夏休み明け、貧血

東山 昭静

夏休み明け、貧血

「えーっと夏休みに入る前に、先生と3つほど約束をしたんですけど、覚えてる人!」


いるわけねえだろ、そんなやつ。さっきまでコソコソ話してた奴らも黙ってなんとも言えない顔で下を向いている。


にしても暑い。この暑さで体育館にこの人数は本当に頭がおかしいと思う。背中を流れる汗がシャツを濡らしている気がする。


あ〜眠い。始業式とか要らない。必要ない。どうしてこんな毎年毎年似たようなことしか言われないのに、絶対必要ない。


バタッ


「え、大丈夫?大丈夫?」


誰か倒れたらしい。俺の方からはよく見えないが、心配しているのかなんなのかよく分からない声だけが聞こえる。


「あら、そこ、大丈夫かな」


倒れている人に対してかける言葉ではない。大丈夫なわけが無いだろう。


校長先生がそう言ったことで余計みんながそちらを向く。


あーあいつか。


倒れていたのは俺の幼稚園からの幼なじみだった。


「先生!そいつ貧血だと思います!」


声を張り上げたので周りの人間が俺を見たがそんなことはどうでもよかった。


「うん、ゆっくりでいいからね、立てる?」


教えてあげたのに先生たちは何も返事をしてくれなかった。「ありがとう」くらいは言って欲しかった。


あいつは身体が弱くて貧血なりなんなりすぐ引き起こしてすぐ倒れる。俺はその辺をよく知っている。


あいつの担任と保健室の先生くらいは把握していると思っていたのだが、2人は少し動揺しているように見える。


手が若干震える。あいつは立てないらしく、俺の担任におんぶされているらしかった。しんどそうな顔が見えて、呼吸が早くなる。


「はい、皆さん、大丈夫ですので、こっちを向いてください」


あいつやお前は大丈夫でも俺は大丈夫じゃない。あ〜早くこんな式終わってしまえ。早く。


元々聞いていなかった校長先生の話は、とうとう耳に入らなくなった。なんなら視界が狭まったようで、周りの人間が誰なのかよく分からない。全部暑いのが悪い。それでも俺が倒れることは無いのだ。


始業式が終わり、ダラダラクラスごとに解散していく中を突っ切って保健室に向かった。


「あ、具合、どう」


「え、あ〜うん、さっきよりは」


「そっか」


「俺慣れないわ」


「毎回ごめんね」


「謝らないでよ」


「じゃあ、泣かないでよ」


「だって俺、トラウマだから、お前俺と遊んでる時に倒れたのが忘れられないんだよ」


「大丈夫だって、僕あの時ほどヤワじゃないよ」


「分かってるよ。でも怖いものは怖いし、だって今日も倒れてたじゃん。何があの時と違うんだよ」


「こうやって心配して来てくれるのめっちゃ嬉しい」


「ちゃんと薬飲んだ?」


「うーん、どうだったかな」


「だから倒れるんだよ」


「そうだね、ごめんね」


「謝らないでってば」


「うん、じゃあなんて言えばいいのw」


「俺もわからんww」


柔らかい涼しい風が吹いた。


俺は1時間授業をサボった。

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夏休み明け、貧血 東山 昭静 @nagisyous

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