第8話 転生者、領主と闘う
突然コウヤの足に『口』が浮きでて、苦しみの声をあげる
「あ…がはっ…俺様の腹…」
口がそう喋った直後、自分の腹に激痛が走る。その言葉と激痛の位置から先程殺された大男のものだと理解した
「悪いけど…僕はコリント君みたいに優しくないから、後で強制的に受け取ってもらうよ」
痛みに悶えていると、ニースはリーファの隠れている所にゆっくりと歩みよった。
痛みに耐えようと必死に口を噛みニースを止めようとするが、それはもう遅く草むらを探された
「……あれぇ?いない」
そして次の瞬間、近くの木に飛び移っていた獣化状態のリーファがコウヤを担いでさらに遠くへと逃げる
「ん?あー、やられたなぁ…」
ニースは小さくなっていくリーファをただ見つめることしかできなかった。
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「コウヤ君、どうしたの!?私、どうしたら…」
森から少し離れた所でコウヤを降ろし、先程のことについてリーファはコウヤに聞いた
「うぅ…足についてるこの口、潰してくれ…多分それで収まる」
「…わかった、ちょっと我慢して」
リーファは右手に持っている短剣で足についている口を突き刺した。
痛みだけのものとは違い、足から鮮血が噴き出すが、それと引き換えに腹を貫かれる痛みは消えた
「ぐっ…助かった…ありがとうリーファ…」
痛みのおかげでよく頭が冴える。
ここならすぐには見つからないだろう、一安心して今の状況を整理できる。
「アイツがニースだよな?明らかに人間じゃなかったけど何なんだあれ…」
「私もわからない…でも人の容姿に似てて、より数倍の筋肉がある。多分、鬼族(オーガ)だと思う」
鬼族という存在は初めて知ったが、
コリントも吸血鬼だったり、元の世界とは違う種族の奴らもいるのだろうと納得し、話を進めた
「俺が考える限りだとアイツの首に巻き付いてる骨?みたいなやつの力で嘘をつくことができなくなる。それと、さっきみたいに口を体につけることもできて、その口の言葉が体に痛みとして起きる。本当には起こってないみたいだけど」
その事を聞くと、彼女は目を瞑り必死に考え
しばらくしてから1つの作戦を思いついた
「なるほど…1つ、作戦を思いついた…けど、お互い死ぬリスクは全然ある。でも私にそこまでコウヤ君がする必用は…」
そう言いかけるリーファの口を止める
「ある。これは俺にも関係あることだし、アイツのせいで悲しむやつがいるとしたら見過ごすわけにはいかない」
「…………わかった。それじゃ作戦を伝えるね」
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リーファの作戦を聞いたコウヤは、決意を固めた表情で爆発するコートを引き締めた
「なるほど…そんな事を隠してたのか。」
「…うん、今までずっと隠し続けてきた嘘。これで1回限りだけどニースを欺く。それまで時間稼ぎをお願い。」
「わかった。任せてくれ」
そうして2人は別々の方向へ散らばっていく
再度森の中に入ると、夜の静けさのわりには明るく見え、お互いの位置を確認するのに好都合の環境だと感じた。
しばらく歩いて森の中心辺りへと辿りつくと、大声でニースを呼んだ。
「おい!俺はここにいるぞニース!」
暫くしてから、彼は森の奥の闇夜に紛れ、またその闇を払いのけるように自分が今いる場所へと歩いてきた
「君の方からまた来るなんて…驚いたよ」
そう言うとニースは微笑しながら首に手を置き、真っ直ぐとこちらを見つめた。
「…ここには本当に俺とお前だけだし武器も持ってない。試してもいいぞ」
ニースは首をさらけ出して、コウヤに確かめた
「………本当みたいだね、で、何で僕と二人きりに?」
「お前がなんで人を殺すのか知りたいんだ。」
そう言うとニースは変わらず笑顔で、その理由を当たり前かのように話し始めた
「僕は祖の『声』を取り込んだ。その日から『目の前の人間を殺せ』って聞こえて来るんだ。」
さらにニースは自分の首を触りながら続ける
「その過程で殺した奴の言葉を保管。その場で再現する。って能力に目覚めた。その言葉が一生消えずに頭の中で響き続けるって事にも。」
「つまり何がしたい?何で殺して言葉を?」
「僕がこの力を渡すことで永遠に沢山の言葉が君の中に残る。言葉なんてなければいい、世界なんて滅べばいい。と思う程に」
「………」
「つまり、君に祖と同じ思考を持ってもらいたいんだ!…世界を滅ぼすために!」
ニースはそう語るが、その言葉を聞いてコウヤは呆れ返った。
何年も生きてると、嘘をついている奴の顔色くらいわかるようになる。相手は真実を吐かせる癖に…とんだ皮肉だな。
「嘘つけ、俺には祖に会いたいってだけに見えるぞ。」
ニースの笑顔が消えた、人が変わったように見える。もしかしたら、これが素の彼なのかもしれないな
ニースは沈黙を破るように、そのまま喋り始めた
「…そうだ、僕は祖に会いたい…だけ…」
「…なんでそんな事のために」
「いいや、そのためなら何でもできる。この歪な形で、見た者が嘘をつけなくなる呪いを『鬼族の角』って認めてくれたのはあの人だけだから」
ニースは自分の首に纏わりついている物が鬼族の角だと明かした
彼の生まれて最初に見た光景は歪な角を憎たらしそうに見つめる親の顔だった。その角には不運なことに『嘘破(うそやぶり)』の魔法が組み込まれており、そのために会う者全員に気味悪がられ
家族からも迫害され、
鬼族の村からも追い出され、
死を受け入れようとしていた時に、祖が救ってくれた過去を思い出した。
鬼族に対する復讐心を共感してくれる者はその後もいたが、自分の歪な体を『認めてほしい』という気持ちに気付いてくれたのは一人だけだった。
そんな大切な人を取り戻すために彼は再度決意を固める
「…僕は鬼族であり祖の『口』を取り込んだ者、ニース。君には祖になってもらう。なんとしてでもね」
ニースは笑顔を止め、コウヤを見つめる
コウヤは最初から笑顔どころか焦った顔すらする暇はなかったが、今はただ目の前の敵を見つめ
「俺は祖にはならない。」
と一言告げた
「じゃあ、強引に行くしかないか。『祖ノ口』」
そう呟くと同時にコウヤの首筋に口が現れる
その口は『熱い』と叫んでおり
直後、体が炎に包まれるような感覚を感じる
「う…あ、熱っいぃ…裂ける…あが…あ」
当たり前だけどこれは『死』の感覚。もう二度と知り
たくないと思っていた痛みだ。
3回受けても耐えられる痛みじゃない
「大丈夫、自分で解けるようになるから。我慢して…」
その瞬間、背後の木から飛び降りて来たリーファがニースの頭目掛けて短剣を突き刺そうとする。
「獣化…知らない魔法だけど、魔道具を使ってるのかな。破壊したらどうなるの?」
いとも簡単に短剣を避けてそう質問する
「試してみれば…?この速さに追いつけたらだけどね」
獣化の力で目で追えない速さで動き続け、
ヒット&アウェイの要領で攻撃を与え続けた
しかしニースを仕留められると思った瞬間、突然
「あなただけでも逃げテ」
と彼の頬に出現した口から知らない女の声がする。
リーファは明らかに動きが鈍くなった
鬼族であるニースは隙を狙って殴るが、なんとか獣化の力で一命は取り留めており、ニースは話し始めた
「君の顔見て気づいたよ、ベール村で逃げた子だよね?仇を討ちに来たのかな?」
「…!!」
「だとしたら虫が良すぎる!君はさ、ただ自分の命欲しさのために親を見捨てただけだからね?」
その言葉でリーファの顔は絶望に満ちた表情になる
「それで頼れる人もいないまま冒険者なんてしてるわけ?君が殺しただけでしょ。お母さんも君が消えた後は『痛い』しか言ってなかったよ?」
やがてリーファの顔は涙と冷や汗で覆われていった
「君がすべきだったのは、あの時大好きだったお母さんを逃がすために変わりに自分が…」
「わ、私が死……」
そこで、コウヤは叫んだ
「やめろ!!!!」
声は森にすぐに吸収されてしまったが、二人を黙らせるには十分だった。
その後も炎で焼かれる痛みに耐えながら言葉を続ける
「リーファのせいじゃない!そんな言葉に騙されるな!頼れる奴がいなかったならこれから俺を頼ってくれればいい!母親が最期まで命を懸けて生かしてくれた命を…『死ねば良かった』なんて言わないでくれ…」
「………わかった。ごめんね」
その言葉を聞いたリーファは、涙を止めて覚悟を決め、ただ復讐のためだけに短剣を刺した。
ニースの肩に刺し傷を作り大量出血をさせることに成功しだが、その一瞬の隙を突かれて左手にはめていた指輪を取られる
「これ、ずっとチラチラ見てたけど魔道具なのかな?これを壊せばいいってことかな?」
「…返せ!」
その言葉を無視して指輪を握り潰し、リーファを殴り飛ばした。
「確か気絶すれば魔法は解けるんだよね?ああ、でも殺しておけばよかったかな」
「クソが…」
殺さなかったことを悔やみながらもゆっくりと
ニースはこちらに近づいてくる、その一瞬。
力を渡そうとする直前にある1つの可能性を思いついた
この魔法、等価交換できるんじゃないか?
そう仮説を立て、体が焼けるような感覚の中、なんとか革袋を外し、自分の首筋についている口を勝手に流れ出す魔力で包む
すると_______
「力が湧いてくる…身体能力が向上してるような…魔法か。魔法を変えたら当然魔法になるか」
首筋の口は消え炎のような痛みの変わりに全身から力が湧き出る魔法に等価交換された
「あれ、魔法が消えたの?…何で?」
コウヤは困惑している隙をついて目にも留まらぬ速さでニースの首を殴り、角を粉々に破壊した。
ニースは少し嗚咽を漏らしたが、ただ1つの目的のためにすぐに体を持ち直す
「もう嘘を見破ることはできねーだろ……」
俺があたかも追い詰めたように見せかけているが、上がった身体能力に元の体が追いつけず常時全身に激痛が走っている。
等価交換だからある程度の痛みも予想するべきだった
「…もしかして魔法を入れ替えた?でもそんな魔法…ああ、転生者は特殊魔法を持ってるんだっけ。」
ニースは吐いた血を袖で拭きながらコウヤの特殊魔法の推理をする。
魔物であることを隠して領主に登り詰める程秀才な彼にとって答えに辿り着くのはそう難しいことではなかった
「入れ替えるとしても何でそんな魔法を…いや、もしかして…そうだとしたら同じ価値…?『等価交換』の魔法かな?」
「どうだろうな、だとしたらお前に何か出来るのか?」
「もちろん」
ニースはそのような事を言いながらも、鬼族が持つ元々の身体能力でコウヤを殴る
しかし、気絶させる気で殴っても身体強化の魔法でコウヤは耐える。
目に閃光が飛び散ったような感覚を覚えるが、死の痛みに比べたらどうってことはない。
「いっ…〜〜祖を殴っていいのか?死んでたかもしれねえのに」
「…なる気はないって言ってたから、気絶させてでも強制的にね。それに力の加減は君より知ってるよ、これでも鬼族なんだ」
「へえ、ちょっとまずいかな…」
ニースが手加減さらに考えもしなかった不幸がコウヤを襲う
「…?…体が…ぐっ…」
突如、自身の体に莫大な疲労感がのしかかってきた。
また、先程までかかっていた魔法も消えている。
「当たり前だろ?考えに入ってないみたいだけど…君は『祖ノ口』を解く時どうしたの?」
「…!」
ニースにそう言われやっと気づいた。身体能力の魔法が解け、その疲れがきたのだ。
俺は口の魔法を解く時にリーファに口を潰して貰っていた。つまり攻撃を受けることで勝手に解除される魔法
等価交換はそこまで同じなのかと驚くしかないな
「別にさ…君が僕を殺すならいいんだ。力の渡し方としてはそれが理想的だからね。」
「はぁ…はぁ……うぷっ…俺がやっても意味がないんだよ…!」
「だろうね」
ニースはそう言って今度こそ力を受け渡そうとするが
俺は心の中でやっと笑みを浮かべた
ついに、この男を欺いた。
そう、時間稼ぎが成功したのだ
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