしながら顎をしゃくると、家臣たちが含み笑いをする。
「よし。明くる朝、儂がもう一度ここを訪ねよう。それまでに儂の舌を満足させるものを作って待っておれ。それが出来なくば、この店は明日から廃業。儂が真の江戸のそばをふるまおうではないか」
「し、しかし……」
「言い訳は無用じゃ。男子たるもの、生業に生きよ。そしてその任を全うせよ。殿のお言葉をよもや忘れたのではあるまいな?」
「……」
「では、また。行くぞ」
似ていた。あの立川オーナーに。
曖昧なものを欲しがるくせに、出したとたん口にもせず決めつけるところ。
無理難題を押し付けて、こっちの仕事を軽視するところ。
何かが切れた。そういうしか説明ができなかった。そうじゃなきゃ、この空気の中、テーブルにどんぶりを叩きつけるように置き、立ち上がらない。
そうじゃなきゃ、こんな面倒な状況で啖呵は切れない。
「さっきから聞いてればあんた、どこぞの俳優さんかは存じませんがね。一口も食わねぇくせに人の仕事に難癖付けやがって。てめぇこそ自分の生業に責任持ったらどうなんだ? お代官様? こんなところで油売ってねぇで雨風のしのげるぬるい環境で鉛筆でも握ってろ。そっちの方がよっぽどお似合いだ」
「何ぃ……」
「そんなに珍しいもん食いたきゃいつでもきやがれ。俺がいつでもつくってやるよ!」
「貴様、名は……」
「篠川雪男。ラーメン篠川の店主兼オーナーだ!」
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